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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第175話 仕方なくソロダンジョン第4階層①








第4階層────


階段を降りると今までの石壁とは異なり洞窟が現れた。階段から岩盤の地面に降りる。境界線はハッキリとしており、まるで途中から無理矢理繋げたような空間だった。


ただ上の階と同様に灯りは規則的に高い位置に付いており、真っ暗ではない。が、暗がりはより多い。


幅は4mほどの半円状で土の匂いがした。


そして100m先かその付近で僅かに金属音がする。


クラウディは胸がざわつき警戒しながら足早に真っ直ぐに進んでいく。


すると男が1人叫びながらゴブリンの群れと戦っているのが見えた。血みどろで今にも倒れそうである。足元には何体も死骸が転がっていた。


ゴブリンが棍棒で男の背中を殴り、ホブゴブリンが横薙ぎで、何とか防ごうとする男の盾を砕いた。


それを見てクラウディは足を早く動かし、刀を抜くとすれ違いざまにホブゴブリンの首を切断した。


続いてまだ存在に気づいていないゴブリンの首に刃を突き立てて蹴り飛ばす。


周囲には杖を持つゴブリンが一体とゴブリンが2体おり、危機を感じたゴブリンメイジが詠唱を始めて後の2匹が少女に襲いかかった。


クラウディは2匹のゴブリンを左右の手を動かして素早く斬り捨て、メイジに突進するがギリギリで詠唱が間に合い激しい雷撃が飛ぶ。


しかし少女はそれをウーラタイト製の刀で弾き、反対のファルシオンで首を叩き切った。敵はパタリと地面に倒れる。


────今ので全部か?


周囲を見渡し、動く影がないのを確認して剣の血を死骸の服で拭き取り鞘に納めた。


先程の男のところへ向かうとまだ生きており目が合う。


「お前は……くそ、助けられたのか情けねー」


見た目からして血みどろだがボンズだ。ただ出血が激しい。このままでは死ぬだろう。


クラウディはインベントリから中級ポーションを取り出して彼に飲ませた。傷が治っていき表情がやわらぐ。


「へへ、助かったぜ……」


動けるようになるとボンズが周囲を見渡し、とある1点を見つめた。少女もそちらに目を向けると僧侶であるダニエルが暗がりで身を亀のようにして震えていた。


ボンズは今度は自身の色味の違うポーションを追加で飲んで完全に回復すると、ダニエルの元へ足を運んだ。


────あるなら返せよ……


少女はそう思いながら立ち上がると帰ろうとした。もう危機は去っただろうし長居する必要はない。


しかし辺りを見て足が止まった。戦闘で気付かなかったが丁度分岐点であり、4方向に洞窟が広がっていた。


動き回ったので、当然どこから来たのか覚えているはずもなく。


「ひぃ!」


短い悲鳴が聞こえ顔を向けるとボンズが悪態を吐きながらダニエルを蹴り上げていた。


ダニエルは謝りながら身を縮こまらせている。


「てめーは!くそっ!こら!ほんと使えねー!他の奴ら死んじまったじゃねーか!!」


「ごめん!ごめん!!」


改めて辺りを見渡すと彼らの仲間だろう人間がモンスターに混じって転がっていた。奮闘虚しく死んでしまったのだ。


「使えねーてめーを雇ってやったのにヨォ!!」


ボンズはダニエルの脇腹を蹴り上げた。鈍い音と共に呻く僧侶。骨が折れたのではないだろうか。


帰るために現在地と地図が見たかったので、クラウディは取り敢えず静観し彼らが落ち着くまで待った。


エルフの里での報酬のコンパスがあれば地図など要らなかったろう。何とかして手に入れておくべきだったかと悔やまれる。


ボンズは仲間を殴るのに疲れて息を切らし、ようやく()めると少女の方に近づいてきた。モンスターの死骸に躓きながら悪態をついている。


「な、なあお前。よかったら少し一緒に行かないか?」


わかりやすい作り笑顔で彼は提案する。


「先に進むのか?俺は帰るつもりなんだが」


頭数は確実に減ってるのだ、仲間が死んだのに進むのは勇気でなく無謀だろう。


クラウディは彼の肩越しにダニエルの様子を伺った。顔は腫れ上がり見るに耐えない。


「いや、お前がいるなら先に進める」


「仲間も2人……いや3人死んでるだろ。引き返すべきだ」


それを聞いて一瞬真顔になるボンズ。やがて舌打ちし肩をすくめた。


「ダンジョン初心者か?人が死ぬのは日常茶飯事だろうが。あいつらだって対して長い付き合いじゃないし覚悟してたろうさ」


それがどうしたと言わんばかりの口調。


────長い付き合いじゃない……か。それが常識なのか?


