第16話 ドワーフのスコット
翌日、ギルド内は昨日よりも落ち着いておりすんなりと受け付けに行くことができた。
昨日と同じの受け付け嬢で、まっすぐ向かってくるクラウディに気がつくと。挨拶した。
「昨日はごめんね忙しくて────えーと説明だっけ?」
クラウディが頷くと説明を始める。
冒険者になるとギルドが張り出している依頼書を受け付けに持って行くとクエストを受注でき、達成したら再び戻ってきて報告したら達成との事。
ただし、討伐等は討伐証明がいるため何処かモンスターの一部を切り取って来なければならない。余った素材や別モンスターの素材は希望があればギルド内で買い取ることも可能だそうだ。
例外的に護衛依頼は目的地でクエスト達成報告すれば報酬が受け取ることができる。
冒険者は年会費をランクにあった額を納めなければならず、未納が2年続くと冒険者資格は停止となり、未納分を払えば活動再開可能。
冒険者ランクはF~A、その上にSランクと段階分けされており、現在Sランクは10人確認されているらしい。
当然ながらギルド内の争いは厳罰対象だと受け付け嬢は新人に釘を刺した。
「とまあこんな感じかしらね、なにか質問ある?」
クラウディがいいやと首を振るといくらか依頼書を持ってきた。
「依頼受けるんでしょ?どんなのがいいの?Fランクは何処かの手伝いだったり薬草の採取だったりあるけど……」
「討伐系は?」
「Fランクなら1番危険度の低い『ラビラビ』がいるけど……えーと……あったあった」
受け付け嬢は依頼書の束から素早く手を動かして1枚の羊皮紙をクラウディに手渡した。
ラビラビの討伐依頼────
『スコット鍛冶屋』にて詳細あり(2度手間になるのが嫌な方は一度来て欲しい)。
期間 出来だけ早く。
報酬 1頭あたり500ユーン。価格変動あり。
ランク F
適正ランク F~E
────────
「ラビラビ?」
「ラビラビよあの。……え、知らない?」
「…………」
「ほらほら、これこれ」
受け付け嬢は頭に手のひらをつけて軽く飛びながら何度か折り曲げた。
────もしかしてうさぎか
「ルビアさん、うさぎって言った方が早くないですか?」
カウンターの近くにいた男の冒険者が見るに耐えかねたのかそう言い、やり取りを見ていた何人かが笑った。
ルビアという受け付け嬢は赤面し、手を下ろして咳払いした。
「おほんっ!そういうことで、これ受ける?」
「あ、あぁ……」
「じゃあちょっと待ってね」
ルビアは依頼書の発行のためいくらか書き物をすると、転写になっていたのか、上の1枚を剥がして少女に渡した。もう一枚は『控え』だろう。
「クエストによっては違約金が発生する事もあるけどこれは書いてないから大丈夫よ。無理だと思ったら素直にやめなさい、坊や」
「……了解した」
「ちなみに私の名前はルビアよ。これからよろしくね」
少女は頷くと依頼主の鍛冶屋へ向かうため外に出た。
「鍛冶屋?ああスコットの店か。それなら……地図でいうと、ここにあるよ」
鍛冶屋は地図に載っておらず、通行人に聞くと地図上を指差してもらいすぐに教えてもらった。
その場所に行くと、もくもくと煙が煙突から出ている綺麗な半円状の建物があった。レンガ造りで入り口の地面からドアまで煤みたいなもので黒くなっている。看板には名前が書いてある。
────スコット鍛冶屋……ここか
クラウディは足元を見ながらドアを開けた。蝶番がギィっと音を立てる。
「いらっしゃいー」
気の抜けた声が僅かに聞こえ、正面のカウンターに目を向けると兜を被った────小柄ではあるが────筋骨隆々の中年の男性が頬杖をついていた。カウンターに横たえるほど髭を蓄えていて口元は見えない。
少女は店内を首を回して眺めた。天上から床面ギリギリまで武器や防具が展示してあり、木箱も点々とし、雑に武器が突っ込まれている。
「気になるのはあったか?」
「あ、いや俺は────」
「ん?お前さん……」
何かに気付いたのか彼はカウンターから出て近づき少女を見上げた。
────え、ちっさ
彼はなんとクラウディよりも頭ひとつ分身長が低かった。
「ほうほう、坊主、中々鍛えてるな」
『生命石』を使って変声しているので女だとは思ってはいないようだ。
彼は少女の腕を取るとジロジロと眺めた。彼女の身体の筋肉は力を入れればかなり浮き出るが、そうで無い時は傍目からはそこまで他の女性と変わらなかった。
「ドワーフ?」
グイグイと少女のあちこちを触る男にそういうと、彼はピタリとやめて眉をひそめた。
「ん?なんだ別に珍しくもあるまい。まあこんな辺境にいるのはワシぐらいだろうがな────で、なんか気になるのはあったかい?」
初めて見るドワーフ族に元男の少女は少しの間見入ってしまった。改めて見ると腕の太さが少女の太ももよりも太い。
────確か結構長生きだったよな
年齢や色々気になることはあったが、彼女は依頼書を取り出してみせた。
ドワーフはそれを受け取ると、おおっ!と声をあげてカウンターの奥の部屋へと消えた。
10分ほど経ったが戻ってこない。
クラウディは近くの剣を手に取った。ありふれたデザインのロングソード。片手で振るには重すぎ、値段をみるとすぐに元の場所に戻した。
────3000ユーンか。高いのか安いのかわからないな
店内を歩き色んな武器を見ていく。
ハンマーに、大剣、小~大盾、頑丈そうな鎧から軽鎧などなど。
元男は手頃の重さの短刀を両手に取り、軽く振り回した。商品を傷つけないように細心の注意を払う。
「おお……おぉ」
鞘に納めた時にドワーフが見ていたのか感嘆の声を上げる。
「その剣────」
「あ、悪い勝手に……」
「お前にやろう!」
勝手に触ってしまったことに慌てて武器を戻し、謝ろうとしたが彼はそう遮った。
「え?」
少女が戸惑っているとドワーフはにこりと笑った。
「自分に合った武器種に重さを見極めているとはなぁ。それになによりその早業……若いのにようやる」
「そんなこと……」
「がはは!謙遜しなさんな!貰えるもんは貰っておけい」
ドワーフは少女の背中を叩いて短刀を2振り持つと、彼女に手渡した。
「まあ代わりといっちゃなんだがその獲物でこの依頼書のラビラビを狩ってくれ。見たいからなその技とワシの作品が混ざるところを」
「ん?」
少女はドワーフが荷物を持っていることに気がついた。何処かに旅に出るのかというくらい大きい。
「わしも一緒に行くぞ」




