第137話 エルフの結界
夜────
部屋に給仕の女エルフが現れ再び食事を用意してくれた。用意してくれる間アイラがかぶりつこうとするのを防ぐのに労力を要するクラウディ。
「では、ごゆっくり。それと再確認ですが、明日は迎えのものが来ますので」
女エルフは一礼すると木でできたワゴンをガラガラと押して行った。
「もういいだろ!食おうぜ?!」
「お前もう少し危機感持て」
「腹が減っては戦はできぬというだろ」
晩飯も健康的で大豆を練って焼いたものと穀物シチューにバゲット、サラダといったものだった。
2人は黙々と食べ、食事が終わると早々に休むことにした。
ベッドは2つあり、アイラにどちらが良いが一応聞くと手前の方と言うので壁際の方にクラウディは横になった。
正直どちらでも変わらないが、女性の場合こだわる者が多いと元男の世界では学んでいた。特にアイラはカイザックと以前取り合いになっていたので尚更そう思ったのだった。
羽毛布団は暖かく今までで1番柔らかい。
クラウディが布団の柔らかさを堪能しているとアイラが何故が潜り込んできて背中から抱きついた。
「……アイラ。お前ベッドは二つあるだろ?」
彼女の腕を掴んで離そうとする。
「は?何でもするって約束だろ?」
「……あー」
────そういえば約束したか
今朝牢屋の騒ぎで苦し紛れに約束したことを思い出したクラウディはアイラの腕を離した。
彼女は腕枕を要求し、少女がそれに応じると足も絡めて抱きつき文字通り抱き枕みたいにして早々に眠った。
自分もと眠ろうとするもすぐ近くから聞こえるいびきに眠れずそっと起き上がるクラウディ。
少女はそのまま気配を消して外に出た。
外は暗いが下を見ると灯りはポツポツと灯っている。おそらく見張りなのだろう。いつダークエルフが攻めてくると限らない。結界を張っているし今晩は強化すると言っていたので問題はないのだろうが。
クラウディはカイザックの部屋へと向かった。
しかし彼の部屋の前に小柄なエルフのリリウィスが立っていた。
「こんばんわ。どうかされましたか?精霊に愛されしものよ」
「……その、イリーでーさ?ってなんだ?」
「エルフの古い言葉で『精霊に愛されしもの』という意味です。それで何か?」
「いやカイザックに用があるんだが……お前は何を?」
「アルディシエ様から彼についておくようにと言われていますので。ちなみにカイザック様は結界の外に行くと言ってました」
「え?大丈夫なのか?」
「アルディシエ様も許可してましたし大丈夫でしょう。追跡の魔法も付けさせてもらいましたし」
「追跡の?ちなみにどこの方へ?」
魔法のことはよくわからない少女は首を傾げた。
「あちらの方角です」
────ん?ダークエルフとは逆の方か……?
リリウィスが指す方向はダークエルフが攻めてくると思われる北東でなく、南西だった。
クラウディは探してくると言いその方角に急いで向かった。
エルフの里は広く、走っても結界の端に来るまで10分以上かかってしまう。
結界との境界線は薄らと線がわかったものの出て大丈夫かと不安になる。『精霊の森』ではすぐに分からなくなったのだからそう思うのも当然だった。
だが、カイザックは出て行ったと言っていたが少女はもしかしたらどこかへ行ってしまうのではないかと不安に思ったのだった。ここで貴重な歩く情報を失うわけにはいかない。
少女は意を決して結界の外に出た。いつか『精霊の森』を出た時と同じ感覚が襲う。薄い膜が身体の中を通るようなくすぐったいようなそんな感覚。
嫌な予感がして振り返るとそこには『エルフの里』
の姿はなかった。
ギョッとして慌てて来た方に向かっていくと再びエルフと里へと戻る。
────よ、よかった
どうやら『精霊の森』と違ってただ姿を隠しているだけだとわかった少女はもう一度結界を潜ってカイザックを探しに行った。
鬱蒼とした森の中でさらに夜ではあるが、少女の夜目も相まったのだろう、不思議と辺りの様子が分かるくらいに明るく感じた。
森はフクロウのような鳴き声や虫の声が聞こえてくる。
クラウディはエルフの里に帰れるようナイフをインベントリから取り出して木に傷をつけて歩いて行った。




