第186話 アーベル地下ダンジョンへ
アーベルダンジョン第1階層────
ダンジョンに潜る階段はいくつかあるが、クラウディたちは先日少女が潜った所から降り、ダンジョン内へと入った。
第1階層には他にも別のパーティがいくらか見える。少女は今回は1人でないため、続くように進んでいった。
「久々にダンジョン来たなぁ」
アイラが辺りを見渡しながら言う。彼女の格好はいつも通り布面積の少ない装備であるため他パーティ、特に男性からの視線を集めているようだった。ただ『闘神アイラ』を知っている者が多いのか近づいてくるものはいない。
当の本人は全く気にしていないが。
「ダンジョンは他にどこがあるんだ?」
クラウディがアイラに尋ねる。
「私が潜ったのは王都の反対側の大山脈を超えた『フェルニッツダンジョン』ってとこだ。私の『ライアク』もそこで手に入れたんだ」
どうやって手に入れたのか聞くと使っていたユニークモンスターを倒して奪ったと嬉々として答える戦士。軽い言い方であるがあの大斧を見る感じ相当な相手なはずだったのではないか?
「難しかったのか?」
「まあそれなりに……私はライアクと出会ってからは攻略やめちまったから後のことは知らねーけど」
聞きたい事と少しずれてしまったがまあいいかと後ろを歩くカイザックに目をやった。彼は弓を背に担ぎ、後衛を担ってくれるようだった。
「カイザックは何か知ってるか?」
「ん~?ダンジョンはいくつも発生しているさ。ここは割と新しいが、難関ダンジョンの一つと言われてるぞ。誰も攻略出来てないしな」
色々スッキリしているカイザックは機嫌良く答えた。
一行はクラウディが地図を見ながら進んでいくが、前のパーティと順路は被っており見なくても良いなと思い始めていた。
モンスターも前のパーティがいくらか戦っており、遭遇したのは少し前に横道から出てきたスライム一体だけだった。
そのまま前のパーティに続いて2階層へと降りて行く。
クラウディは前パーティが嫌がるかと思い、少し時間を空けたが後から後から別パーティがくるので、2階層はわざと少し遠回りな順路を選んだ。ソロで来た時の順路だ。
「別に気にしなくても良いんじゃね?」
「楽してると思われたくないだろ」
アイラが気にするなと言うが、そうは言っても何も考えずについて行って後からイチャモンでもつけられたらたまったものではない。少しでもそういうリスクを減らしたかった少女はそのまま迂回して進んでいった。
流石に別パーティの姿はなく、いくらかモンスターとも遭遇する。
しかしやはり仮面の呪いがなくなったおかげか、3階層の階段まで出会したのは4体だけだった。
「今日はどこまで潜るんだ?」
3階層の階段で休憩しているとカイザックがタバコをふかしながら尋ねた。
ダンジョンに来る前の本通りの出店で地図は買ったが、意外にも高くて4と5階層の分しか買っていない。この2枚で10万という値段だ。あとのものはもっと高かった。
「6階層まで取り敢えず降りる。もし行けそうならそのまま進む」
「途中で帰ったりしねーの?風呂とか」
「甘々戦士だな相変わらず」
カイザックがため息をつく。タバコの煙が女戦士にかかった。
「ゴッホ!あ?やんのかこら?」
アイラの気持ちもわかるが、情報屋が言うのはもっともだろう。期日があるのだから一々帰ってられない。進めなくなればその時点で帰ればいい。
自分たちにはインベントリもあるのだから食料などには困らないはずだ。身体の清潔なんて二の次である。
第3階層────
この階まで降りてくるとおそらく低ランクだろうパーティはちらほらと引き返す姿が見えた。それでも前をいくパーティは幾らかおり、再び迂回して回った。
途中でスケルトンが2体出てくる。クラウディが戦おうとしたが、アイラが暇だからと大斧を手に前に出た。
倒し方を伝えようとするものの、彼女は武器の平らな部分で押しつぶすように叩きつけた。スケルトンはあっという間に粉々になり2度と起きては来なかった。
「……」
敵は素早く動くものではないが、まるで枝でも折るように簡単に倒す戦士に倒し方を教えるなど無用だったなと、何も言えなくなる少女。
「つまんねー行こうぜ」
アイラは武器を背中に背負い直し先を進んでいった。胸中を察したのかカイザックが肩を叩くが、余計なお世話だと少女は手を払い除けた。
4階層の階段までにグールとスケルトンがまた数体出てきたがクラウディやカイザックが出る間もなくアイラが叩きのめして行った。
────俺の努力は一体……
虚しい気持ちになりながらも、頼もしいなと認めざるを得ない。これが実質Sと言われるAランクなのだ。
そして階段近くの通路へと来た時にクラウディは辺りを見渡した。
「どうした?クロー」
「あ、いや」
「死体ならもう回収屋が回収したぜ?」
カイザックがクラウディが気にしていることをさらりと言った。辺りにはモンスターの残骸はなく、青年が倒れていたところに僅かに血痕が残っているだけだった。
「なに死体って?スケルトン?」
ボンズたちの事は伝えてないのでアイラが首を傾げる。
「新人冒険者の死体さ。まだEランクなのに連れ出されたんだろ。大方囮にでもされたのさ」
「……ああ、たまになんかそう言う卑怯なやついたな。私が潜った時もいたわ。胸クソ悪りぃよな。クローはそういうのに遭遇したのか?」
「まあ、どうだろうな……」
「……?」
実際のところはわからない。新人冒険者が囮にされた場面を確認したわけでなく、あくまでも憶測なのだから。
────俺が気にすることじゃないか
少女は先を急ごうと仲間に言い、先頭を歩いて行った。




