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第144話 報酬と黒い刀






真っ白な空間────


一体何度目なのだろうか。元男の少女は少しの間ソレを待つ。


『少しはマシになったか?』


後ろから声がし振り返ると全身黒づくめの元男の姿の何者かが姿を現した。


『助かった、感謝する』


クラウディは今度は声を発せれるようになっており、頭を下げたがそれを見て相手は首を振った。


『さて……何のことやら』


『……お前は何者なんだ?俺を知っているのか?』


『知ってるとも知らないとも言える』


『…………』


『主はまだこの空間に長く留まれまい────』


元男の姿の何者かは辺りを見渡した。当然何もないが。


『我はお前の妖刀────』


『俺の……』


『ん?もう時間か……やれやれ早いな』


黒ずくめの男は背を向けた。


『待っ────』


『我の本質を見失うなよ』







少女は手を伸ばした瞬間に目が覚めた。木造の天井が見える。


クラウディは上げた手を下げて身体を起こした。


先程の夢がまだ記憶に残っており覚えている事を口にする。


「『本質』……か」


言葉に少し違和感を感じながらも確かな存在に触れたことに元男は妙な安心感があった。


────ろくに話せなかったな


ぼんやりと正面を見つめて頭をかくと辺りを見渡す。


現在いる場所はどうやらエルフの里の客室のようだった。


クラウディは薄い寝巻きに着替えさせられており、荷物やらは部屋の端にまとめて置いてあった。


立ち上がると荷物を漁る。特に変化ないが折れた剣は見当たらなかった。一時的に不思議な力で刀身を再現していたものの、本体は折れてしまっていたので捨てられたのかもしれない。


あれからどうなったのだろうかと気になる。エルフたちはかなりやられてしまったし、アイラは腕がなくなっていた。


少女はアイラたちを探すため、旅人の服に着替えて男装すると部屋の外に出た。


と、丁度食事を運ぶリリウィスとアイラの姿が目に入った。木製のワゴンに美味そうな食事が載っている。


アイラは部屋の前に立つ仲間に気づくと驚いて目を見開いた。


クラウディも彼女の腕が治っているのを見て安堵する。治っていると言っても完全ではなく、薄っすらつなぎ目の跡が残っていた。


アイラは足を早く動かし側まで来ると抱きついた。






「ていうことは3日経ったのか……」


クラウディとアイラは部屋に戻って遅めの昼食を摂っていた。アイラの分だけだったが、リリウィスにもう1食分運んでもらい、少女も食べる。


リリウィスはクラウディの目が覚めた事をアルディシエらに報告してくると足早に出て行った。


アイラは食べながら事の経緯を説明した。


少女たちのおかげで召喚された敵は倒す事ができたらしい。アイラの腕は持ち帰っていたので、僧侶のエルフの回復魔法で多少跡が残ったものの治った。問題なく腕は動く。


ダークエルフは結局再び姿を現すことはなく、のちに洞窟も塞いだとのこと。ただエルフたちの犠牲が多く、半数を失ったことで昨日葬儀が行われた。


多くのエルフが参加して失った仲間に涙を流したそうだ。


「カイザックは?」


最後の記憶は彼に背負われているところで、現在どうしているのか少女は尋ねた。


「ピンピンしてる。さすがに今は自粛して外でタバコでも吸ってんじゃね?」


────なにを自粛するんだ?


あとで様子を見に行こうと甘いジュースを口に含んで飲み込んだ。


カイザックには助けてもらったし礼は言わなければならないだろう。


食事が終わった頃に外から足音がして誰かが部屋の前に立ち止まるのがわかった。


「よろしいですか?クローさん、アイラさん」


アルディシエの声がし、返答すると垂れ幕を潜ってアルディシエが中に入って来た。側にリリウィスとラルフが控えており何か袋のようなものを持っている。


エルフの族長はリリウィスに机の上を片付けるよう命令し、彼女が手際よく綺麗にすると自身はクラウディたちの対面に正座した。その行動にラルフが片眉を上げ瞼をひくつかせるがなにも言わなかった。


精霊に祝福されしもの(イリーデイーサ)よ。この度はご協力いただき、まずは感謝を」


アルディシエは頭を下げる。クラウディはこういうかしこまった時なんて言うのかわからない。


「いや、そちらの被害が結構なものだったと聞いた……俺たちには構わなくていい」


彼女の膝に置く手が握られ僅かに震えているのが見えた。誰か親しいものがいたのだろうか、いやエルフの長なのだから悲しんで当然だろう。それかもしかしたら協力者に憤りを感じているのかもしれない。


何故お前たちは無事なのかと。


「3日も寝たきりで無理なさったそうですね」


────考えすぎはよくないか……


考えとは裏腹な穏やかな口調にクラウディは首を振り口を開いた。


「戦った敵については聞いているか?」


「はい、その件でクローさんからも共有していただきたく────」


クラウディは戦った敵について説明した。説明する途中で何度か味方を守れなかった旨を謝り、こちらも全力であった事を示す。


「ラルフからも聞いている通りです。本当にお疲れ様でした。生き残りがいることは奇跡だと捉えておきます」


その言葉に少女は胸を撫で下ろした。取り敢えずまた投獄とかそういう心配は無さそうだった。


アイラに目をやると退屈そうに天井をぼけっと眺めていた。


「これは約束通りの報酬です」


アルディシエはラルフとリリウィスに目配せし、袋を置いた。途端にアイラが覚醒しがっついて袋の中身を確認した。


まずは100万ユーン。金貨が100枚アイラによって数えられ重ねられる。


「それじゃこれは私が────」


咳払いしすっかり目が金のマークになっているアイラが金貨を袋にしまうとごっそり持って行こうとする。クラウディは素早く袋を掠め取り、喚く戦士を────あとで分配するから────と落ち着かせる。


