第147話 歓迎の儀②
クラウディとアイラは朝早くからやって来たリリウィスに叩き起こされた。
「あんだよも~」
戦士のアイラが眠たい目を擦りながら身体をおこした。少女も起き上がって頭をボリボリと掻く。そんな彼女らをリリウィスは腕をグイグイと引っ張って起こした。
「着替えてください。行きますよ!────あ、ちゃんと客人用の服を着てくださいね!」
最初にもらった服とは別の衣装が机に置かれており、寝起きでもたもたとしている女戦士を小柄なエルフは手伝うが、もう1人が男装しようとしているのを見てもう一度声をかけた。
「う……せめて下はパンツ型とかないのか?」
クラウディは置いてある客人用の服の肩口を持って広げ、改めて嫌だと示す。
────客観的に見てエロ服だろ
装飾は違うが、やはり脇と後ろがばっくりと開いた服で下も丈が短いスカートである。ちょっとでも走ろうものならショーツが見えてしまう。
「そういうと思って横に置いてます」
言われてもう一つの方を見ると確かにパンツスタイルであり、着てみる。
「ちょっときつい……」
着たはいいが胸と腰回りがきつい。胸サポーターを着用しようにもキツすぎて流石にやめた。しかも腰ベルトはあるが股の方は隠れてないのでショーツのラインがクッキリと出ていて大丈夫なのかと不安になった。
「いいじゃん似合ってる似合ってる」
アイラが着替え終わって堂々としている姿をみて違和感のなさに羨ましく思った。
普段から薄い服を着ている戦士はショーツが見えても気にしないのだろう。
「もう時間ないです行きますよ!」
手を引っ張られクラウディは何とか仮面だけは掴んで着用した。流石に素顔では落ち着かない。
外に出て下まで行くと里のエルフたちがそこここに見えた。
大木群の中心では来た時にはなかった切り株が点在し、それぞれ彩な食事が用意されている。
その切り株や大木には動物を模った木彫りの像や垂れ幕などが飾られ華やかなイメージを受けた。
また、切り株にはかなりの数のエルフたちが控えておりほとんど出て参加しているのではないのだろうか。
辺りの景色など余所見をしていたので目の前にいる人物に気づかずぶつかってしまうクラウディ。
見上げるとカイザックだった。彼もまた別の衣装を着ており胸元が開いた服で装飾品がやたら多い。
「似合ってるじゃないか。その仮面は要らんと思うがな」
カイザックの後ろにはアルディシエとラルフ姿が見え、クラウディたちを一瞥すると微笑んで声を張り上げた。
「これからこの者たちの歓迎の儀を始める!」
静かな森に響き渡る声は流石年長者というべきだろうか。
「先日の出来事はこの者たちの協力により収拾された!まずは感謝を!」
エルフたちは立ち上がり深々と腰を折った。その光景にぎょっとしていたのは少女だけで、カイザックとアイラは手を挙げて応えた。それから10分程、族長がつらつらと長い文句────伝統やら、歴史やら────を連ねていった。
「────では皆ぜひ種族の軋轢など気にせず1日楽しむよう!」
アルディシエが下がるとエルフたちは各々切り株の所へ行き食事を開始した。
カイザックがクラウディの腕を引こうと手を伸ばすが、アルディシエが先に彼の腕を取り引っ張ってどこかへ行ってしまう。
アイラも飯だと叫んで近くの切り株へ突進していった。
1人残された少女はどうしようかとウロウロし始めた。
アイラのところへ行こうと思ったが席が空いておらず。こういうことが苦手な元男の少女は仕方なく気配を消して引きこもろうとした。
と、そんな様子の人族を見かねたラルフが舌打ちし、少女の手を取ると腰を折ってその手を自身の口元まで持って行った。
一瞬口づけされるのかと思ったが真似をするだけでそれが終わると手を引き開いている切り株へと連れていかれる。
そこにはエルフが4人ほど座っていた。女エルフが4人だ。全員金髪で体型や髪型はまちまちだが、顔はやはり整っている。
「ラルフ様!どうぞお座り下さい!」
ラルフが空いているところに座り、促されて少女もその隣に座った。
「まさかここに来てくださるとは思いませんでした!」
「さあ色々召し上がってください」
彼女らは各々が皿に食事をよそいラルフの目の前に置いていく。
クラウディはナイフとフォークを握って待っていたが彼女らは少女の前には置かず。
仕方なく皿を取ると自分でよそって食べ始めた。食事にはローストビーフやら燻製肉やら肉類も多く、ほとんど誰も手をつけてないのでそれを多めに取った。
ハーブやら香辛料の効いた味付けに美味いと呟いた。
「あなた仮面は邪魔じゃないんですか?」
女エルフの1人が仮面をずらして食べる少女を見て尋ねた。髪が短く、服装は簡易なシャツと短パンである。それでも映えるのは容姿がいいからこそだろう。
「慣れてるからな」
「あれ、男の人?」
仮面の変声で低い声を出していたクラウディは、自身の格好と違いがありすぎて変であることに気づいた。
「悪い、一応女だ」
変声機能を解除して本来の声で話すと、変な人と、高らかに笑われた。
それからは特に話すこともなく、女エルフたちはもっぱらラルフと談笑していた。隣に座る少女には目もくれていない。
────とても歓迎されてる感じはないな
人族を嫌っているから当然だろうが、もう少し視線を送ったりしてくれても良い気がするが、話すのが苦手な元男は逆にありがたいと思う。
クラウディはエルフたちが会話する様子を見ながら黙々と料理を食べた。
やがてラルフが別の所へ挨拶に行くと立ち上がり他所へ行くと、残念そうにエルフの女たちはため息をついた。
そして少女に視線が集まる。
────え、怖……
彼女らはクラウディを取り囲むように移動して座った。




