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第155話 エルフの森2-③







それから2日後、ようやく森の出口が見えてきた。


「もうお別れですね」


出口が見えて来るとリリウィスが歩きながらクラウディに言った。


「そうだな……」


出口から光が溢れ、そこを抜けると広大な草原が広がっていた。その草原の先には山が見える。


一行は出口の側で最後の休憩を取った。


馬はあまり負荷がかかってないのか比較的元気で光を見ると走りたそうに嘶いた。


アイラが馬の世話をするラルフの側に行くといくらか会話をし、手綱を受け取ると馬の背に乗って駆け出した。


辺りをぐるっと回ったりしとても楽しそうである。


「体力バカは元気だな。……お前も行ってきたらどうだ?」


カイザックがタバコをふかしながら地面に座った。エルフの森では喫煙が見つかるとラルフが注意をしていたので堂々と煙を吸っていた。


「いや、あんまり走らせると流石に疲れるだろ。乗馬は上手くないし」


「さすがリーダー。わかってらっしゃる」


草原は緩やかに下り坂になったりしているので余計体力を使ってしまう。先のためにも馬のストレス軽減のためにも多少は走らせるのは良いのかもしれないが。


「あの……クローさん?」


少女がカイザックと並んで、走る馬を眺めているとリリウィスが側に来てもじもじと体を揺らした。


「なんだ?」


「もうすぐお別れですね」


────さっきも聞いた


「そうだな。世話になった」


「いえそんな……その、良ければオムレツというのを食べたいのですが」


「携帯食じゃダメなのか?」


そろそろ昼時ではあるがわざわざ作るのは面倒くさい。チラリとカイザックに同意を求めようと視線をやると、彼はリリウィスを見て、続けて馬をかけるアイラを見た。


「大方、アイラが有る事無い事いったんだろう?まあ最後だし作ってやれ。俺もお前の手料理が食いたい」


「えぇ……」


彼の耳打ちに不満の声をあげるが、期待のこもった小柄なエルフの眼差しにやれやれと立ち上がった。


荷物の整理をするラルフの側へ行くと、食材を漁る。


「何か作るのか?」


「ああ……ちょっとな」


ラルフが手伝おうと申し出るので、食材選びと下ごしらえを手伝ってもらう。


剣が使えるので包丁の捌きも良いのかと思っていたがそんなことはなく。かなり不揃いになってしまったので後はクラウディが料理をした。


その間に食器やらを準備してもらう。


リリウィスは少し離れたところから見ており、特に卵を焼くところは真隣に来て凝視していた。


────あのガキもこんなだったな……


ふと元の世界の記憶でワンピースを着た子供が頭に浮かぶがすぐに霧散する。


隣で目を輝かせる子供が誰かと重なったことは覚えているが無理には思い出そうとしなかった。


やがて食事の準備ができたころにアイラもやってきて、配ると早速スプーンでそっと具の上に乗った卵焼きを割り食べ始めた。


「うまいうまい!」


それを見てリリウィスも丸まった卵焼きを割った。薄皮の卵が具を覆い、トロッと半熟の卵が後から被さる。その様子に目を輝かせて感嘆の声をあげた。


一口食べて頬を抑える。


「クローさん美味しいです!」


「だろ?!美味いだろ?!」


「……それは良かった」


────うーん、そうか?


すでに食べ飽きているクラウディは言われてもそこまで嬉しくはなかった。


カイザックとラルフは黙々と食べている。


──── まあ美味しそうに食べる姿を見るのは悪くないか


付け合わせのスープを飲みながらクラウディは草原を眺めた。ここを抜けるのにどのくらいかかるのだろうか。ベルフルーシュを出てからすでに1ヶ月近く経っているのだ。


クラウディはオムレツの最後の一口を食べると息をついた。


「米が食べたい……」


誰にも聞こえないよう呟いたつもりだったが、カイザックの耳には届いていた。







「クロー殿。別れる前に一手お願いしたい」


そろそろ休憩も終わりと思っていた頃にラルフが木剣を持ってきておりそれを2振り少女に渡した。


「……わかった。ただスキルがあるなら使って欲しい。勉強にさせてもらう」


怪我をした時には一応中級ポーションはあるので数を確認してクラウディは応じた。彼と戦ったのはあくまでスキルなしの状態。そんなので勝っても面白くはない。彼は1番強いと聞いていたのでおそらく何かしら『職業』があるに違いない。


