第151話 エルフの森1-①
祭りの日から3日後。
クラウディたちはエルフの里の結界の境界へ来ていた。
馬と荷車もアイラとエルフたちが数日前に回収してきてくれていたようだ。馬は雨が降ったりしたが無事でいてくれ、荷車はエルフたちが気持ちばかりの贈り物を載せてくれている。
「じゃあ、世話になった」
見送りに来ているアルディシエたちを振り返り手を上げた。
「はい、道中気をつけて。一応迷わないよう出口まではラルフとリリウィスをつけます」
一行の先頭にいるエルフの2人に目を向けると2人は頷いた。
クラウディは他のエルフと背中を叩き合っているアイラに声をかけた。友人ができたからと言ってこの3日間ずっとそれらと遊んでいた。
名残惜しそうに別れるとクラウディたちに合流する。残ってもいいと割りかし本気で提案したが、冗談はやめろよと笑う。
カイザックは姿が見えないがおそらく身を潜めているのだろう。よほどアルディシエと距離を置きたいようだった。
アルディシエは辺りを見回してカイザックを見つけられずにいるとクラウディに耳打ちする。
「近くに来た時は必ず寄るように言っておいてください」
「……了解」
別れの挨拶もほどほどに一行は結界を抜けて森を歩き出した。複雑なエルフの道で馬に負担がかからないよう森を出るまでは皆自分の足で歩くことにした。
エルフの里は当然すぐに見えなくなり、声も聞こえなくなった。
ラルフとリリウィスを先頭に道を10分くらい進んでいくとカイザックが姿を現して少女の側に並んで歩く。
「アルディシエがまた来いって言ってたが」
「ふーん……」
先程のエルフの言葉を伝えるも、さも興味なさそうに彼は欠伸した。
続けて少女を上から下まで見てため息をつく。
「エルフの服は着ないのか?貰ったんだろ?」
彼に言われた通り一応下がタイツ式の魔法衣を貰ってはいた。
「動きにくいしあんなもの二度と着ない」
「そりゃ残念。似合ってたのに」
「見たいならアイラに頼めばいいだろ」
「見慣れてるから何とも思わん……」
「あ?てめーカイザック。悪口言ったな?」
会話にアイラが加わると少女を挟んで言い合いが始まる。
────ああ……始まったな
しばらく見なかった光景が繰り広げられてクラウディは肩をすくめた。
それからさらに2時間ほど景色を眺めながら歩いて一行は小休止することにした。
近くでは小川が流れており、魚が幾らか泳いでいた。アイラが食料だと嬉々として捕まえようとするのをリリウィスが止める。
「無闇に捕ったらダメです!食料はあるんですから!」
「ちぇっ」
エルフたちの衣食住事情として無闇な殺生はしない決まりらしい。その日食べる分を食べるだけ狩って食べる。木を倒せばその分何処かに苗を植える。そうやって循環させているのだとか。
戦士が口を尖らせているとリリウィスが持ってきていた菓子を分けてくれたので、彼女はご機嫌となった。
「俺はいい、それよりいくらか出来てるか?アレ」
小柄なエルフが隣に座る少女にも菓子を差し出したので断り、とあることを尋ねる。
リリウィスは自分の荷物からあるものを取り出して2つ置いた。木でできた3cm位の頭が丸い、裾口が広がった腕のない人型の駒だ。
「まだこれだけです。うまく出来てますか?」
「っ……上手い。さすがだ」
クラウディは自分が作ったものと見比べると明らかに精度が違った。エルフが作ったものは滑らかな曲線で角がない。しかし少女のほうは荒削りでゴツゴツとして強く持つと角が指に食い込んで痛い。
────見張りの時にでも手入れするか
クラウディはあるものを作るためにリリウィスに手伝ってもらっていた。この『アストロ』の世界にはないものだ。
エルフは手先が器用で木彫りの装飾なんかは素晴らしかった。なのでこの2日間はリリウィスから教えてもらっていたのだ。
彼女は嫌がらず親身に教えてくれた。
それから一行は30分ほど休憩し再び出発した。
目指しているのは入ってきた方と反対側で、抜けるまで歩き続けて5日はかかるらしい。
森は静かで時折生き物の鳴き声がした。
進み続けているとクネクネした小さな生き物が横切る。
何かと思いクラウディは剣に手をかけるがラルフがやめろと手で制す。
「『ホロ』だ」
「ホロ?」
「ここらで出る精霊です。友好的なので攻撃はしないでください」
リリウィスが補足説明し一行は再び歩き出した。
その間も辺りからガサガサと草をかき分ける音が聞こえ何度も何かが横切る。
────ついてきてるな
先程『ホロ』と呼ばれた生物は好奇心旺盛なのだろうか。足元をウロチョロしたりし始め、誤って蹴飛ばしそうである。
「うざってーな……なぁ叩き斬らね?」
煩わしく思った女戦士がクラウディに耳打ちした。
「そんなことしたら前の2人に恨まれるぞ」
そんな2人の前を横切るモンスター。アイラの目がギラつき、素早く首根っこを掴むと振り回して頭上高く掲げた。
「捕ったどー!」
その声に全員が注視する。捕まえられたモンスターは体高50cm位の生き物。球根から根の足が生え、伸びる茎に花が咲いていた。
花の模様がデフォルトされたキャラクターのように笑った表情に見えた。しばらくジタバタしていたが花の模様がへの字になり大人しくなった。
「なんてことするんですか!?早く離してください!」
「痛てっ!」
リリウィスが持っていた杖でアイラの手の甲を叩くとホロは飛んで抜け出し、近くに来ていたラルフの腕に掴まった。
そのままよじ登り隠れるようにラルフの頭の後ろに移動する。
側から見たら頭に花が生えたように見え、アイラとリリウィスは思わず吹き出した。
「だっせー!」
「あははは!!」
クラウディはその様子にラルフが怒るのではないかと思っていたが、彼は終始冷静で首の後ろにいるホロの頭を撫でると優しく引き離し腕に抱いた。
「へぇ……お堅いラルフ様がモンスターに優しいとはな」
カイザックがニヤニヤしながら皮肉を言う。
「モンスターではない。精霊だ」
片眉を上げそっと地面にホロを降ろすと精霊はそそくさと茂みに入り姿を消した。
「遊んでないで行くぞ」




