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第145話 カイザックの部屋






クラウディはアルディシエたちが去った後は軽く運動をして、カイザックの部屋を訪ねた。アイラは嫌がったので部屋へ置いてきた。


ドアをノックすると────入れ────と情報屋の声がした。


クラウディがドアを開けていると中を見渡す。


1人部屋なのに少女たちよりも一回り広い部屋で、部屋の家具の配置は一緒だが、装飾品は心なしか少し豪華に見えた。


カイザックは机の上に何やら道具を広げており手入れをしているようだ。


少女に視線をやると彼は正面に座るよう顎で示した。


「お前か、何の用だ?」


座ってキョロキョロと辺りを見渡す少女を見てカイザックは尋ねた。


「この部屋、なんか豪華だな。VIPルームってやつか?」


「俺様の部屋だからな」


「……お前のなのか」


二つの意味に聞こえる発言に首を傾げ、少女は机に目をやった。


「それは?」


大筒が置いてあり、おそらく洞窟で使用したものだろう。凝った装飾はなく、ロケットランチャーのように見えるが持ち手はあるものの引き金はなく、ところどころに縁の重なった魔法陣のような模様が描かれている。使用したからなのか、口の部分が破損していた。


「これは魔法具のひとつ。筋肉女の属性武器みたいなもんだ。あらかじめマナを込めていた弾を打ち出してぶつけるんだが…………まああいつには大したダメージはなかったがな」


カイザックは魔道具を持ち上げ、破損具合を目を細めて確かめる。色んな角度から見て模様を触ったりするがやがてため息をついた。


「なんだ?直らないのか?」


「そうだな、あの化け物の攻撃を防ぐのに盾みたいにしたから壊れてしまったようだ……残念だ」


彼は肩を落とすとインベントリに本体と破片の残骸をしまった。


続けて何か取り出そうとしたが手を止めて少女の方に目をやる。


「で?何の用だ?」


「いや助けてもらったからな……助かった」


「…………それだけか?」


「…………」


「…………はぁ」


カイザックは身じろぎ一つしないクラウディに苦笑した。


「助けてもらったのはエルフたちと俺だ。お前がいなければ全滅もありえた」


そうか?とクラウディは首を傾げた。少女の見解的にはカイザックはなんとか生き残ってそうだと思っていたのだ。


「お前を援護したことに礼はいらない。むしろ貸し2つ分くらいチャラにしてやるよ」


「それは助かる」


クラウディはそこでふと衛兵の2人は何処へ行ったのだろうかと頭に疑問が浮かんだ。ギルドの調査依頼で派遣された男女2人、マゼルとペインタだ。


クラウディたちが会ったのは偽物だと言っていたが、ならば本物はどこに行ったのか。そもそも2人は存在しないのか。しかしギルドが送った人員はいたはずなのだ。


「そういえばあの本物の衛兵は何処に行ったんだろうな」


その言葉にカイザックは真顔になる。


「まあそうだよな……」


「?何か知ってるのか?」


「単刀直入に言うが、洞窟の魔法陣にあった肉塊……あれが2人だ」


「?!」


洞窟の中にあった複雑な魔法陣。その中心にあった肉塊。原型も何もなかったが、本当にあれがあの衛兵2人なのだろうか。


カイザックは信じられない少女にインベントリからとあるものを取り出して机に置いた。


血に濡れ、折り畳まれた羊皮紙が2枚。


開けてみろと顎で示されクラウディはそれを手に取ると広げた。


マゼルという男の衛兵としての身分証だった。そしてもう一枚もペインタのものだった。


「まじか……」


「お前が気絶した後、洞窟を崩す前にアルディシエはまた編成隊を組んで洞窟に行かせたんだ。もちろん安全を確認の上でな。俺もついて行ったが……その時に荷物もあって確認した。間違いない。ただ────」


「?」


「あの肉塊は死後何日か経ってる」


「……じゃあやっぱり俺たちが会ったのは偽物だったのか」


「そうなるな。元の姿は……まあ今となってはどんなものだったかはわからないか。そのまま模していたのか、はたまた少し変えただけなのか」


「……そうか」


「気に病むとは思わないが、気にするなよ。身分証だけでも回収出来たことが割と奇跡なんだ。ギルドに報告して終わりだ」


「ああ、分かってる」


「…………」


「…………」


カイザックは黙って何も言わなくなった少女を見てポリポリとこめかみを掻いた。


少女自身は彼のいう通り特に気に病んではいない。ただ、いつかの僧侶アラウに化けていた人間の事を思い出していた。結局あれも謎のまま、誰が化けていたのかもわからない。そういう魔法なのだろうが、2度も化かされるとはこの先大丈夫だろうかと不安になる。