「後悔するなよ『純心の体』」


細木剣を垂直に構えスキルを発動するとラルフの身体の輪郭に沿って淡い光が包み込んだ。


────やはりな……


そして地面と水平に構える。


「『レイル・ブラスト』」


相手の挙動に警戒していたクラウディは、飛んでくる刺突を間一髪左肩を引いて回避した。


「『レイル・トラスト』」


続けて高速で接近するラルフ。少女は素早い突進突きに右手の剣で弾くがあまりの威力に後ろに吹き飛んだ。


すかさずエルフは近づき突きを繰り出していく。身体強化がされているのか以前よりも速い攻撃に、クラウディは体捌きでは躱しきれずに剣で受け流していく。


タイミングを見計らって、左で相手の剣を右外に弾くと同時に足を上げて相手の顎を蹴り上げた。


ラルフが驚いた表情を見せるが大したダメージにはなっていないようだ。


モロに入ったはずだがものともせず一瞬だけ動きを止めると、彼は独特な構えを見せた。


身体を前傾させ、脇に隠すように剣を下げる。


「『フラシプル』!」


次の瞬間残像が見えるほどの連続突きが繰り出された。


────クソっ。少し反則だが……


あまりの攻撃速度とリーチに後退を余儀なくされ、クラウディは剣を短く持つとそれぞれの剣の上と下で弾いていく。本来なら刃を握る事になるので出来ないことだ。


2発被弾するも負けじと両手を動かし下がりながら何度も避け、最後の一撃を弾いた。


スキルの影響なのか硬直する相手をみてすかさず距離を詰めるが、離れすぎておりラルフは剣を手元に戻すと切先を揺らした。


「『フラックショット』」


不規則な軌道で伸びるような突きに再び後退する少女。


ゆらめく刺突はコントロールと速度はいいが威力がないので弾いても返ってくる反動は少ない。


惑わされずに全て回避すると再び硬直した隙を狙い、2歩で間合いまで入った。柄を持ち替えて片方を逆手に構える。


「『サークルブラスト』!」


危険を察知したラルフはそうはさせじと剣を周囲に振り回した。剣の軌道自体は難なく躱す少女であったが続く風圧に体重の軽い少女は吹き飛んだ。


「くそっ」


空中で体勢を整えている際に敵が遠くから構えているのが見えた。また突進かと思ったが、金色の光る帯が剣から発せられる。


────これは


「奥義『ホライゾン』」


次の瞬間眩い光の束が少女を撃ち抜いた。







クラウディは驚いて飛び上き、腕を構えると素早く辺りを見渡した。


────敵は


しかし周囲には何をしているんだと言わんばかりの仲間の顔が見上げていた。


架空の剣を握る手には何もなく。剣も握っていないラルフを見て少女は自身が負けたのだと悟った。彼はリリウィスと荷物の整理をしているようだ。


「頭を打っておかしくなったか?」


カイザックが構えたままの少女を見て笑みを浮かべながらいう。落ちていた仮面を拾っていたのか少女に返した。


クラウディは構えを解いて受け取って装着すると自身の身体をみた。特に痛みはない。仮面も直撃する前に外して捨てていたので無傷だ。


「傷はリリウィスが治してくれたぜ?」


身体の状態を確認しているとアイラが教えてくれ、ケラケラと笑った。


「無理だったか……」


クラウディはガックリと肩を落としてその場に座り込んだ。男の姿ならまだ戦えていたかもしれない。


「仕方ねーよ。クローは無職なんだし、相手はフェンサーで私と同じSランク級みたいだしさ」


アイラの言葉にそうだろうなと呟く少女。まさかラルフが奥義まで使えるとは思っていなかった。


クラウディの意識が戻ったのに気づいてラルフが近くまで歩いてくる。しゃがんで同じ目線に合わせた。


「起きたか。すまないな、あまりに食い下がってくるものだから本気になってしまった」


なんだこいつ嫌味か?と思い仮面の下で眉間に皺を寄せるクラウディ。しかし負けてしまったので何も言えなかった。


「……私の自尊心のために利用したこと謝罪しよう。すまなかった。だが礼も言おう、冒険者クロー」


ラルフは手を差し出した。見つめる眼差しも今までよりも友好的に見えた。


────正直に言うとは


何となく気づいてはいたが、少女自身もスキルというものの勉強になったので手を取った。本当なら剣の力を使って再戦したいところだが流石に大人気ない。


彼は微笑むとその手を口元に持っていき、そっと手を離した。


一行は少し休憩のちに荷馬車に乗り込んだ。


「じゃあ達者でな」


クラウディは荷車の後ろに座り、森側に立つ2人に手を上げた。


リリウィスが涙を目に浮かべ、アイラに抱きついた。


「アイラさん!また来て下さいね!」


「おいおい……何回目だよ、キリねーって」


かれこれ5回目の抱擁に戦士はリリウィスの背後に立つラルフに目をやった。どうにかしろと目で合図する。


彼はやれやれと、泣くエルフの肩を叩くと引き剥がした。


「アイラさーん……」


「これが今生の別れじゃあるめーし、泣くなよ!また来るからさ!」


「絶対来てくださいね!」


「私としてはもう関わりたくないがな」


リリウィスの手を引くラルフはそう言いながらも穏やかな表情だった。


「カイザック……」


御者を務める情報屋に少女が声をかけると、彼は了解を示すように馬に軽く鞭打った。馬がいななき荷車が進み出す。


「みなさん!また会いましょうね!」


リリウィスが声を張り上げて見えなくなるまで小さな手を振っていた。


アイラも応えるように手を振っていたが、見えなくなると切り替えて前を向き、疲れたようにため息をついた。


クラウディは彼らが見えなくなっても、エルフの森が見えなくなるまで後ろを眺めていた。


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