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第18話 Cランク冒険者ログナク







その日クタクタだったクラウディは納屋へ着くと倒れ込み、返り血も落とさずそのまま眠った。







「うぉおおい?!」


クラウディは次の日突然の男の悲鳴に目が覚めた。


「大丈夫か?!」


眠い目を擦って確認すると宿屋の店主だった。


「なんだ、何かあったのか?」


「それはこっちのセリフだ!これ血だよな?!」


むくりと起き上がるとクラウディは自分の体を見渡した。昨日のうさぎの返り血で服はところどころ汚れていた。もっとも血は乾き切って赤黒く変色していて生臭い匂いが鼻をつく。


店主は納屋の扉が開いたままだったので様子を見に来ていた。彼女は店主に経緯を話すと驚いた表情をされたが、取り敢えず綺麗にしてくるよう言われ、湯浴び場へ向かった。


昼前の湯浴び場は女性が中心に入っているらしく、男が入ってこないよう見張りとして何人かの女性が外で待機していた。


「男の子はこの後きてね」


そう言われて入れなかったのでクラウディは仕方なくローランドルの外に出て昨日の森の小川に向かった。


一刻も早く洗いたかったし、元男の少女は他の女性とは入れず、かと言って女の身体として他の男とは入れなかった。


────また入りたければ深夜だな


入り口よりは少し入ったところが何とか浸かれるよう広くなっており、辺りの危険が無いことを確認して、そこで服を脱ぎゆっくりと入った。昨日の戦闘があったところまで行けばもっと広く伸び伸びと出来たが少し遠いし、他のモンスターに遭遇するかもしれなかった。


