第176話 仕方なくソロダンジョン第4階層②
クラウディは見張りを交代し浅い睡眠を繰り返しているとふと嫌な予感がして飛び起きた。
素早く動いて襲おうとする敵の首に隠しナイフを当てがう。
「ちょっ!待て待て待て!俺だ!」
敵と思っていたのはボンズで両手を上げて叫んだ。
「お、起こしに来ただけだろ?!やめろ!」
クラウディは言われてナイフを下げた。ダニエルも何事かと近くまできていた。
「触るな、呼べば起きる」
「ったくおっかねーな……」
ボンズは首をさすりながら離れた。
クラウディは訝しの目を向けながら何か盗られたものがないか確認した。彼からは確かに悪意を感じたのだ。
────何も無くなってない……か
体感的には休んだのは4時間程度。特にモンスターには出くわさなかったようだ。外は日が昇る前くらいではないだろうか。2人の表情もいくらかマシになったように思える。
少女は休む前に言っていた事で地図を貸すよう言った。
「はっ!どうせ戻るとか言うんだろ?」
「現在地が確認できたら地図は返す。そこからは進むなり好きにしろ。俺は帰る」
ボンズは鼻を鳴らし渡さないかと思ったが、意外にも地図を渡した。
クラウディは地図を確認し、現在の場所と洞窟の特徴を比較しながら歩き出した。あとの2人も何も言わずについてくる。
マップ上、4階層はうねった洞窟が広く続いており、上の階層のように区間が区切って表示してあったりはしない。
おそらく他階層からも合流出来る地点なのだろう。その分広く感じる。運が良ければ別のパーティにも会うかもしれない。
30分程歩いて確認していると現在地が把握できた。ほぼ間違いなくど真ん中にいるようだった。
上の階段に戻るには最短で5回の分岐を行けば戻ることができる。
クラウディは順路を記号化して覚えると地図を持ち主に返した。現在地についても共有しておく。
「へいへいご苦労ご苦労」
彼は受け取るとダニエルに何か言いクラウディの側に行くよう命令した。
僧侶は荷物からポーションを取り出して少女に渡した。
「もらったままだったから……返すよ」
そんなことすっかり忘れていたクラウディは受け取ると荷物にしまおうとした。
「っ……クローごめん!」
ダニエルはそう言うといきなり少女の背後から脇下に腕を通し、引き上げるように羽交締めにした。
「っ?!」
「『スタンバッシュ』!」
間髪入れずにボンズが小盾を少女の腹部に叩きつけた。
「ゔっ!!」
モロに入った『スキル』の衝撃にクラウディはえずき痛みに呻いた。
拘束が解けるとそのままズルズルと地面に倒れ込む。
「やれやれ、なかなか油断しねーから手間取ったぜ」
「あ……あ、やっちゃった。ごめん、ごめんよ……」
「く……そが」
クラウディは『スキル』の衝撃で目の前がチカチカとチラつき、身体がしびれたように動かなかった。
「うお、伸びてねーのか。はは『スタンバッシュ』は気絶効果付きなのにすげーな」
「ど、どうするの?こんなことして僕ら……もう」
「馬鹿が、こいつはモンスターの餌になるんだからバレやしねーよ。それより金目のもん奪って帰るぞ。インベントリもあんだろ」
彼らはクラウディの身体を起こすとあちこち探り出した。いくらか探ったあとダニエルの手が胸にあたりビクりと引っ込めた。
「ぼ、ボンズ?!こ、この子……女の子だ」
「うお、まじか。全然わからなかったぜ」
ボンズも触って確認すると驚きの表情を見せた。そしてニヤリと笑い、仮面を剥ぎ取った。
「お!美人じゃねーか。ついでヤッていくか?ダニエル女女うるさかったろ」
「え、いや、でも……そんな」
僧侶は抵抗するように首を振ったが、しかし少女の目には、顔を見てから股間が膨らみ出したのがわかった。
