第177話 マティアスパーティ①
アーベルには各ギルドの近くに酒場があり、その一つ『エールジャッキ』という酒場は『アルカーザ』冒険者ギルドの近くにある。
比較的ダンジョンに近い場所で1番の人気があり、中は昼も夜も冒険者でごった返すほどだ。常に満席なので立ち食いする者も多い。
その日は運良く席に座れたAランクパーティ『アンサンブル』はダンジョンダイブ前で昼食を摂っていた。
「どう?良いクエストあった、マティアス?」
Bランク魔法使いのラミーは酒場に戻ってきた全身鎧男が依頼書を手にそれを見つめたまま動かないので、杖でつついた。
マティアスたちは元々アーベルダンジョンに長く潜っていたパーティだった。諸事情で一旦ベルフルーシュに居たが、とある目的は達成できずにまた戻ってきてダンジョン攻略に励んでいた。
「リーダー、また人族の女の匂いする……また遊んでた?」
動かないマティアスに犬人族であるブラウンは犬の鼻をひくつかせた。
「は?違うって!受け付けの人のだろ?変なこと言わないでくれよ!」
ブラウンの言葉に杖を振り上げるラミーを見て、我に返ったマティアスがやめてくれと両手を上げた。
「いいから報酬は?早くしろ、今日も潜るんだろ?」
同パーティのBランク女盗賊であるターナは連日ダンジョンダイブに駆り出されており、イライラしたようにテーブルを指で叩いた。
「ああすまん。報酬は1人2万ユーンだ」
パーティメンバーにギルドで換金した金を分配する鎧男はそれと、と依頼書をテーブルに置いて席についた。
依頼内容はダンジョンの2階層~10階層までで手に入る特定のモンスター素材だ。低難度から高難度まで幅広く受けたので依頼書の数も多い。
本来ならこれ程の依頼は受けられないが、Aランクパーティという地位と実績の特権とも言えるものだった。
────ようやくここまで来たのに
ベルフルーシュまでわざわざ出向いたのに結局何も得ることもないまま、何も変わらない状況にマティアスはため息をついた。例の情報も不確かでありイマイチこのまま攻略しに行くには危険である。
前衛のアタッカー、後衛の魔法使いに僧侶、撹乱の盗賊とバランスの良いパーティ構成。再び深層まで行くには申し分ない。
しかしさらに潜るにはやはり『ガイド』か『ポーター』は必須。
もちろん以前は雇っていたが、ベルフルーシュに行くには金がかかるので一旦『ガイド』は契約解除していた。思えばそのまま雇っておくのが正解だったかもしれない。
今は再び雇おうにも需要が多くマティアスたちも新たに雇えない状況だった。
「────で、今日はどこまで潜るんだ?」
ターナの声に物思いから我に返るマティアス。
「え〜と、3階層までだ。ここ毎日潜ってるし……それに昨日も長い10階層から帰ってきたばかりで申し訳ないから────明日は休みにしよう」
「よく言うよ……まあ3階層ならこんだけ素材集めで……夕方までに戻れるか」
女盗賊のターナは依頼書の束を見ながらため息をついた。休みがもらえると知ってからやや表情が和らいでいる。
「みんな無理させてすまない……」
「1番無理してるのはマティアスでしょ?帰ったらゆっくり休んでよ」
ラミーがそういうと鎧男は苦笑いした。
「情報集めに、弔い合戦、ほどほどにしないと」
ブラウンがそう言って鼻をひくつかせ、頼んでいた料理が運ばれると人目を憚らず手を使わず食べ出した。骨格は人間だが、白黒の二足歩行の犬のような外見であるため人目を引くが全く気にしてない。
「俺たちも食べよう」
そんな獣人を見てみんな笑い、料理を食べ出した。