草の背が高いので遠目からでもここに誰かがいるのはわからないだろう。


「っ……」


冷たい水に息を呑みながらなんとか浸かり慣らすと体を洗った。そのまま汚れた服もできるだけ綺麗にした。


インベントリから着替えを取り出し着替える。サラシもしっかりと巻きつけた。


着替えはフロレンスの古着が何着かともう2着似たような旅人の服を作ってくれていた。


────フロレンスには感謝だな


少女は再びローランドルへ戻り、納屋に服を干すとギルドへ向かった。







「あら、いらっしゃい。達成報酬来てるわよ」


ギルドの受け付け嬢のルビアが、少女が来るとにこやかに笑った。今日は手が空いているらしくあくびをする姿が目に入った。そしてカウンターの下から報酬を取り出す。


「はいこれと……これ」


少女は報酬の銭袋をを胸ポケットにしまい、もう一つの報酬を手に取った。


「指輪?」


それは小さな指輪だった。赤い宝石が輝いている。


「鑑定士を見つけたら見てもらうといいわ、あのスコットが珍しく上機嫌だったし、もしかしたらマジックアイテムかも」


ただの指輪にしか見えないが、クラウディは頷いた。


「で、なんかしたの?あのスコットは偏屈で有名なんだけど」


「スコットの報告の通りだろ?」


「…………まあいいけど」


少女は、そういえばあのドワーフのことは何も知らないなと思いどういう人物なのか受け付け嬢に聞いてみた。


「あなた普通最初に聞くことでしょ」


呆れたふうにいうルビアだが、まあいいわと説明を始めた。


ドワーフのスコットは50年くらい前からローランドルにいるそうで、遠くから客が来るほど腕はかなりいいらしいが気に入った者にしか物は売らないそう。


話し方もぶっきらぼうで頑固。そんなだから客と揉めることも多々あるそうだ。


────そんな感じではなかったが


少女はギルドを出た後首を傾げたが、もしかしたら最初から女だとバレていて何か思うことがあったのかもしれないと勝手に納得する。


彼女はギルドが出しているモンスターの討伐依頼書を取り出した。


あの話の後受けた依頼だった。


バッドラッターの討伐依頼────


バッドラッター5匹の討伐 報酬5000ユーン

場所 ローランドル南部の排水施設周辺

期限 実害収まるまで

受注可能ランク F~

適切ランク F~E

※親個体討伐で追加報酬あり


────────


────ラッター?ネズミか?所詮はネズミだろ


そのまま出発しようと足を向けたが、『情報収集は酒場がベターよ』とルビアの言葉が頭によぎり、地図を取り出して酒場へと向かった。


酒場はギルドの近くにあった。西部劇で出て来そうな木造の酒場。子樽ジョッキにビールのような液体が注がれている絵が大きく描かれている看板が目立つ。


中からは賑やかな話し声が騒がしいほど漏れていた。


人混みが嫌いな元男は躊躇ったが、情報収集は大事だとため息をついて両開きの扉を開けて入った。


────うるさいな


入った瞬間に誰かが歌う声や笑い声、怒鳴り声などが耳に押し寄せた。忙しそうなウェイターや動き回るごろつきを避けながら空いているカウンター席に座る。


「坊主も冒険者か?注文は何にする?」


「ああっと……おすすめを」


「じゃあ200ユーンな。────小せえのに酒が行ける口か?待ってな」


────え、さけ?


「あ、ちょ酒は……」


元男は日本にいた頃はてんで酒がダメだったのでキャンセルしようとしたが、店員はささっと金を受け取ってジョッキに看板と同じ液体を注いだ。


元男の目の前にドンと置く。液体は泡立ち、黄色い液体が徐々に増えていく。軽く匂いを嗅いだが、アルコールの強い匂いがした。


────うっ、飲めないなこれは


「あ、おまえ新人じゃねーか。なんだ情報収集か?ラビラビは倒したのか?」


目の前の酒を持って見つめていると隣に座っていた男性が少女に話しかけた。


「ああ悪いな。誰かわかんねーか」


眉間に皺を寄せて怪訝な表情をする新人に酒によってすでに出来上がっている男は笑った。


「昨日一応会ってんだがまあいいか。俺はログナク。Cランク冒険者だ」


クラウディはじっと彼を見た。中年齢くらいの細身な男性。コケた頬が特徴で髪は茶色で短い。腰には剣、背中には中盾を装備している。ところどころ服は汚れており、クエスト達成後なのだろう。


「お前は?」


「クロー」


ログナクに名前を聞かれてクラウディは今度は偽名を答えた。


「ラビラビは倒した。今度はバッドラッターを倒しにいくんだがどんなやつか知らなくてな」


言うと反対側の冒険者がぶふっと吹き出すのが聞こえた。反対側に目をやるとスキンヘッドの中年齢の男性がカウンターを笑いながら叩いている。酔っているのか顔が赤い。


「だはは!バッドラッターてラビラビと同じくらいクソ雑魚モンスターじゃん!だはは!」


大声で言うため辺りにそのことが広がる。


なんだ初心者か?────かわいいやつか?────バッドラッターはいっぱいいるぞ気をつけろー────噛みつかれたらいたいぞー


そんな声があちこちから発せられる。


「あんなやつら気にするなよ。まだFランクだろ。Fランクなら上等さ。バッドラッターの親はDランク急だしな」


何か思うことがあったのかログナクは少女の肩を叩いた。


────群れで噛みつきが得意って感じか?


クラウディは自身が馬鹿にされていることに気づかず、周りの声を情報として頭に入れていた。


「あんなやつらとは聞き捨てならねーなログナクさんよ」


モンスターの詳細を聞こうとした時、突然背後から大柄な別の男性がログナクに絡み出した。筋骨隆々な上半身はほとんど裸だった。


「馬鹿にするからだろアーケイン……」


アーケインと呼ばれた男性はふんっと鼻を鳴らしログナクを見下ろした。


「何が行けないんだ?昨日登録したばかりのFランクがカッコつけて討伐なんてなぁ?もし死んだらどうすんだぁ?責任とれんのかぁ?」


「そ、それは……」


────ん?この流れ大丈夫か?


「そうだよなぁ!取れないよなぁ責任なぁ!てめーログナク。てめーも雑魚ばっか倒してないで上のランク倒してこいよ?それかそこの新人と仲良く草でもむしってな!」


大男がゲラゲラと笑い、釣られて他の客も笑った。


そんな状況を我関(われかん)せずとクラウディは眺めていたが、ログナクは突然大男の顔面を殴った。


相手はよろめいたが踏ん張って殴り返す。そこからは2人が殴り合いをし、それを面白がって周りがヤジを飛ばし、流れ弾に当たって1人、また1人と殴り合いに加わり、気づけば大乱闘になっていた。


────なんだこれ……ギルド内の争いは厳罰じゃなかったか?


クラウディはさっさと出て行きたかったが、情報をまともに聞けてないため、仕方なく成り行きを見守った。


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