ようやく落ち着いてエルフたちに目をやると皆苦笑いしていた。


「そしてこちらがマジックアイテムになります。一つだけ選んでください」


アルディシエはもう一つの袋から物を取り出しながら机に並べていく。


「行きたい場所、方角を知る事ができる針。ルートチェッカー。


雨を防ぐ服、アビュアミュラー


耐熱の指輪。アクアリング


水中でも呼吸の出来るペンダント。


何度も使用可能な、肉眼で見える風景を一瞬で記憶するスクロール。


そしてウーラタイト製のシミター」


「…………」


クラウディは説明を聞いて机の上で手を組んだ。


────やばい……全部欲しい


極め付けはやはり最初の、元男の世界でいうカーナビのような役割を示す針だ。


目的地がわかるなんてこの世界においてこの上ない代物だった。


「……1つだけ、か」


期待を込めてエルフを見つめる。


「ひとつだけです」


「ひとつか……」


「ひとつです」


しかしガンとして1つと強調するので少女はガックリと肩を落とした。


「じゃあこれ────」


「剣がいいんじゃねーの?」


先程まで不貞腐れていたアイラが顔を出し剣を指差した。


「え?」


「ほらクローの剣1本折れてたぜ?新しいのがいるだ────うげ、なんだこの剣?重いし気持ち悪りぃな!」


喋っている途中でアイラは剣を床に落とした。


────気持ち悪い?


少女は剣を手に取り眺めた。シミターというより元世界でいう日本刀に近い形だ。ただ鍔がなく、少し鞘から抜いてみると刃も黒く波紋もない。柄も黒くて奇妙な黒光りする生き物の装飾がしてあった。


────確かに不気味ではあるな


だが、それよりやはり針だと剣を置いて針に手を伸ばそうとした。剣なんてそこら辺で買えばいいし、まだヴェノムフリッカーと短刀があるのだ。

しかしアルディシエが口を開く。


「その剣は理論上は魔法を弾く事ができます」


それを聞いて手が止まるクラウディ。


「魔法を弾く?つまり剣で防げるってことか?」


アルディシエは頷いたが難しい表情をする。


魔法が弾けるなら『生命石』のマナを攻撃に回す事ができる。しかしそんな便利な武器が本当にあるのだろうか。


「理論上……か」


「そう、扱える者がいないのです」


「扱える者がいない?」


「アイラさんもう一度持ってみてください」


「ええ?!嫌だなぁ~……」


指名された戦士は剣の柄を握る。しかし今度は掴んだだけで持ち上げようとしない。


「何やってる?」


「いや、これ変な剣だな……さっきは少しは持ち上げれたのに今クッソ重い!」


それでもなんとか持ち上げるが、すぐに床に落とした。


カシャンと軽い音を立てる刀はとてもそうは見えない。クラウディも触って持ち上げたが、特に違和感もないし、なんならシミターと同じくらいの重量に感じる。


「ウーラタイト製のシミター。とあるドワーフから貰ったものなのですが、『ウーラタイト』というのは造ったドワーフが言っていた鉱石で実物は見たことはありません。マナを遮断するみたいで詳しい解析もできてません。それに触れるとまるで呪いにかかったかのように持ち上げる事ができません。布を厚く巻けば持てるのですが」


「通りで気持ち悪いわけだなぁ、これ呪われてんだ」


「はい。しかし見たところクローさんはほとんどマナを保有してない様子。おそらく扱えるのでは?」


「…………」


しばらくクラウディが剣を眺めていると、話を聞いて黙っていたラルフが舌打ちし、リリウィスに何か耳打ちする。すると困惑した表情をするが手のひらをクラウディに向けると魔法の詠唱を始めた。


「リリウィス?!」


「『ライトニングボルト!』」


少女は咄嗟に目の前の襲う雷を刀の平で弾いた。雷は跳ね返り部屋の天井にぶつかって焦がし霧散して消えた。リリウィスが驚いて口をあんぐりと開けている。まさか弾かれるとは思ってなかった様子。


「びっくりしたぜ……」


驚いて床にひっくり返っていたアイラは起き上がってクラウディを見て笑った。


「いいんじゃねーの?使えてるじゃんか」


クラウディはジロリとラルフを見た。彼は視線に気づいたがそっぽを向く。


「ラルフ?いきなりとは失礼ですよ?もし防いでなければどうしたのですか?」


「これは申し訳ありません。もどかしかったもので……」


「……あとで私の部屋に来てください」


「?!っ了解……しました」


後で小言でも言われるのか、ラルフは俯いて了解した。


「リリウィスもですよ」


「え?!私もですか?!」


我関せずだったリリウィスもため息をついてラルフを睨んだ。


「2人が無礼を申し訳ございません」


アルディシエは咳払いし謝ると、再びクラウディに向き直った。少女はまた呪文が飛んでこないかと警戒していたが、しょんぼりした2人の様子を見て剣を下げた。


「それでどうされます?」


「針なんて地図があればいいし他も似たり寄ったりじゃねーか?剣でいいと思うけどなあ」


見つめて唸っているとアイラがやれやれと肩をすくめた。


────まあ……確かに


言われてそう考えると手に持つ刀はひどく手に馴染むし、魔法を弾くのはこの上ない。


「じゃあ……これで」

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