第142話 地下洞窟の調査2-③
全員が注視するとそこには洞窟にちょうど収まる巨大トカゲのような生き物がおり、エルフの1人を捕食していた。エルフは上半身から上がなく、トカゲがクチャクチャと咀嚼している。
その様子に一同固まるが、何人かは武器を抜き臨戦体勢を取る。
「なんだこいつは?!」
「わからない!初めて見るぞ?!」
クラウディたちも武器を抜き目の前の敵に身構える。
敵はトカゲに見えたがよく見ると強靭そうな外骨格に覆われており四つん這いの四肢も太い。鉤爪もどれも剣のような鋭さがあり動くたびにカラカラと音を立てた。
注視していると今度は背後から悲鳴が聞こえた。
振り返ると下がっていた魔法使いの心臓の位置から何かが突き出し、おびただしい血が溢れて地面に落ちている。エルフは助けを求めるようにクラウディたちの方に手を伸ばすががくりと息絶えた。
『あっら、あっら、あっららぁ♫ほうらえっさよ』
新手はエルフの死体を突き出した。
「クロー殿!」
ラルフの声が聞こえ少女は咄嗟に屈んだ。何かが頭上を通り、エルフの死体を貫通すると、元に戻って行った。どうやら先程のトカゲが舌を伸ばして死体を捕食したようだ。
クラウディは改めてもう1体の敵を観察した。細身の青緑の人型の敵。体長2m、表面は枯れ木のようで身体は細いが腕は4本。どれも手に切れ味の悪そうなノコギリやら包丁を持っている。顔面は細長く大きな目玉が一つあり頭には触手のようなものが4本揺らめいていた。
────挟み討ちの召喚か……
少女が止める間もなく何人かエルフが斬りかかるが枯れ枝の敵は素早い腕の振りで瞬く間に斬り伏せる。
「アイラはトカゲを……カイザックは両方の援護任せてもいいか?」
敵から目を離さずクラウディは仲間に言う。
「おう!『ライアク』は多分問題ないからいけるぜ!」
「両方か、高くつくぞ……」
相性的にも硬そうなトカゲはアイラ、細身な枯れ枝はクラウディが対峙する方が良いだろうとの判断だ。カイザックもこの状況は戦わざるを得ないだろう。
『んっんっん~んん?』
クラウディはエルフがまた新たに斬り捨てられそうになる所で剣を滑り込ませて敵の攻撃を弾いた。
そこで初めて敵と目線が合う。
『変な仮面~』
クラウディはエルフを下がらせ、アイラの方へ援護に行くように言った。
「すまん……」
エルフは助かったともう一つの敵の方へと向かうが果たして本当に助かったのか。もしかしたらあのトカゲのほうが厄介かもしれない。
チラリと一瞥するとアイラが大斧を盾にタンクとなりエルフたちが斬りかかったり矢を放ったりしているのが見えた。
『余所見余裕余裕~?』
「?!」
少女は迫り来る刃に気付いて慌てて弾いた。
威力が高く、指が痺れる。まともに受けるのは得策ではなさそうだ。
敵は目の前の相手に合わせているのか2本の腕で斬りかかってくる。
クラウディは迫る長い腕を上体を揺らして次々と避ける。
『当たらな可笑し』
斜めから縦斬りに切り替わったところで、その打ち下ろしに剣を地面に突き刺す。柄頭に相手の刃をぶつかると反動で敵がよろめいた。
その隙を逃さず懐に入ると斜め下から斬り上げる。
────硬っ
本来なら斬り裂いているところだが、木のような皮膚が硬くうっすらとしか傷をつけられなかった。
少女は地面を蹴ってその場で回転すると、もう一度傷をなぞるように同じ軌道で斬り上げた。
今度は薄皮であるが斬り裂き、血飛沫が舞った。血はランタンの明かりに照らされ紫色だった。
『がぁあぁあ!!』
痛みに我に返ったように敵が叫び、めちゃくちゃに4本の剣を振り回した。
攻撃を掻い潜って追撃しようとしたがあまりの手数に少女は後退を余儀なくされた。
相手の間合いから抜け出し地面に刺さった剣を回収する。
『人族風情が……』
敵が凄んだ声を出すが、その瞬間に大きな目玉に矢が突き刺さる。
振り向くとカイザックが次の矢を番えており、さらに打ち出した。
敵の目玉にさらに2本、首元に1本突き刺さる。
敵は痙攣し、立ったまま動かなくなった。
────倒したのか?
確認するためジリジリ近づくが、反対の方から悲鳴が上がる。
巨大なトカゲにさらに1人食べられている所だった。アイラが顔面に斧を叩きつけてのけぞらせるがエルフの身体は半分千切れて事切れていた。
ざっとみて残っているのはカイザックとアイラ、ラルフと魔法使いが1人、他5名だった。
クラウディはカイザックに合図を送りトカゲの方へと突進した。敵の舌が伸びてきて動くアイラの斧を絡め取ろうとする。
少女はその舌をシミターを交差させて鋏の要領で斬り落とした。
痛みに悶えでトカゲは暴れ出した。
「アイラ!『ライアク』は?!」
「悪りぃ少し時間稼げるか?!うまく起動できねー!」
クラウディは頷き『生命石』に意識を集中した。
エルフたちの剣の刃が通らないのであれば少女の剣も通らないだろう。
手をかざして洞窟内の岩を隆起させて万力のように挟んで押さえ込む。しかしトカゲの力は強くすぐに岩にヒビが入った。
────まじか
少女はさらにマナを送り後から後から岩を隆起させて行く。しかしバラバラと岩は崩れ出し勢いでトカゲが飛び出してきた。
そして口をガバリと開け口の奥から煮えたぎるような光が見えた。
「どけ!」
ラルフが前に出てきて片手剣を構えた。さっきまで持っていたものと違い、十字の鍔の端が捻れて刀身の根元を渦巻いているようなデザインの片手剣だ。
それを前方に突き出した。すると刀身の周りに風が渦巻き出す。どうやら属性武器のようだ。
敵が口から渦巻くような炎のブレスを吐き出した。
「風よ!!」
エルフが叫ぶと刀身から激しい風が解き放たれ炎と激突した。炎は大きくなるが風がそれ以上に弾き返し、中央で拮抗していた衝突はやがてブレスが推し負けだしトカゲの顔面で弾けるように消えた。
何かしら力を消耗したのかラルフがその場に跪いた。それをみて突進するトカゲ。
「アイラ!」
「オーケー!!」
少女が叫ぶと電気が背後からバチンと跳ねた。トカゲがラルフに喰いつこうとしたところをアイラが脳天に『ライアク』を叩き込んだ。
頭の鱗が割れ、電撃がトカゲを襲う。
怯んだところで戦士はもう一度腕を振り上げて力一杯叩き込んだ。
今度は頭蓋にめり込み敵は白目を剥いて倒れ込んだ。ドシンと一際大きな音を立てる。
「か……勝った」
エルフの1人が呟き雄叫びを上げた。それに続き他の生き残りもその場にへたり込んだりする。
「ひ、ひぃ……ちかれたぁ……」
アイラが終わったと『ライアク』を地面に杖代わりに突き立ててすがった。
「馬鹿女!油断するな!!」
「え」
カイザックが叫ぶと同時に何かがアイラの背後に回り、持っていた斧が吹き飛んだ。
側に来ていたクラウディに血飛沫がかかる。
見るとアイラの右腕が肩から無くなっており、ドクドクと血が滴っていた。




