第179話 マティアスと遭遇①
「君もここに来ていたなんてね」
「ああ、行き先をお互い知ってたら一緒に行ったんだが……」
クラウディはマティアスと出会ったあとは3階層の階段へ戻り上の段で休んでいた。彼らは疲弊した少女を見てついて来てくれていた。
「なぁ、誰なんだよこいつ」
盗賊らしき露出の多い女がマティアスに耳打ちする。聞こえていた少女は顔を向けた。マティアスの側にいる女盗賊の髪は短い金髪で額にバンダナを巻いている。やや吊り目であるが顔のパーツは割と整っていた。
「この人はクロー。あのアイラのパーティメンバーだ」
それを聞いて女盗賊と犬人間はクラウディから距離をとった。
「あの『闘神アイラ』の……こいつだったのかよ」
「んふーぶふ、アウッ!」
犬人間が驚きのあまり興奮して四つん這いになり犬語を喋る。
「軽く自己紹介いいかな?」
マティアスが手を叩き提案する。クラウディは正直早く帰りたかったが、着いて来てくれたので無碍には出来ず頷いた。
「俺は知ってるだろうけどマティアス。Aランク。職業は『グラディエーター』だ。俺の後ろにいるのが魔法使いのラミー。Bランク」
紹介されたラミーはぺこりと頭を下げた。それを見て続けるマティアス。
「で、そこの壁に張り付いてるのがシーフのターナ。同じくBランク」
クラウディは反対の壁まで離れて張り付いている女盗賊を見た。彼女は視線に気づくと苦笑いして手を振った。
「で、そこの犬が────」
「犬いうな!犬人族だ」
冗談混じりの発言に犬人族は杖を振り上げた。まだ少し興奮様で鼻息が荒い。
「はは、彼は僧侶のブラウン。同じくBランクだ」
笑いながらマティアスが紹介すると鼻を鳴らした。
そしてクラウディに視線が集まる。
────はやく帰りたい……
「俺はクロー……。職業は『剣士』。Cランクだ」
それだけ言うと彼らは顔を見合わせた。
「Cランクって……てっきりマティアスと同じAランクかと思った……4階層をCランクがソロって……普通じゃねーよ」
ターナは驚きで開いた口が塞がっていない。
「よく生きてた、どこか痛いか?回復してやろうか?」
ようやく落ち着いたブラウンが鼻をひくつかせながら側にくる。クラウディはそれならと手首を差し出した。いくらか切傷があるが、大した傷ではないので低級ポーションをケチって放置していたのだ。
「『ヒール』」
手をかざして唱えるとあっという間に綺麗になる。人間のものに犬の毛皮がくっついた様な手を見て凝視する少女。おとぎ話でしか見たことはない見た目にかなり興味が湧いた。
「ブラウン……だったか?少し触ってもいいか?」
「触る?俺が珍しい?」
「ああ、田舎者でな……初めて見る」
「別にいいけど、血みどろの服やだなぁ……」
クラウディはそんなことは無視して、それでは失礼と呟き、彼の首元に抱きついた。そのままわしゃわしゃと撫でる。
────犬だ。犬の感触……
その様子を見てラミーが吹き出した。
「ぶっ!!あはは!あはははは!」
「ど、どうしたラミー?!大丈夫か?」
急に笑い出す仲間を見てターナが心配そうに側に行った。
「だって、さっきまですごい戦ってたのに、怖かったのに見てあれ!犬に抱きついてるから、あははは!!」
「さすがにしつ、しつ……ぷっ!!」
「誰が犬だ!犬人族だ!!」
笑う2人にブラウンは杖を振り上げて殴る動作をした。クラウディはそんなに可笑しいかと首を傾げて犬人族を離した、が、尻尾が仕切りに動くので掴んで撫でた。
「お前!もういいだろ離せ!」
ブラウンは少女の手を払いのけマティアスの側に移動した。
悪いことしたなと頭を掻くクラウディ。
一連の流れを見てマティアスは微笑んでいたが、真顔になると仮面の冒険者に口を開いた。
「クロー。いくら初心者って言ってもソロでしかもCランクが4階層なんてどうかと思う。余計なお節介かもしれないが、余程馬鹿じゃなければ2階層、よくて3階層だと思うが?」
「…………」
少女はよく考えてるなと思いながら、先の事件を話そうとした。しかし、よくよく考えてどうしたものかと首を撫でた。
────下手したら冒険者殺しとか思われないか?
そう思うと、ボンズらに襲われそうになったことや彼らの全滅など話しても良いものかと躊躇われる。だが、目の前のAランク冒険者からは嫌な感じは受けないし、まずは話を聞いてはくれそうだ。
それにどのみちボンズパーティの全滅は知られるだろうし、マティアスらに見つかった時点で話さなくても疑われるのは目に見えていた。
「実は────」
クラウディは結局ボンズパーティについて憶測も交えて話した。新人が囮にされて死んだことと、残りのメンバーの様子を見に4階層に降りたら巻き込まれたこと。ボンズとダニエルが襲って来て出会したオーガに殺されたこと。
流石に犯されそうになったことは適当に濁した。




