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第134話 アルディシエ②






クラウディとアイラは牢から出されると先に風呂場へと案内された。風呂場はまた別の大木の中にあり、岩を敷き詰め整えたものに湯が張ってあるいわゆる露天風呂みたいであった。


────一応室内なのか?


クラウディは垂れ幕を潜ると切り抜かれたような大木内を見渡した。


今は混む時間帯ではないのかほとんど他のエルフはおらず目に入る人数は3人だった。


美しい顔立ちの者たちなのだろうが、湯気で顔や体が見えづらくなっているので良くは見えない。女性の身体が苦手な元男の少女にとってはありがたい。


クラウディたちはまだ荷物は返してもらっておらず付き添ってくれた小柄な女エルフ────名はリリウィスというらしい────が、中を覗く2人に着替えと入浴用品を渡した。


「私は待機していますので、入って来て下さい」


リリウィスは背を向けると風呂場の入り口端に立ち背中で腕を組んだ。


2人は中に入り、脱衣所で服を脱ぐと先に身体を洗った。


髪についた泥や砂が流れて行く。石鹸もいい香りでくすんでいた肌も綺麗になった。


「エルフってアレだよな、あんまり胸デカくはないよな。いやでけーやつもいるんだけどさ」


露天風呂の端に腰掛けたアイラは近くのエルフを見ながらいった。クラウディもチラリと見てしまう。細身のエルフであり、確かに胸はそこまで大きくは見えない。ただ身体のラインは綺麗でそれ以上見てられず目を逸らした。


「それに比べてクローはさ、胸でけーよな?」


クラウディが隣に座って湯に浸かろうとした所、アイラが背後から胸を鷲掴んだ。


「?!」


「えー、これいくらだ?私がDだから……Fくらいか?」


揉みながらぶつぶつと呟く。


「やめろ!あんまり変わらないだろ!」


少女は身を捩って逃れると湯に飛び込むように逃げた。強く揉まれたので胸が少し痛い。


「わりぃわりぃ!こっち来いって!」


クラウディは訝しみの眼を向けながら少し距離を空けてアイラの隣に座った。風呂の床は当然岩だったが、手入れしているのか角がなくて歩きやすく座っても痛くはない。それに端の方は段があり座りやすくなっていた。


湯の気持ちよさに少女は息を吐いた。


ゆっくり湯に浸かったのはいつぶりだろうか。


のんびりしているとアイラが距離を詰めて少女の隣に密着した。彼女がまた何かするつもりなのかと身構えていたが特に何をするでもない静かにしていた。


「なあクロー」


アイラはクラウディの肩に頭を預けた。


「カイザックから聞いたんだけどよ……。今回私が油断してやられてさ、気絶してからほとんど戦ってくれたんだって?ひとりで」


「ああ、まあ……そうだな」


「その、悪かったな。私のせいで大変だったろー?」


本来なら大事な局面ではアイラに前に立って欲しかったが、過ぎたことを言っても仕方ない。気絶してしまったのならどうしようもないのだから。少女自身も意識を失うこともありお互い様だろう。


「油断なんて珍しいな。いや油断しててもあの程度何ともない気がしたが」


「ん~……言い訳するわけじゃねーけど。あの時気分が悪くてスキルが発動しなかったんだ」


「なに?」


────スキルが発動しない?


そんなことがあり得るのかとクラウディは自身の口元を触った。だが、確かに魔法こそ見たが、『スキル』の使用は見ていない。今思い返せばダークエルフたちが『スキル』なんて連発していたら勝ち目はなかったかもしれない。


────いやまだ早計か


あの洞窟がもしかしたら特別なのかもしれないし、ただ単に本当にアイラの調子が悪かったのかもしれない。


「クロー?」


「ん?ああ……取り敢えず俺たちは助かったんだ。結果オーライってやつだ」


「そっか……そうだよな!」


実際には被害がゼロというわけではない。あの衛兵2人、マゼルとペインタはおそらく生きてはないだろう。知り合ってそこまでお互い話すわけでもなかったが少し思うところはあった。。


────気の毒だとは思うが……


クラウディはそうは思い少しモヤっとしたが、切り替えの早いアイラが湯の中で泳ぎ出したのにそれ以上考えるのを止め注意しに行った。


風呂を浴びた後は、エルフの用意した服に着替えた。


緑を基調とした色合いのワンピースで、下の方は少し広がって膝より上である。ワンピースの肩下から横腹にかけてスリットが入っているのでその上から前掛けを着ても横乳がはみ出しているので見えてしまう。胸サポーターが欲しかったが手元にはない。ショーツも横が紐で心許ない。


