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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第166話 ちょっとした騒動①





 


広間の隅にいた少女は目の前を仁王立ちする冒険者から逃げられなかった。


「貴様、何故気配を消している?ここではそういうことは不要のはずだが?」


シルバーヘルムの奥からギラリとした蒼い瞳が見つめる。身長は少女より頭ひとつ分高い。外套の下に覗く鎧は素晴らしい装飾が見えた。


────え、なんかしたか俺?


ただ見ていただけの事に腹を立てたのだろうか。気配は消していたが。


魔剣士からは殺気はないが威圧感が発せられていた。


辺りからは何事かといくつも視線が向けられ、周りに集まり出していた。


それらにチラリと相手が目を向けた瞬間に、クラウディは滑るような足捌きで角から抜け出して相手の背後に回った。


そのまま外に出ようとしたが再び先程の妙な移動術で回り込まれる。


「話は終わってないぞ」


相手の手が伸びてきて、それを剣で払い退けようとしたがふと『ギルド内の争いは御法度』という言葉が響いて身体が硬直する。


魔剣士は仮面の冒険者の首に硬い籠手に覆われた前腕を当て、そのまま壁に押し付けた。


「ぐっ?!」


クラウディは首に入った腕に、なんとか自分の腕を挟み込んで締められるのは避けた。


状況を逃れるために押し返そうとするが流石に力負けする。


どうすれば良いかと考えていると、そこに巨大な刃が閃き魔剣士の首元に突きつけられた。



「……てめー。私の連れに何してくれてんだ?ああ?!」


その人物を見た冒険者たちから『闘神』というワードがちらほら聞こえる。


身体をずらして確認すると明るい色のポニーテールとビキニアーマを装備した女戦士の姿が見えた。


どうやらアイラが運良く来てくれたようだ。ただ額に青筋を立てる彼女は穏やかな表情ではない。


「誰だお前は?ギルド内では抜刀禁止のはずだが?」


「あ?てめーは手を離せや。じゃねーと斬り落とすぞ?」


「よせアイラ!」


「アイラ……?まさか『闘神』アイラか?」


少女が止めるよう名前を呼ぶとそれに反応する魔剣士。同時にクラウディを抑えている手が緩む。


「どうでもいいんだよそんなことは……さっさと離せ」


刃を突きつけられてもなお離さない魔剣士にアイラの目がギラついた。


しかし見た目とは裏腹にすでに彼の手からは押し付ける力はないので、クラウディは抜け出そうとすればいつでも抜け出せた。ただこの状況をどう収めるべきかと考えると一旦様子を見守るしかなかった。


一触即発状態だったが、甲高い音と共に、両者の目の前に透明なガラスのようなものが現れた。


「ちょっと遅いから来てみれば何やってるんですか……」


ギルド入り口に、白いローブを羽織った背の低い女性が杖を掲げていた。格好を見るからに僧侶で、険悪な2人の前に張られているのは防御魔法の『シール』だろうか。


「ミレーネ……」


「はあ?てめー、もしかしてこいつの仲間か?だったらやめさせてくんね?」


口元は笑顔でいうが目は笑ってないアイラに、ミレーネという僧侶は魔剣士と捕まっているクラウディを交互に見た。状況を把握するのに時間が掛かっているようだ。


それを見て苛立つアイラは目の前の透明な板に拳を叩きつけた。物凄い音がし、ざわついていた冒険者たちも一瞬で静まり返る。


────や、やばいな


クラウディは状況がまずくなる一方なのを感じ、気配を消した。そして目の前の身構える魔剣士の側をすり抜けて女戦士の側に姿を現す。


彼女の肩を叩くが、もう一度振り上げた拳が少女に襲いかかる。クラウディは咄嗟に身を引くと寸前で拳が止まり、拳圧で髪が後ろに引っ張られた。


「っぶねぇ~!悪いわりぃ」


おそらく急に現れたように見えたのだろう、当たっていれば顔面が吹き飛んでいたのではないか。


戦士は手を合わせて平謝りし、少女の体をペタペタと触り怪我がないか調べた。


はっとしてクラウディは魔剣士を探したがすでに姿はなく、ミレーネという僧侶が外を見ていることからおそらく既に立ち去ったのだろう。


「あのやろー謝りもしねーで……」


女戦士もそれに気づいて口を尖らせた。


「すみません、こちらの者が無礼を働いたようで」


聞こえのかミレーネが頭を下げた。僧侶特有の背の高い帽子(ミトラ)がズレる。


「あ〜……てめーはいいよ。あいつに謝るまで許さんって言っとけ」


アイラは顔も見ずに手で追い払う仕草をした。ミレーネは何か言いたげだったがクラウディをみてもう一度頭を下げると足早に外に出て行った。


アイラは改めて少女を見るとニコリと笑った。


「らしくないな……あれくらいで怒るなんて」


「へへ、そだな……。なんかつい熱くなっちまった」


頭を掻きながら苦笑いするアイラ。周りの冒険者はそれを見ていくらか緊張が解けたのか散開した。とは言っても何人かは気になるのか留まったり視線を向けたままだった。


────まあ、俺のために怒ってくれたのは悪くないな


クラウディはなんとも言えない気持ちに、彼女の軽率な行動の言及はやめた。下手したら冒険者を追放されていたかもしれないが。


「そう言えばなぜここに?酒場に行ったんじゃなかったか?」


「いやぁ!そう言えばすっからかんだったからさぁ!探した探した!」


「……」


「ってことで金くれ、カーチャン」


前言撤回。手の平を差し出すアイラに、クラウディは先程の軽率な行動に気をつけるよう何度もうるさく言及した。

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