第152話 エルフの森1-②
一行は日が暮れる頃に道の真ん中で野営をすることにした。
道のど真ん中で大丈夫なのかと問うと、ラルフはこの森の中では何処で野営しようと同じだと返答した。
男女で分かれテントを2つ立て、焚き火を組む。
「やめろ。これを使え」
しかし火をつけようとしたところでラルフが来てとあるものを地面に置いた。
脚の長い五徳のようだが、穴は空いておらず魔法陣が描かれていた。
リリウィスに声をかけ彼女が杖を振ると小さな火が飛び、簡易コンロに火がついた。
────便利だな
どうやら火種を使って火がつけられるコンロのようだ。火が大きいためリリウィスが調整して中火にする。
「火をつけましたが何か作るんですか?」
「……え、誰か飯作らないのか?」
「……」
周りを見渡したが誰も目を合わせなかった。
「すみません、私料理は出来なくて」
リリウィスが眉尻を下げる。
「ラルフは?」
「私は作らん。第一、持ってきた携帯食があるだろう」
────え、俺が作る感じかまた
仕方なくクラウディは荷物を漁って食材を出すと手際よく食事を作り出した。
大きな鍋に肉と野菜を入れて炒め、ミルクなど入れてシチューを作る。
エルフたちのような彩りはないが腹を満たすには十分だろう。
パンを添えてシチューの入った器を配ると皆文句言わずに食べ始めた。リリウィスとラルフは手を前に組んで何か呟いていた。エルフ特有の習慣だろうか。
「私たちのより味が濃くて美味しいです」
「へへ、そうだろ?こいつの料理美味いんだよ」
リリウィスが褒めると何故かアイラが自慢する。
確かに味付けはエルフの薄味でなく自分たちの好みにしていたが、小柄なエルフの言葉は裏を返せば薄味は美味くないと言っているような気がした。
知らなければそれが当たり前となる。もしかしたら今後エルフのシチューは美味くないと感じるかもしれない。
クラウディは余計なことをしたかとパンを齧った。
「クローのおむれつが特に美味いんだって」
「え、そんなのがあるんですか?ぜひ食べてみたいです」
「だってさ!また作ってくれよ!」
アイラはそう言って少女の背中を急に強く叩いた。食物が変なところに入ってむせ込むクラウディ。
────絶対に作らん
仮面の裏を拭きながらそう思うのだった。
見張りは男だけで回すとラルフが言い、アイラとリリウィスは早々にテントに入った。
────俺も一応女なんだが……いや、こう言う時だけ利用するのは無しだよな
ラルフとカイザックの打ち合わせを聞きながら何とも言えない気分になる男装少女。
「では、私、カイザック、クロー殿でいいか?」
「まあいいだろう」
納得したようでカイザックは話が終わるとさっさとテントに入って行った。
「クロー殿も良かったか?」
「構わない」
ならば良しとラルフは火のついたコンロの前に座り手をかざした。
「……」
「……」
「……休まないのか?」
立ったまま見つめている仮面の冒険者にラルフは声をかけた。
クラウディは彼の正面に座り同じく手をかざした。夜はじっとしていると肌寒い。
「良いコンロだな。マナは使うのか?」
「いや火種さえあれば、火はつく。薪を燃やすと煙が出るからな。森によくない」
実はクラウディは目の前のコンロをどうやって手に入れるか思考を巡らせていた。やはりマナを使用しなくて良いと聞いて尚更欲しい。薪を集めなくてよくて煙が出ないと言うのは最高だった。何より薪をインベントリに入れておかなくても良いし、場所も取らない。
「私はお前が嫌いだ」
「ん?まあ人族だしな」
「っ……エルフであってもだ」
「え……?」
────それは1人の人物としてということか?
クラウディは辛辣な言葉に少し残念に思うが、そうは言っても異種族だから仕方ないと自身に言い聞かせる。
しかし、いつかリリウィスから『ファン』だとか聞いていたが、やはりそんな事はないのだろう。
「いや違う……違う。そうじゃくてな……お前が私のせいで酷い目に遭ったと聞いた」
こめかみを押さえて顔を伏せるラルフ。髪が少し乱れて前に垂れる。チラリと眉間にシワが寄っているのも見えた
「酷い目に?そんなことあったか?」
「?!こちらの女どもと男たちに……あっただろ……その……」
髪をかきあげるラルフ。長い耳が徐々に赤くなるのが見えた。
────あ、そういうこと
陰湿な女エルフたちに身体を弄られたことを言っているのだと気づいて少女は肩をすくめた。男たちのことはよく覚えてないが、カイザックからもそういうことがあったと聞いていた。
「まあストレスでも溜まってたんだろ」
「お前!まさか許すと言うのか?」
「いや許すというか、気にはしてないからな。あれから会うこともなかったし」
「気にしてないなんてこと…………はぁ、いやそれについては謝罪する。申し訳なかった」
ラルフは呆れたようにため息をつくと観念したように深々と頭を下げた。
「……まあ別に……!」
少女は相手の頭を見てあることが閃いた。
「許すからこのコンロくれ」