「……なんか飲むか?」


彼は立ち上がりインベントリを漁って瓶を幾らか棚に並べて眺めると、グラスを取り出して何やら作り始めた。


そういえばとクラウディは考えを一旦中断し、先程貰った剣を机に置いた。見るように声をかけるが、彼はチラリと一瞥しただけでニヤリと笑う。


「ああ、それか。処分品だな」


「は?」


「そんな誰も使えないものいらないに決まってるだろ?丁度お前の剣が折れてその剣が扱えるから体よく押し付けられたのさ。馬鹿だな」


────いや、そんな気はしてたが……


改めて言われると頭にくるものがある。


「といっても良いとは思うけどな。魔法を弾く剣。弾ける範囲も狭くて至難の業だが、お前なら可能だろうし」


カイザックは飲み物が出来上がったのか半透明の赤い液体の入ったグラスを机に2つ置いた。


例のフラム────とある木の皮の内皮を削ったもので丸めて乾燥させると甘い風味が出る、要はストローのようなもの────が添えてあって飲みやすくしてくれている。


クラウディは仮面をずらしてストローに口をつけた。


「おい、仮面くらい取れよ。もう顔も知ってるし」


「ん、ああ……」


言われて少女は仮面を外してグラスの横に置いた。


飲み物は甘くてサッパリとした、いつか飲んだジュースに似ていた。


────あれより少し酸味が強いか?


「もう警戒しないんだな」


「ん?」


「最初は警戒してただろう?何か入ってるかもしれないのに」


「ぶっ、く……なにか入れたのか?!」


少女はその言葉に吹き出しそうになりながらグラスを置いた。カイザックは答えずニヤニヤと笑っている。そして返答するように自分のグラスに口をつけた。


「想像に任せるさ」


「勘弁なんだが……」


────冗談なんだろうな


彼はイタズラする癖があり、少しわかってきた少女は警戒する必要はないだろうとジュースを喉に流し込んだ。


カイザックは少し付き合えと言い、立ち上がるとエルフが出してくれたという菓子と、彼自身には酒を出した。


クラウディは置かれた菓子を一つもらうと一口で食べる。


エルフの菓子は萎びたクッキーのようなもので甘さは控えめだった。元男の世界と比べると少々健康的過ぎである。もちろんそういうものもあったのだろうが。


「なんだ?何かついてるか?」


菓子を頬張っているとカイザックが頬杖をついてじっと見ているのが目に入る。


彼自身は酒を少し飲んだくらいで菓子には手をつけていない。


「お前は一体何者なんだ?」


不意に聞かれて手を止める少女。


「……何者とは?」


「俺様を『イコール』の情報屋と知ってるだろ?クラウディ?」


「…………」


クラウディは本名を言われてもさして驚かなかった。情報屋である彼がその程度のことを知らないわけがないのだ。


「『死の森』方面から来た人間。ローランドルで冒険者登録し、レイボストン、ベルフルーシュにランクを上げつつ来たと。性別は女。年齢15~20。だが、職業は『該当なし』……と」


ペラペラとクラウディの足跡を喋るカイザックはどこか得意げであったが、すぐに真顔になる。


「『無職』でその強さは何故だ?普通ではないと理解しているか?剣の光はなんだ?どうしてマナがほとんどない?死の森の前は何処にいたんだ?」


続けて質問攻めにする情報屋に何も言えない少女。


元男の少女は地球についてのことを話すかと迷った。もしかしたら帰る手立てが見つかる可能性がある。


────今なら言えるか?


彼のいう通りこの世界では自身が普通とは違うということは理解していた。強さに関しては正直この程度なら元世界ではゴロゴロいたし、なんなら男の時より弱い。


ただ剣の力は記憶が定かではないが、確かに元世界のものなのだろう。この世界では異質だ。マナがないことのハンデとして使ってはいるが……。


「……言いたくないことの一つや二つ誰にだってあるだろ。お前にもあるんじゃないか?」


結局、少女は説明も面倒臭いので黙っておくとこに決めた。何となくまだ言うべきではないと判断したのだ。


そうくるかと肩をすくめるカイザック。


「ま、そうだな。今のところは害はないし」


彼は酒を煽るとクラウディの隣に移動した。少女はまた菓子を食べていたが、視線が気になって身体の向きを変えた。


クッキーは飲み物と一緒に食べると甘さが丁度よくなって悪くはない。黙々と食べているとカイザックが急に少女の肩に手を回して引き寄せた。


「クロー、今日ここに泊まって行けよ」


「え、嫌だが?」


「……俺様の誘いを断るのか?」


「抱き枕になるのはアイラだけで十分だ」


「へぇ……羨ましいな。けど俺ならもっと楽しいことが出来るんだがなあ?」


妖艶な顔つきの男は肩に置いた手を腰に回し、そのまま胡座をかく少女の太ももに移動させる。


クラウディは太ももを触られ、嫌悪感に手を払いのけた。


この手の冗談にはどう対処したものかわからない少女は、仮面をつけると立ち上がった。


────礼は言ったし、もう用はないな


「もう行くのか?残念なやつだなぁ」


無理に引き留めようとしないところを見ると、やはり冗談だったようでクラウディは安堵した。旅の同行を拒否するとか言い出したら泊まるしかないがと思っていたのだ。


彼を引き止められるなら多少は我慢するしかない。


「アルディシエがいるじゃないか……」


そういえばと提案するように名前を出した。しかしカイザックは苦笑いし、こめかみを抑えるとさっさと行けと手で追い払う仕草をした。


クラウディはクッキーをもう一つ頬張ると彼の肩を叩き部屋を出た。


────仲が良いというわけじゃないのか……


純潔を奪ったということはそういう事をしたのではないかと思うが、本当のところはわからない。


疎い少女は想像するのはよそうと自分の部屋へ向かった。

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