この世界に来て日の浅い元男の少女は、考えるように仮面に触れた。彼の思考がこのダンジョンにおいて一般常識なのだろうか。


『頭数は減ったが戦力が上がったので先に進む』。合理的ではあるが人間性には欠けるのではないだろうか。


────俺が言えた義理じゃないか


「じゃあこうしよう。その感じ、地図がないんだろ?なら下の階段の場所までついてきてくれ。そしたら地図を見せてやる」


ボンズはクラウディが地図を持ってないことに気づいていたのか、遠目から地図を取り出して見せた。すぐにしまったのでよく見えなかったが見たことないマップだったので4階層のものだろう。


「大丈夫、ここから近いぜ」


悩む仮面の冒険者を見てボンズは付け加えた。


少女はそれならと頷き、3人は一時的にパーティという形をとった。


「おい!いくぞ!」


彼はまだ立ち上がってない僧侶のもとへいくと脅すように地面を強く踏んだ。それを見て怯えたようにダニエルはよろよろと立ち上がりついてくる。


ボンズはダニエルに杖に灯りをつけさせ、先頭を歩かせる。クラウディもそれに続いた。






あれから15分くらい歩いただろうか。ボンズが後ろから道順を指示して、いくつも分岐点を進んでいったがなかなか辿り着かない。クラウディも10個目くらいまで分岐を覚えていたが、道中モンスターもいくらか出現して今では完全に忘れてしまっていた。


「迷っただろ?」


「…………バレたか」


いつまでもたどり着く気配もないし、何なら同じ場所を見た気もする。クラウディが呟くとボンズがとぼけた声を出した。


少女ジロリと睨むと彼が持っている地図を素早く奪い取り、ダニエルの側に行って確認した。


ダニエルが見やすいように明かりのついた杖を動かす。


────くそ、複雑すぎる……


地図は降りた場所から辿ってみるに確かに4階層のものらしかったが、1~3階層とは違って分岐が多く複雑で広かった。


一応曖昧な記憶で指で辿ってみるがやはり現在地の把握は難しい。


「ご、ごめんね。クローは帰りたかったのに……」


ダニエルが申し訳なさそうにする。疲弊しているのか息が上がって苦しそうだ。何故か顔の傷は治していないので見るに耐えない。


「俺が決めたことだ、気にするな」


クラウディはそんなことより、地図の分岐パターンを覚えようとしていた。


────いくらか歩いて地図の分岐のパターンと重なるとこを見つけるしかないな


「はい、そこまで」


集中しているとボンズが側に来て地図を奪い返す。少女は睨むが、一旦落ち着いて、現在地の把握の方法があることを伝えた。


「わかる、うん。わかるけど今日はこの場所で野宿する。お前も疲れてるだろ?」


「俺なら気にしなくていい」


「お前がよくてもそいつがダメだろ?」


クラウディの横にいる僧侶を指差した。僕なら大丈夫と彼は気を遣うが確かにかなり消耗しているようだった。ボンズにかなりの無茶をさせられたのではないだろうか。


「…………わかった。だが、ここで大丈夫か?」


「お前があらかたモンスターは倒してくれたし、しばらく大丈夫だろ」


休憩すると言っても身を隠すようなものはないし、モンスターが寄ってくるかもしれないので火をつけることもできない。


ダンジョンのモンスターは『死の森』のように好戦的であり何かがいるとわかれば襲ってくるらしいのだ。外のモンスターと同じ種も出てくるが生態が違ったりすることもある。


一行は各々軽く食事をすると、休憩する事にした。


見張りは比較的体力の残っているクラウディが最初に行う事になった。次いでボンズ、ダニエルという順だ。


ボンズは早々に寝てしまったが、ダニエルは怖いのか側に来て震えていた。


「お前、顔は治さないのか?」


未だに治さないのか治せないのかわからないが、ボコボコの顔をチラリと見ながら少女は尋ねた。


「よ、余計な事に使うと、お、怒られるから……」


────なるほど


ボンズが絶対的な力を持っているのか、日頃からそう指示しているのだろう。彼を見る僧侶の目は今や怯えが出ているのがわかる。


クラウディは低級ポーションは沢山持っていたので、インベントリから取り出してダニエルに渡した。


彼は受け取るや否や急いで飲み干し一息ついた。顔の傷もある程度治り僅かに活力が戻ったように見えた。


しかし身体は震えたままであり、何か言うでもない。


「し、死にたくない……」


やがてそう呟くのが聞こえた。


「落ち着け」


「お、おお女の子の身体に触ってみたい……このまま死にたくない」


「……」


「だだってそうだろ?!お前も!こんなところでいい思いもせずに死にたくないだろ?!」


同意を求めるように彼はクラウディの肩を掴んで揺さぶった。


────いや知らんが……


元男の少女は彼の手を払いのけ、もう一度落ち着くように言った。


「帰りたいならあいつを説得するなり、地図を奪うなりしろ。そしたら外まで連れてってやる」


「な、なんだよ、ぼぼ僕に命令するのか!お前も!」


過度なストレスからなのか興奮様の僧侶は声を荒げた。


クラウディはこれはダメだなとため息をつき、もう休むよう促した。寝れば少しは精神も回復するだろう。


彼は一応横にはなってくれたが、眠るまで念仏を唱えるように『女』というワードを繰り返していた。

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