他のエルフたちの服とも違うので、元男の少女は本当に着方が合っているのか不安になって待機しているリリウィスに聞いてみた。


「合ってますよ。私たちと違うのは客人と見分けやすくするためです」


「了解……」


クラウディはそういう風習なのだろうと理解する。が、しかし女性物の服は元男として着心地が悪く落ち着かない。アイラの方も落ち着かないのか仕切りに服を触っていた。ただ彼女の下の方はパンツスタイルだった。


「落ち着かねーななんか」


アイラはいつも露出の高い装備を身につけていたのでかえって違和感がある。本人曰く自分自身の肉体こそが鎧だとか。肉体美を隠すものではないとか。色々言っていた。


「クローは……うん、そっちの方が断然エロい」


彼女は少女の脇の方から服を覗いてニヤニヤと笑った。しかしふと真顔になる。


「なぁ、ちゃんと脇を絞めないと見たい放題だぜ?」


────そんな女みたいなことできるか


と思いつつもアイラがジロジロと見続けるので腕組みして隠した。彼女が舌打ちしてやめるとリリウィスが気が済んだならとついて来るように言った。


2人は並んでついて行った。客人とはっきりわかる衣装のせいですれ違うエルフたちの視線が突き刺さる。ただその視線は好奇心によるものが多い感じを受ける。


「クローどうかした?落ち着かねーけど」


エルフの衣装も原因のひとつだが、クラウディは自分を守る武器が一切身につけてない────正確にはインベントリは持っているが────ので仕切りに腰に手を触れたりしていた。何かないと酷く落ち着かないのだ。


リリウィスは客人をとある比較的細い大木の方へ案内し、10あるうちの1区画へ連れて行った。


ちょうど大木中心の位置で、先程のアルディシエが使用していた所よりも一回り大きい部屋の前に来る。


白い垂れ幕を潜ると生活空間の整った部屋が現れた。


丸く大きな緑の絨毯が敷いてあり、丸テーブルと椅子が2脚。大木からそのまま切り出したであろうベッドが2つ並び、衣装棚、机が置いてある。どれも装飾が美しい。机にはアイラとクラウディの荷物が置いてあった。


そして食事用の低いテーブルの上には食事が並べられていた。


「しばらくはこの部屋をお使いください。クロー様は食事の後、アルディシエ様が来るようにとのことなので迎えに来ます」


クラウディが了解したと頷くとリリウィスは一礼し外に出て行った。


「ひゃーうまそ!食おうぜクロー!」


アイラはいつの間にかテーブルについていて手をすり合わせていた。


クラウディも席につき料理を眺める。ローストビーフのような肉が幾らかと鳥の串焼き、木の実が練ってある穀物パン。いくつもの種類の野草の入ったスープに果物など多彩だった。


アイラは手掴みでガツガツと食べ始め少女もナイフとフォークを持つと食べ始めた。


────すごく健康的な味だな……


薄味ではあるが食べやすく2人はペロリと平らげた。果物も、殻を割って中の大きくてツルツルした白い実を食べるとライチのような味がした。飲み物は水だが、微かにレモンのような風味がありさっぱりとしている。


「アイラ、カイザックはどこに行ったんだ?」


クラウディは少し膨らんだ腹をさすっている女戦士に聞いた。情報屋はずっと姿が見えないし、少し様子が変だったので気になっていた。


「別にどーでもよくねー?あんなやつー」


「……どうでもいいが、情報は欲しいだろ」


「んー、何か男だからどうとかこうとか?どっか別のところに行ったんじゃねーの?森からは出てねーだろ」


男だから別の客室にでも案内されたのだろうか、同じ部屋でも構わないと思うが。クラウディは少し休憩すると寝転がる仲間に出て来ることを伝え、垂れ幕を潜った。


しかしラルフとバッタリ鉢合わせる。


「ん、丁度迎えに来たところだ。ついてこい」


「……了解」


少女はラルフに案内され後をついて行く。てっきり例のアルディシエと会った大木の方に行くのかと思ったが、そのまま階段を上がって行くと縄橋を渡り別の大木の方へ向かった。


目的の大木には部屋は1番上のひとつしかなく、そこは天幕ではなく円形に沿って丁寧に板が敷き詰められ、ドアが付いていた。


ラルフが3回ノックし、奥から『どうぞ』とアルディシエの声がした。


「私は待機しておく、中に入れ。失礼のないように」


少女はラルフから促され、ドアを押して中に入った。

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