第160話 夜は寒い
────さ、寒い!
クラウディはポーションの効果が切れるとすぐに目が覚めてしまった。気のせいだと半寝状態でじっとしていた分余計に寒さが襲った。
少女は起き上がり反対側で寝る男を睨んだ。
────よく眠れるなこいつ……クソ寒いぞ
少女はインベントリからガタガタと震える手で薄い毛布を取り出して包まり、さらに寝袋に収まる。しかしそれでも夜が深くなるにつれて寒さが増して行くので耐えきれなかった。
────0℃とかなんじゃないのか?!
そう思うが考えれば考えるほど冷気を感じ、結局アイラが見張りの交代で呼びにくるまで寝ることはできなかった。
「ねみー……クロー?あ、起きてるか。後番頼んだぜ~」
彼女はテントの入り口から体を起こしているクラウディを見ると、そう言ってサッサと自分のテントに戻って行った。
「くそ……眠れなかった」
クラウディは悪態をつき外に出ようとするが、ふとすやすやと眠るカイザックに腹が立ち、顔を覗き込んだ。
────ポーションがぶ飲みでもしたのかこいつ?
「ん?」
クラウディは彼が上半身裸なのが目に入った。
────どんだけ温まってんだよ
少女は気になって彼のやや大きめの布団に手を入れた。
「は?」
てっきり彼自身が暖かいのかと思ったが、そうではなくどうやら布団自体が暖かいようだ。おそらく魔道具の一種、元男の世界でいう電気毛布のようなものだろう。
「クソ……寄越せよ」
少女は小さく呟いた。するとカイザックの目が開き布団に突っ込まれている手を掴んだ。
「げ」
「どうした?眠れないのか?」
横向きになるカイザック。視線が合う。
「あ、いや……」
「手が冷たいな」
少女の腕を掴む彼の手は暖かいが、離れようとすると足を絡めてきてグイッと引き寄せられる。
そのまま横に倒されると毛布を羽織られ、後ろからカイザックが抱きついた。
────あ、あたたかい……
彼の身体からは別の石鹸のいい匂いがした。いつの間にか水浴びでもしたらしい。
「カイザック?」
「どうせ寒くて眠れてないんだろ?抱き枕にして一緒に寝てやるよ」
やや眠たげな声が後ろから聞こえる。
「見張りはどうするんだ?」
「そんなもんスライムにでもやらせとけ」
「マナは使いたくないぞ」
「……スライムと『生命石』を出せ」
クラウディは言われて胸に下げていた石と腰のインベントリからスライムの瓶を取り出した。カイザックは少女に『生命石』を通して、スライムにカイザック自身になるよう命令しろと言った。
「マナも全部使え」
「え、さすがに嫌なんだが」
せっかくアルディシエが込めてくれたマナを無駄にはしたくない。
「いいからやれっ」
彼はイラついて少女の胸を強く鷲掴んだ。
「ひっ」
それでも行動しない少女にカイザックは胸サポーターのボタンを外していく。
しかしマナを失いたくない少女は声を我慢してでも渋った。その間にボタンが全部外されて直接、大きな手が胸を触る。
「わ、わかったから……」
クラウディは愛撫を始める手に耐えきれなくなり『生命石』のマナを使い、出したスライムに命令した。
一瞬光るとカイザックがもう1人現れ、見下ろす。クラウディがいくつか命令しスライムは頷くと外に出て行った。当然『生命石』は光を失う。
「『生命石』を寄越せ」
カイザックは首から下げた『生命石』を少女が外すと半ば奪うように手に取った。握りしめて目を閉じる。
すると輝きを失っていた石に光が戻った。
「は?お前マナを……」
「これでいいだろ?」
そう言って石を返すカイザックは再び横になった。
石の輝きからしてほぼ満タンだ。クラウディは万能カイザックに驚き、色々疑問を抱いたがそっぽを向いてしまったので出てくる質問を飲み込んだ。
外を見ると、コンロの火の影に映ったスライムが座っているのが見えた。きちんと命令を守っているようだ。
少しの間身体を起こしてスライムの影を見届けていると不意に逞しい腕に引き寄せられ大きい胸に抱かれる。
「く、苦し……」
正面から抱かれる少女は苦しさから逃れるように上に這い出た。目と鼻の先に整ったカイザックの顔があり唇が触れそうになる。
「見惚れているのか?」
じっと見つめる少女にカイザックはニヤリと笑みを浮かべた。
クラウディはハッと我に返ると慌てて身体の向きを変えた。
すこし心音が速くなっているのがわかった。
────くそ、こいつが不細工だったらいいのに……
「マナを込めれるならもっと早く言ってくれ。魔法ももしかして使えるんじゃないのか?」
誤魔化すように先程飲み込んだ質問をする。
「謎が多い方が面白いだろ?見張り役分のマナなら補充してやるよ。もちろん……わかってるよな?」
クラウディは返事の代わりに鼻を鳴らすと目を瞑った。
カイザックは、それ以上目の前の女が会話しなくなったので、温めるよう身体に腕と足を絡ませると目を瞑った。
「寒くないか?」
「……寒くない」




