第14話 辺境の地ローランドル
元男の時のテレビなんかで見た賑やかな城下町を想像していたが、意外にも静かで人通りも少なかった。
いくつかの高い建物以外、家の造りは大体木造か煉瓦造りで真隣に家が並ぶというのは少なく、ある程度距離を空けて家が立っているという風だった。地面も石畳ではなくほぼ硬い土だ。
例えるなら田舎町というところだろうか。
────まあまだ早い時間だし、城はないしな
クラウディは身分証を再び取り出した。年期が入っており、もしかしたら何か制度の変化があったのかも知れなかった。
「あら、その身分証古いやつだね。今は使えないよ」
門のすぐ近くに出店があり、少女が身分証を持ったまま通りかかるとそこ店主が声をかけた。
50代くらいの女性で頭に三角巾を巻いている。
「新しい身分証はどうしたら貰えるんだ?」
「あんた旅人かい?1番簡単なのは冒険者にギルドで金を払って作ってもらうことかねぇ……特に余程お尋ね者でない限りは制限もないし────あ、何か買っていくかい?」
クラウディは助かったと礼を言い、出店で売ってあったオークの肉の串焼きとローランドルの地図を購入した。合わせて1000ユーンだった。
彼女は歩きながら肉を食べ地図を眺めた。シワくちゃの硬い紙で見づらく、大まかな建物の位置しか載ってないように思える。
ちなみにギルドは中心街にあるようだ。
────オークの串焼き美味いな
串焼きを食べ終わると指についたタレを舐め取り、ゴミはインベントリに入れた。そして辺りを見渡しながら冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに近づくにつれ冒険者らしき人の往来が多くなった。皆腰に剣を差していたり大剣、弓など様々武器を装備している。
冒険者ギルドに到着するとその建物を見上げた。三階建てで入り口の上に冒険者ギルドと看板があった。
ボードが外にあり、依頼書のようなものがいくらか張り出されている。
クラウディは両開きの扉を開けて中へと入った。
中はテーブルがいくつも点在し、冒険者で満席に近かった。
正面の受付には人が並び、右には軽食が注文できるよう別のカウンターがあった。反対側には外よりも大きなボードが設置されており、依頼書がまばらに貼られていた。
少女は受付に並ぶ大柄な男の後ろへと並んだ。
いくらか視線が寄せられるのを感じ、フードを深く被り直す。
「ちっ、あんまりいい依頼残ってねーな……」
少しずつ前に進むとそんな声が聞こえてきた。行列が出来ていることに何も感じなかったが、もし全員が依頼の斡旋目的であったら確かに良いものはもうあまり残ってないだろう。
次が自分の番と待っていたが、どうやら目の前の男が受け付けの人と揉めているらしく、バチンと弾ける音とともに大柄な男がよろめいた。
「へへ、また来るから!」
彼はそういうとヘラヘラと頬を押さえて笑いながら外へ行った。
────何だったんだ?
「次の方どうぞ!……あら、君初めて見る顔ね」
受け付けの人は女性で、20歳くらいだろうか。髪は上でまとめてベレー帽を被り黒と赤の制服を着ている。顔もスッキリとした美人顔だった。
「ごめんなさいね待ったでしょう」
「ほんと勘弁して欲しいよな、嬢が目当てのやつが多いんだよ。こちとら真面目にやってるのによ」
すぐ後ろの細身の男性が口を挟んだ。それに周りの何人かが、クスクスと笑った。
「で、君はここに何のよう?依頼の斡旋?新規登録?まさか口説きに来たわけじゃないでしょう?」
「新規登録で」
後半の言葉を否定するように即答する。
「名前は?」
「クラウディ」
受け付け嬢は久しぶりだからちょっと待っててねと言い奥へと消えた。
────あ、本名名乗ってしまった
少女はやらかしたなと頭をかいた。
少しの間待ち、再び姿を現すと直径15センチくらいの水晶のようなものを持ってきた。
「それじゃこれに指を乗せて、ちょっと叩くよ」
受け付け嬢はカウンターに小さな箸置きみたいなもの置き、少女が指を置くとその上からドンっと拳で叩いた。その瞬間に置いた指先に痛みが走って慌ててクラウディは指を引っ込めた。指先から血が滴る。
「はい、次はこの水晶に指を乗せて────大丈夫傷治るから。ほら後もつかえてるよ」
眉間に皺を寄せて警戒する少女に淡々と説明した。
少女はおそるおそる指を乗せた。すると水晶が淡く光り出した。
「この水晶は人の血を媒介に構造を調べて適切な職業を選んでくれるの」
受け付け嬢は職業の一覧表を出した。
────────
剣士
ソードマスター
剣聖
戦士
アックスマスター
魔法使い
僧侶
賢者
騎士
パラディン
シーフ
アサシン
勇者
ネクロマンサー
武闘家
モンク
────────
などなど……
「あ、出てきたみた…………い?」
受け付け嬢は首を傾げた。
水晶の中心には『該当なし』と表示されている。
「あー該当なしは、実質無職みたいなものだから坊やには冒険者は向いてないかもね」
「なれないのか?」
「いやそんな事はないけど」
「じゃあ頼む」
「そうやって無謀な人はいるけど死んだら責任取れないよ?」
「…………」
受け付け嬢はじっと見つめる少女にため息をつき、白いカードをカウンターの下から取り出して水晶に当てた。するとカードは茶色に染まり、振ると文字が浮き出てきた。
「はい、おまちどう」
「助かる」
「説明は?」
「ゆっくりできる時に頼む」
「仕事は?」
「今日はやめておく」
クラウディはサッと身分証を受け取ると懐にしまって外に出た。途中『あいつ無職だってよ』などの笑い声が聞こえたが関わりたくないため無視した。ちなみに先程出血した指はいつの間にか治っていた。
「しまったな……」
外に出るともらった身分証を確認した。
身分証はトランプカードぐらいの大きさで材質は厚さ5ミリの鉄板のようだ。字は小さいがハッキリと『クラウディ』と入っている。他には『Fランク』、発行場所と発行者。そして印が押してあった。空白があるがおそらく職業が入る所だろう。少女は『無職』なのでなにも載っていない。
────まぁそんなに見せることもないだろうしな
本名を名乗るミスをしてしまったが、なにはともあれ身分証が手に入ったと地図を広げた。
レストランでもあれば行ってみたく、それらしい絵を見つけるとそこを目指した。




