第173話 仕方なくソロダンジョン第2階層
アーベルダンジョン第2階層────
ダンジョンについて。アーベルダンジョンはここ30年程で出現したもので、その周辺に街が形成され現在の形になったのは15年前だと言う。現在確認されている階層は13階層まで。下に続く道が見つかってないのだ。
ダンジョン内は複雑な迷路になっており、地図が必須となる。しかしその複雑さから案内役である『ガイド』か『ポーター』を雇うものがほとんど。
ダンジョン内の死因として帰れないことに起因するものが多い。たとえ1階層でも迷ってしまえば死ぬ可能性もある。ただ今の時代では潜る者も多いので、浅い階層では最悪誰かが回収してくれる。
怖いのは6階層からでここからは様々な地図パターンを頭に入れている『ガイド』か『ポーター』、それと僧侶が必ずいる。それほど複雑で危険な場所という話だった。
受け付けの話を思い返しながら、クラウディは入り口の階段に座り休憩を取っていた。水筒の水を飲み一息つく。
────僧侶かポーターはやはり必須か……
あの後も何度もモンスターと遭遇しかなりの素材が取れたがこの調子で2階層も同じように続くとなるとソロではキツくなって来るかもしれない。
少女は自分の服を眺めた。返り血や謎の液体で所々汚れてしまっており正直着替えたいところではある。
ただまともな着替えがあまりないので、余程でないと着替えてもまたすぐ同じように汚れてしまようでは意味がない。
仕方なく受け入れるしかない。
クラウディが2階層の地図を眺めていると後ろから気配がし、慌てて隅にいき気配を消した。ついでに姿を周囲に溶け込ませるミラージュクロスも被る。
「なんか今日モンスター少ねーな」
「ボンズさんにびびってんでしょ」
どうやら別パーティが降りて来たらしく、よく見ればギルドで会った、僧侶ダニエルが所属しているパーティだった。
彼らはクラウディには気づかず階段を降りると別れ道を見渡した。
先頭にボンズ、後ろに他の2人────格好からして盗賊と魔法師────に続いて新人らしい青年と最後に僧侶のダニエルだった。『ポーター』らしき人物はおらず、ダニエルが大きな荷物を運んでいた。息が上がっており額に汗をかいている。
────その身体じゃきついだろ……
太めの身体で大荷物を持っていくのは荷が重い。似たような光景を思い出した少女は彼が使いっ走りにされていると気づいた。
────かといってどうかしようとは思わんが
彼らは仲間内でいくらか話した後真っ直ぐの道を進んでいった。
クラウディは彼らと鉢合わせるのは嫌だったため30分程してもう一度ルートを確認して右に進んでいった。
2階層の壁は広さやランプに変化はないが、壁が1階層より濃い色合いをしており心なしかダンジョン内も暗く感じた。
少し進んでいくといつか聞いた汚らしい濁声が聞こえて来た。通路の突き当たりに緑色で小柄な二足歩行のモンスター、ゴブリンだ。
数は3匹、すでに気づかれており幾らか声を発すると棍棒を構えて襲いかかって来た。
すでに剣を両手に握っていた少女は、先頭のゴブリンの攻撃を屈んで避けざまに、下から剣を斬り上げて腕を切断し、右足で胸を蹴り飛ばした。
ゴブリンは背後のゴブリンに衝動してもつれるように倒れ込んだ。何か仲間内と喚くがその隙を逃さずクラウディは突進し、武器を失ったゴブリンの喉に膝を入れ押さえ込みまだもつれている左右のゴブリンの喉を剣を突き刺し抉った。
左の剣を離し、素早く腰のナイフを取り出すと押さえ込んでいる敵の喉元引き裂く。
完全に死んだことを確認すると、耳を剥ぎ取り敵の腰布で剣に付着した血を拭い納めた。
今となっては何体来ようが負ける気はしない。
少女はゴブリンの死骸を一瞥し、突き当たりの壁を左に曲がっていった。
そのまま進んでいき再び3方向の分かれ道となる。正面をいくと近道であるが、やや色黒の床があり地図によると髑髏マークがあることから何かしらのトラップのように見える。
どのようなものかはわからない。毒ガスか矢か、針かはたまた別のものなのか。
なので右通路に曲がり迂回することにした。左でも3階層へは行けるが先程のパーティに遭遇する可能性があった。
進んでいくと先程と同じようにゴブリンに何度か遭遇した。大した変化も無いため難なく倒して先へ進む。
他のパーティはおそらく真っ直ぐ下の階層へ向かうのだろう、出会うことはなかった。
────それにしても多いな……いやこんなもんなのか?
もうそろそろ3階層というところでまたも敵に遭遇する。今度はゴブリンが3体と弓を持ったゴブリン1体。それに加えてラビラビとは違う二足歩行のカンガルーのようなウサギのような生き物、これが2体。
クラウディは弓を持つゴブリンが矢をつがえるや否や首元にナイフを投げつけて殺した。それにたじろいだゴブリンに向かっていくが傍に控えていたウサギが飛び跳ねて来て強烈な蹴りを放つ。
咄嗟に身を屈めると頭上を敵の足が通り過ぎる。ウサギはそのまま壁に足をつくと反動で再び向かって来た。
少女は右肩を引いて体を回転させると同時に反対の剣で敵の背中を切り裂いた。短い悲鳴がし、それを見たもう1匹のウサギが同じように飛び蹴りを放った。
敵の直接上からあらかじめ避けていたクラウディは目の前にウサギが通ると腕を振り下ろして首を斬り落とす。
あとはゴブリンだけと思って向き直るとギョッとする少女。
────1、2、3……5。増えてる
先程まであと3体だったのが急に増えたのを見てたじろいだ。
このダンジョンは敵と交戦していたら増えていく仕様なのかと疑問に思う。ただそんな重要なことをギルドの受付嬢が言わないはずがない。
「面倒だな……」
『生命石』を使えば簡単に一掃できるが、3階層も同じことが続くならまだ使う場面ではないだろう。
仕方なく剣を握り直すと敵に突っ込んだ。




