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第17話 ラビラビロール





クラウディとドワーフは────ドワーフの名前は店と同じ『スコット』────ローランドルの門をくぐって外に出た。


「で、どこに向かうんだ?」


「ん?知らんよ」


「は?」


「ん?」


「……」


「……?」


────ああもう、聞いてくるか


クラウディは彼が迷いもなく歩みを進めていたためついて行っていたが、そう言われてため息をついた。しかたなく踵を返すが、スコットが肩を掴んだ。


「まあラビなんてそこら辺におるだろ適当に行くぞい」


彼はずんずんと進んでいき、500mほど遠くの小さい森へと向かった。後に続く少女。


「ラビはどうするんだ?殺していいのか?」


依頼書を見ながらクラウディは聞いた。


「ああ。肉は食ってもよし骨は出汁を取ってもよし、素材は加工してよしで捨てるところがないんだあいつらは」


「強いのか?」


「いいやワシでも倒せる」


少女は、倒せるのに何故依頼したのかと眉間に皺を寄せた。聞くと単に仕事しながら狩る時間がないのと面倒だからという事だった。


「なんだ坊主初心者か」


「まあ……悪かったな初心者で」


ドワーフはガハハと笑った。


「心配はしとらんよ。あの剣捌きを見たらお主が強いのはわかっとるからな」


「そりゃどうも……」


森に到着したが、勢いを止めずにスコットは茂みに入って行った。自分より背の高い草や木の枝を押し除けていく。


おかげですぐ後ろをついて来ていた少女は、押し除けられたそれらに激しく打ち付けられ少し距離を取った。


「おい、いたぞ!そっち行った!」


森に入って200メートルくらい進んだところでドワーフが茂みに埋もれながら叫んだ。


声のする方向からガサガサ素早く移動する音が聞こえた。クラウディはナイフを構えて近くまできたところで投げつけた。


小動物の小さな悲鳴が聞こえた。


どうやら命中したらしく、その場所の茂みをかき分けるとナイフが刺さって痙攣しているうさぎがいた。


足が自身の身体の倍の長さはある灰色のうさぎ。齧歯目特有の前歯はナイフのように長く鋭い。あいにくにも可愛くは無い。


ラビラビは最後の力を振り絞るように甲高い声をあげて動かなくなった。


死んだそれを耳を掴んで持ち上げる少女。


「おい、走れ!仲間を呼ばれた!どこか広いところに出ないとまずい!」


近くまできていたドワーフが慌てて言い、少女に急いでついてくるよう手招きした。


「ラビラビは1個の群れくらいなら大したこと無いが、いっぱい群れが来ると大変なんだ!」


走りながらスコットが言った。


途中で小川を見つけてそれに沿って移動していく。後ろからは至る所から敵の気配が迫っているのがわかる。


目の前の小高い斜面を登ると急勾配となり、開けた河原に出た。


クラウディたちが足を止めるとラビラビの群れがひとつまたひとつと合流し、完全に囲まれた。


甲高い鳴き声と歯軋りのような不快音が終始鳴っている。


クラウディはシミターを構えるが、ドワーフが彼女の腰にぶら下がっている短刀をつついた。


────短刀使えばくれるんだっけ


シミターをしまい短刀を両手に構える。


「いくぞ坊主!」


「ああ」


ドワーフの掛け声とともに敵もまばらに突進していく。


ラビラビは脚力は素晴らしく、それから繰り出される突進は人1人の(あばら)をへし折るくらい威力があるという。しかしクラウディは初見で横に躱し、通り過ぎざまに頭から股下まで切り裂いた。


次に2匹が突進し鋭い歯で噛みつこうとする。少女は1匹を短刀を顎に突き立て、もう1匹の足への噛みつきはひょいと足を上げて躱しそのまま頭を踏み潰した。


今度は少女が前方のうさぎたちに足元の石をいくつか投げ、怯んだところを素早く狩っていく。


ドワーフも何匹か倒したが、渦のようにウサギの大群がクラウディを取り巻き始めている様を見て手を止めていた。立ち尽くすドワーフを、うさぎたちは危険視しておらず1番の脅威と判断した敵に向かって行っているのだ。


次々にうさぎが少女に飛びかかり、それを次々に斬り伏せていくその姿と自分の鍛錬した武器が合わさる様と返り血を浴びる様を見てドワーフの背中にゾクゾクと悪寒が走った。


やがて最後のうさぎが仕留められる。


と、不意に冒険者がドワーフを見て短刀を投げる。彼は突然の事に動けなかったがその刃は首元に噛みつこうとしたラビラビの眉間に突き刺さった。


「某っとするな」


肩で息をしながらクラウディはゆっくりと呼吸を整えた。


「天晴れだ」


「?」


ドワーフはラビラビから短刀をえいやっと抜き、綺麗に拭くと目の前の冒険者に渡した。


「お前さんの戦い見させてもらった…………これはお前にやる、もう1本もな」


「ああ────まあ貰っておく」


クラウディも短刀を綺麗に拭って鞘に納め、もう一本の短刀を受け取った。そして辺りを見回す。


「この数すごいな大丈夫か?」


「ワシは大丈夫だ」


「いや報酬だ。1匹あたり500ルーンだったか?ざっと金貨2枚くらいになりそうだが」


戦いながら金勘定していたのかとドワーフは目を見開いたが、ため息をついて頷く。


「金は取り返せるから大丈夫だ。しかしこれは重労働になるぞ」


「?」







依頼内容はラビラビの討伐であったが、正確には前歯2本と爪、いくらか肉がいるそうだった。


2人は協力して────クラウディは捌き方を教わりながら────剥取りを開始し、終わったのは日が暮れてからだった。


倒したのは全部で52匹(内訳はドワーフが12匹、クラウディが40匹の討伐だった)で、半分は捌き、半分は袋に詰めてそれぞれ分担して持つ事にした。


ドワーフはラビラビ13匹と解体した部位を全て持ち、クラウディは残り13匹を背負った。少女は流石に重たいため、自分の持って来ていた荷物はこっそりとインベントリに入れた。


「さて、帰ろう」


2人は暗くなった森を戻り出した。







道中、他のモンスターと出くわすことはなく月が2つ上に上がる頃にはローランドルへついた。ドワーフはひょいひょいと進んでいくが、対照的に少女は歩みが徐々に遅くなってしまった。


「さて、坊主。ギルドには明日、ワシから達成の報告をしとくから昼過ぎに報酬を受け取りに行け。気分がいいからおまけしとくぞ」


「それは……助かる……」


流石に疲れた少女は鍛冶屋の前で荷物を下ろしてへたり込んだ。


「……坊主、名前は?」


「…………」


────あー……身分証本名だったな


返答に迷いを感じ取ったのか、ドワーフは微笑んだ。


「お前さん女子(おなご)じゃろう?」


その言葉にクラウディは驚いた。どこでバレたのだろうか。


「なんで坊主に変装しとるのかは聞かんが、ドワーフは口が固い。安心せい」


少女が何も言わないでいると、ドワーフは彼女の腕を掴んで力強く立ち上がらせた。ポンポンと彼女についた砂を払う。


「さあ、もう遅いから野盗には気をつけるんだぞ」


背中を押されクラウディはよろよろと足元がもつれながら数歩歩いた。


────ああ……似てるな


世話焼きなところが誰かに似ていると感じた少女は振り返った。


「俺はクラウディだ。クローって名乗るから」


ドワーフは驚いたように目を見開いたが、鼻を鳴らすと早く行けと手で合図した。


「……また来る」




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