第149話 歓迎の儀④
カイザックはアルディシエに連れられ席に座らされると酒に付き合わされていた。クラウディたちのいる中央広場でなく裏の方なので静かではある。
「────聞いていますか、カイザック?」
「ん、ああ」
「そもそも何故今まで顔を出さなかったのです?情報屋と言っても時間くらいあるでしょう?」
酒を片手に口を尖らせるアルディシエ。
「忙しいに決まってるだろ……俺はイコールの……はぁ」
カイザックは酔っている女エルフに何を言っても仕方ないとため息をついた。
────早く潰れろ……
「すまないな、だがこうして会いに来たんだ。小言は言うなよ。今日の夜辺りどうだ?相手してくれるか?」
「カイザック……い、いえ騙されませんよ私は」
「そこを頼むよ。可愛い俺のアルディシエ」
彼はエルフの手を取り、その甲に口付けした。
「そ、そこまで言うなら……」
モジモジするアルディシエは酒を煽った。空になったグラスにすかさずカイザックは自分の強い酒を混ぜて注ぐ。
うっとりとしながら彼を眺めるアルディシエは気付かずに強い酒を飲まされ続け、1時間後には切り株のテーブルに突っ伏していた。
「さてと……」
カイザックは酔い潰れた族長を冷ややかに見つめ、丁度やってきたラルフに目を向けた。お祝い事に何故か帯剣までしている。
「よお、遅かったな。潰れちまったからあとは頼むわ」
「貴様……よくもアルディシエ様を」
酔い潰れた族長を見てワナワナと震えるラルフ。怒りが手に取るとるようにわかる。
「はいはい、わかったわかった。邪魔者は去るとしよう」
カイザックは自身のグラスを置いて立ち上がった。
「……変な気は起こすなよ?お前如きが俺に叶うはずないだろ?」
殺気を放ち剣に手をかけるラルフを威圧する。ギラリとするカイザックの眼光から放たれるどうしようもない威圧感にラルフの頬から汗が滴り、舌打ちするも身動きが取れず。
「あとは頼むぜ、ラルフちゃん」
硬直して動けないエルフの肩を叩きカイザックは中央の広場へと足早に向かった。
広場はもう酔っている者が多く、そこここで歌を歌ったり踊りを踊っていた。
アイラに至っても大声で手を叩きながら、踊る男女をはやしたてている。声音からして相当酔っており近づかない方がいいだろう。
辺りを仕切りに見渡すがクラウディの姿が見当たらない。本来なら彼女と一緒に過ごすつもりだったがアルディシエのせいで時間が削られてしまっていた。
────どこだ?
クラウディが最初にいた所まで戻って来たが一向に見当たらない。
「あ!カイザック様ー!」
近くのテーブルから声が聞こえ振り返ると女エルフのグループでそのうちの1人が手を振っていた。彼が気づくと手招きする。
カイザックが近くまで行くと黄色い悲鳴が聞こえる。
「わー!人族にしてはイケメン!一緒に酒でもどうですかー?」
────エルフはどいつも同じ顔でつまらないな
目の前の女エルフたちを見下ろしてカイザックはせせら笑った。しかしそれは一瞬であり女エルフたちは気づきもしない。
彼は身を屈め、近くの2人の肩に腕を回した。嬉しいのか身をくねらせる2人。
「レディーたち、俺の仲間を見なかったか?仮面を被ったやつなんだが……」
「えーあの変な娘?もしかしてあんなのが好きなんですかー?」
カイザックは笑顔だったがピクリとほおが引き攣った。
────ただの飾り風情が……
「そうそう、大事な話があるんだ」
「確かぁ、オックードが攫って行ったよね」
別のエルフが同意を求めるように仲間に振ると皆頷いた。
「オックード?そいつはどこに?」
「ほらあそこです。見えづらいけど」
指さされた方を見ると50mくらい離れたところに男エルフが固まったテーブルがあった。その中に埋もれるような黒髪が僅かに見えた。
カイザックは抱く肩をぱっと離して立ち上がった。支えがなくなった女エルフたちはお互いの頭をぶつけて痛みに非難の声を上げる。
彼は冷ややかな視線を彼女らに送ると仲間のいるテーブルへと向かった。




