第154話 エルフの森2-②
その日の夜の野営時、クラウディは自分の見張り番の際にプリムスライムを外に出した。
ゆっくりと上下するスライムは少女の足元へ移動し纏わりついたり辺りを離れすぎない程度に徘徊する。
────なんかいつもと違うな
本来ならその場にとどまって指示を待つ精霊だったが、まるで意思を持ったかのように動いているのだ。
まあいいかと取り敢えず昼間のシャドウレインの姿になるよう命令する。
「あれ?」
しかし姿は変わらず。何度か命令してみるが、反応はない。仕方なく少女自身になるよう命令する。
が、これも反応しなかった。
────え、あれ?まじか
どういうわけか反応しない精霊に焦る少女。これから一緒に戦うイメージをしていたのでどうにか変化させたかった。
スライムの姿のままなら移動は出来るし消化も出来る。もしかしてと思い、いくらか食料やそこらの草などを消化させ再度命令すると少女自身には変身することが出来た。
ほっとして改めてシャドウレインの姿になるよう命令する。しかし反応せず。
悪戦苦闘していると背後のテントから笑い声がした。
振り返るとカイザックがテントから半身出て見ていた。
「なんで変身しないか教えてやろうか?」
「タダでか?」
「……キチンとお願いしたらな」
「頼む」
「ん~?頼む?」
「お、教えてください」
カイザックガはニヤリと笑うとテントから這い出してクラウディの姿のスライムの前に立ちジロジロと眺めた。
少女の方をチラリみて意地悪く笑みを浮かべると急にスライム少女を後ろから抱くとそのままクラウディの隣に腰掛けた。
「……酷く扱うな。それで?」
「まあ焦るなよ」
カイザックはスライム少女の服を弄って胸やらを触り出した。抵抗しないスライムは無表情でなすがままだ。
「どこまで再現してるんだ?クロー」
「やめろ!変なことするな」
下の方に手を伸ばすのを見て慌てて姿をスライムに戻し、戻ってくると手元に抱く少女。
「ちょっとぐらいいいだろ?欲求不満なんだ」
クラウディはカイザックを仮面の奥から睨み早く教えろと催促した。
つまらんなと呟き『生命石』を出せという情報屋。
少女は石を取り出す。
「で?」
「おそらくマナが必要になる。生命石を通して命令してみろ」
────は?難しくないか?
そうは思うが取り敢えずスライムに触れると目を閉じ、石を握りしめながら意識を集中する。
石から伝わる熱を握りしめた手から、スライムに触れる手に流すイメージだ。祭りでカイザックがやってくれたので割とやりやすかった。
「まあまずはお試しで俺をイメージして姿を変えさせてみろ」
なんでお前を?と思うが少女はイメージし、スライムに命令した。
するとマナが流れるのを感じ、スライムはカイザックの姿となった。
「ほぉ~。よく出来てるな」
カイザックが自分を真似るスライムに近づき上から下まで眺めた。
「どれどれ、下はどうなってるか……」
「おい、やめ────」
彼がスライムのズボンに手を伸ばすと偽カイザックは彼の手を払いのけた。
急な行動に呆気に取られる2人。
偽カイザックはクラウディを視界に入れると目の前のオリジナルを押し退け少女の前でしゃがんだ。
そして仮面を取ると顎を指で挟んで上に向けた。
「え」
そのまま唇を重ねようとする。
「っ?!」
突然のことに慌てて少女は突き飛ばした。しかし偽カイザックは起き上がると再び向かってきた。
「おい、カイザック!」
後退りしながらオリジナルに助けを求める。
「ん?いや命令すればいいだろ?」
言われて確かにと元に戻るよう命令するとすぐにスライムに戻った。
────何なんだ一体……
「多分お前のイメージがそのまま行動に反映されたな」
「それってつまり……」
「お前の、俺に対するイメージってことだ」
首を傾げていると考えを読んだようにカイザックが言った。
「反映されたって……今までこんな事なかったぞ」
「プリムスライムは『完全な模倣』の精霊。今までは圧倒的にマナが足りなかったんだろ。あのシャドウレインはケルディアスがマナを与えたから模倣出来たものだし、お前マナないし。消化してある程度は自分でマナの回収は出来るが……」
「……なるほど」
今まで消化をさせるとエネルギーがたまるのかと思って動かしていた。
「ならマナさえあれば俺が2人になって戦うということも可能ということか?」
「理論上はそうなる。完璧なイメージが前提だがな。ただその生命石のマナは込めれてもせいぜい中級魔法使い程度。特別な力や魔法までは出来ないと思った方がいい。出来たとしてもすぐにスライムの姿に戻るだろうな」
スライムは今は少女の足に纏わりつき大人しくしている。
「教えてくれて、助か……ありがとう」
スライムを瓶に戻すとインベントリにしまった。丁寧に礼を言わないと何か言われるので言い直す。
使う場面は限られるだろうが、カイザックのおかげでプリムスライムの能力が判明したので感謝した。
「いいさ。それより俺に他に何か言うことがあるんじゃないか?」
カイザックは少女の隣に腰掛け顔を覗き込んだ。
灰色の瞳がじっと見据える。
なんのことかわからず首を傾げると腰をポンポンと軽く叩かれる。
「……あぁ」
おそらくインベントリのことだろう。今まで見せたことがあるのはスコットだけだったのだ。
「ほら、あまり見せびらかすと良くないと言うだろう?」
「悪用対策か?俺様が悪用すると?」
「念の為だ」
「……」
変に思われないよう淡々と答えたつもりだったがカイザックは何か気に食わなかったのかジロリと睨んだ。
また何かされるかと身構えていたが特にそんなことはなく、彼は立ち上がると用を足してくるといって茂みに消える。
そして再び戻って来ると飲み物を飲んでテントに入って行った。
────謝ったほうが良かったか?
いつもならゲームをしたりするがそれもなかったので怒らせてしまったかと不安になる少女だった。




