第169話 双子のドワーフ②
小屋は木造であるが今まで見た木造の家より複雑で頑丈に造られていた。置かれているテーブルや椅子、台所もそこここに複雑な装飾が施されており一見木造に見えないほどだ。
ただ彼女らが小さいからなのか天井は低いし置いてある家具やらなにやら全てワンサイズ小さい。
大ハンマーの少女はテーブルに腰掛け、もう1人は台所で湯を沸かし始めた。
「わしはミコッテ、こっちは双子の妹のミネッコじゃ。よろしくな」
大ハンマーを振り回していたミコッテは大きな手袋を外すと小さな手をクラウディに差し出した。
クラウディは促されて小さな椅子に座り、その手を握った。手は小さいが力強く手のひらにはタコが出来ていた。相当ハンマーを振ってきたのだろう。
ミコッテの髪は茶色でクルクルとやや短めのパーマ。顔の輪郭は子供のように小さく丸かった。クリっとした黒眼は大きい。反対に同じ顔のミネッコの髪は長くストレートだ。
「俺はクロー……Cランク冒険者だ」
「Cランク?スキルも使わずあれでか?職業は?」
「……『無職』だ」
クラウディが言うと時が止まったように動きを止めた。チラリと台所を見ると妹もピタリと動きを止めている。
少しの間静寂が支配したが、やがて息を吐き出すと2人はゲラゲラと笑い出した。
「『無職』じゃって!片腹痛てーの!のう妹よ!」
「ですです!『無職』は引きこもってろっていうんですよ!姉者!」
「のう?なにが悲しくて武具を造らにゃならんのか!」
「ですです!『無職』にやられた私たちはもっと片腹痛いですです!」
「「がははははは!!」」
彼女らは辺りの壁やらテーブルを叩きながらひとしきり笑うとピタリと笑うのをやめた。
────怖っ……
クラウディは彼女らの反応を見てため息をついた。やはり『無職』は歓迎されないらしい。最初に行った武器屋で教えてもらった、ダメだったときの別の鍛冶屋に向かおうと立ち上がる。
「待てい、どこに行く」
しかし小さな手に服の袖を掴まれる。小さいが力強く、クラウディが離せと引っ張ったがびくともしない。
「誰もお主に造らんとは言ってないじゃろ」
「そうは聞こえなかったが」
「剣の扱い方とその剣技。見事というより他ないじゃろ。造らん通りはない。いいじゃろ妹よ」
「ですです!久々に腕がなります!」
してなにを作る?とミコッテは首を傾げた。どうやら本当に作ってくれるらしい。クラウディは椅子に座り直した。いつもなら床に踵が着かないが、小さい椅子はベッタリとついて膝が上を向いた。
席に着くと妹のミネッコが全員分の飲み物をテーブルに配った。促されて啜ると烏龍茶のような味がした。知っているものよりもやや渋めである。
一息つき、クラウディは腰に差していたシミターをテーブルに置いた。
「これと同じような剣がもう一振り欲しい」
「ほう、これはさっきの……見事なシミターじゃの」
ミコッテが手に取り鞘から抜き刀身を眺めた。刃を傾けたり、見る角度を変え舐め回すように観察する。
やがて鞘に納めテーブルに置いた。
「少しは手入れしとるようじゃが荒いの。ついでじゃこれも鍛えてやる」
「それは助か────」
「じゃが材料がいる」
ミコッテはクラウディの言葉を遮り、羊皮紙を取り出すと何やら書き出した。しばらく待つと書ききったのかそれを差し出した。
受け取って目を通すとどうやら必要な材料のリストらしい。丁寧にどこで手に入るかがそれぞれ記載してある。そしてその下に金額が書いてある。
「25万ユーン…………か」
「剣の手直し1本に、1からの製造を1本じゃ。ワシらの腕を振るうんじゃから当然!」
クラウディは正直、高いなと思わずにはいられなかった。アイラに買った魔鉱製の大斧でもそこまではしなかった。
ただの剣1本と手直しにこの価格はさすがにぼったくりではないだろうか。それとも彼女らが凄腕とでもいうのだろうか。
「……高くないか?」
「なんじゃと?!これでも安くしてやったほうじゃ!まさか小僧……これがただの剣だと思っとるか?」
「え、違うのか?」
「ばかもん!こいつには『頑強』効果が付与されとるぞ!同じ性能のもの1本と手直しで25万は安い方じゃい!」
────なんだ『頑強』って?頑丈ってことか?
「お主知らなかったのか?」
首を傾げる冒険者に驚きの表情をするミコッテ。
「恥ずかしながら……」
クラウディは頭を掻き、剣が貰い物である事と自身にそう言う知識がないことを伝える。
小さな鍛冶師は大きなため息をつき説明した。
武器には属性の他に特別な効果を付与することができる。『頑強』というのはその中の一つで通常よりも頑丈で荒く扱ってもそうそう壊れるものではないというもの。他に『鋭利』は斬れ味をよくするもの、『羽衣』は武器の重さを軽くし、『増身』は逆に重くする。
「武器に付与できるのは1つだけじゃ。わかったか?」
「ああ、助かる」
「では25万ユーンで納得じゃな?」
「それでいい」
スコットが属性武器の作成には50万は取ると言っていたことから確かにそのくらい払って当然なのだろう。
────俺は破格の5万だったが……
クラウディは剣を手に持ち眺めた。まさか特殊なものとは思わず。確かに今までの戦いに耐え、大した損傷もないことに不思議には思っていた。
────フロレンスには感謝だな
授けてくれた魔女には何度感謝しただろう。もしかしたら他にもまだインベントリに知らないものがあるのかもしれない。クラウディは全部中身を出したわけではないので、ゆっくり1人になれる時に確認することに決めた。
「よし、この剣は一旦預かる。お主他に武器はあるか?」
「あるが同じものはない」
「よし、ちょっと待っとれ!おい、妹よ寝るな!お蔵箱どこやったかな?」
飽きて船を漕いでいた妹のミネッコは呼ばれて飛び起きた。急いで2階に駆け上がると、少しの間床をバタバタさせ大きな箱を持って降りてくる。
それを床に置くとミコッテが手袋をハメてガサガサと何かを探し出す。やがて目的のものがあったのかテーブルに置いた。
大した装飾のない、かなり幅の広い曲刀だ。
「ファルシオンというものだ。大分昔に作ったんじゃがお前にやる」
「大分昔?」
「?え~、あれいつぐらいじゃったかの妹よ」
「15年くらい前ですです」
「は?15年?!え……2人は何歳で?」
「レディに歳は聞くもんじゃないぞ!────あらま、まさか人族かと思ったのか?ワシらはれっきとしたドワーフじゃい」
「ドワーフですです!姉者は今年で75歳ですです!」
「ぎゃ?!言うな!」
ミコッテはまだ何か言おうとする妹に掴み掛かり口を塞ごうとする。妹も負けじと髪を引っ掴んだ。
────まさかドワーフとは
確かに身のこなしから只者ではないと感じてはいたが、可愛らしい外見と種族の特徴が合わずわからなかった。
てっきり女性ドワーフも髭の生えた筋骨隆々のものかと勝手に思っていたからだ。
クラウディはもみくちゃになる2人は、スコットとどう違うのか探そうとまじまじと眺めていた。
「なんで止めんのじゃ……はぁはぁ」
「ですです……」
「え?いやいつものことなんじゃないかと……」