────どいつもこいつも……
クラウディは2人が身体を弄る間、何とか『生命石』を手に握った。『スタン』効果はそこまで長くないのか手首から先は少し動くようになっていた。
渦巻いた炎で焼いてやろうとイメージするがやめた。
なぜなら巨大な影が目の前に現れ、少女の足の間にいたボンズが水風船でも割るかのように潰れたのだ。
血液がクラウディと未だに胸を触っているダニエルに浴びせられる。
「おおおぉ、オーガ!!なななな────」
なんと目の前に現れたのはBランクモンスターのオーガだった。3mの体躯に赤い肌、その手には先程潰れたのだボンズの血痕がびっしりとついている。
ダニエルは遅れて、ボンズが棍棒で潰されたのに気がついて悲鳴を上げた。
クラウディを突き飛ばし一目散に逃げようとする。
しかし腰が抜けて四つん這いにしか動けないのか、逃げる速度は赤子同然だった。オーガは動くものを優先としたようでゆっくりと彼に近づくと最も簡単に叩き潰した。
少女はその間に『生命石』を通して微弱な電気を流し────『スタン』に効くかわからないが────中級ポーションも服用し、何とか身体を起こした。
2人は死んでしまったが、彼らの行動を考えると自業自得としか思えない。
オーガと言えばアーベルに向かう途中の『フイル村』で遭遇したモンスターであり、戦闘経験はある。
少し動くようになった身体で何とか立ち上がり剣を抜いた。
相手の武器は扱うには洞窟は狭すぎる。何も考えずに振ると天井に引っかかるだろう。
────その隙を突く
もう少し身体が動くようにならないかと下がりながら剣を構えた。このままでは防戦一方で終わりかねない。
クラウディは洞窟の灯り下まで来た。敵はゆっくりと警戒するように近づいてくる。
ある程度近づいてきたところで『生命石』のマナを使用し空中に黒い球を浮かべた。そして色を反転させて激しい閃光を浴びせる。
オーガは目が眩み、顔を覆うと腕をめちゃくちゃに振り回した。洞窟内に武器があたりガリガリと削っていった。
少女はその間に治ってきた身体を動かし屈伸やら伸びやらして慣らした。そしてファルシオンをインベントリにしまい、毒武器の『ヴェノムフリッカー』を取り出して左手に握った。
────よし、完治
クラウディは身体の状態を確認すると弱めのファイアボールを、目が治ってきた敵の顔面にぶつけた。大したダメージにはならないが一瞬怯む。
その隙を逃さず足首を斬りつけた。皮膚が硬くて深くはないが両足に赤い線が滲み出来た。
オーガは吠え、小さな相手に武器を振り回す。しかしやはり狭い洞窟では思うように動けないようで、ちょこまかと回りを動く小さい的には中々当たるはずもなく。
クラウディはひたすらに敵の武器を掻い潜り腕と足に斬り傷を増やして行った。
やがて敵は膝をつきほとんど動かなくなった。毒が回ったのだろう。息も上がって体が震えていた。
少女は刀を水平に構え、下がった頭に突進し眼窩目掛けて深々と突き刺した。
オーガが一瞬激しく痙攣しやがて倒れ込むと象でも倒れたかのような音がした。
少女は武器を納めると膝に手をついて息をついた。
────なんとかなったな……
体力が戻るとついでに歯茎を抉り、オーガの牙を回収する。
そして潰れた人間を確認しに行った。巨大な棍棒で潰されたのだ。ボンズは縦に潰されて、原型がほとんどない。ダニエルは身体は残っているが肩から上が潰れていた。
彼らの荷物を漁って行こうと思ったが、ギルドにバレると何を言われるかわからないのでやめた。せめてギルドカードでもとも思うが、関わりたくないので完全に放置することに決める。
少女は惨劇の場から少し離れて休憩すると3階層へと歩き出した。




