表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/210

第132話 投獄







クラウディは牢屋の中を見渡した。


藁の寝台が一つと端の地面には小さな穴が空いた和式トイレのようなもの。下には水が常に流れている。壁は分厚い大理石のようで、牢屋の格子は間隔が狭く鉄製のように見える。とても脱出は出来そうもない。


カイザックの方を見ると、見張りに見られないよう死角になる壁に移動していた。そして後ろ手に縛られた手を、器用に肩の関節を外して足をくぐらせて前に持って来る。ゴキリと音をさせて再び関節をはめると肩をグルグルと回した。


続けて服を脱ぐと絞って水を切り再び着、ズボンも同様にすると寝台に横になった。


「……おい」


クラウディは自分もやってくれと壁際に移動すると縛られた後ろ手を示した。冷えたままの服を着ていると風邪をひくし気持ちが悪い。


「俺は慣れてるが、すごい痛いぞ。いいのか?」


「構わない。やってくれ……」


先程のカイザックはとても痛そうには感じないので大丈夫だろうと思い促す。


彼はクラウディの側まで来ると、力を抜けと肩を掴んで少し揉むとグイッと力を入れて関節を外した。


「っ……」


予想以上の痛みに呻いた。軽い気持ちでやってもらったこと後悔するが、なんとか少女は耐えて手を前に持って来た。するとまたカイザックが関節を入れ直す。入れた瞬間にまた刺すような痛みが襲った。


しばらくして痛みが落ち着くとクラウディも服を脱ごうとする。しかし、ふとカイザックが見ているのが気になった。


「あっち向いててくれ。気になる」


「俺も気になる」


「この状況でよくそんな気が回るな」


「この状況でよく周りを気にできるな」


「…………」


「…………ハハっ」


クラウディはカイザックが反対を向いたのを確認すると服を脱いで出来るだけ濡れた服を絞った。


ズボンも出来だけ絞ると着直す。腕は前に持ってこれても手首は縛られている状態なので時間がかかった。


────時間はいっぱいあるがな


「カイザック……」


「なんだ?」


「さっき衛兵が()()って言ったのはどう言うことだ?」


洞窟から逃げ出す際に行っていた彼の言葉が気になった少女は尋ねた。


「言葉通りだ。あいつらはダークエルフだろう。俺たちは罠に嵌められたんだ」


────そんな風には見えなかった……


「あいつらは情報があるのにわざわざ人数を確認してたし怪しくは思ってたさ。イントネーションもおかしかったろ?それに食い物も痛んでたし。近くに森もあるのにだぜ?普通なら何かしら調達するだろ」


「じゃあ、なんで言わない?」


「確信がなかったからな。洞窟でノッカーがいないとわかった時点で引き返すべきだったが、奴らのテリトリーに入ってしまってたし。監視されてたから難しかった」


カイザックはやれやれと肩をすくめた。


「じゃあ本物の2人は?」


「さあな……疲れた俺は寝る」


そういうと身じろぎしうごかなくなった。やがて寝息が聞こえ、寝てしまったようだ。


アイラの方に視線をやるが彼女は気絶したまま起きない。彼女は軽装であるが戦士なので風邪など引かないだろう。


やることもなく、用を足した後はクラウディも疲労が限界なのでその場で横になると目を閉じた。







「くらぁ!!」


クラウディはけたたましい怒号で飛び起きた。


何事かと辺りを見渡すとアイラが鉄格子に顔をめり込ませて看守に向かって吠えていた。


「だからぁ!!ここはどこだってんだよゴラァ!!なんでこんな牢屋に入ってんだ!ああん?!ぶっ飛ばすぞ!」


「口を慎め蛮族!大人しくしろ!武力行使に出るぞ」


「おお!やってみろや!てめー」


────最悪……


少女は鬼のような形相のアイラを見てたじろいだ。彼女は鉄格子を握り力尽くで捻じ曲げようとしていた。縛っていただろう縄は無惨に地面にちぎれて横たわっている。


「待てアイラ!落ち着け!頼むから」


声が聞こえたのかアイラと目が合うと彼女は表情が戻り手を振った。


「おっ!いるじゃん!今どうなってんだ?」


鉄格子越しにクラウディは事の経緯を説明した。腕組みしながらアイラは聞いていたがやがて唸った。


「大体わかったけど……取り敢えず抜け出そうぜ!」


女戦士は立ち上がると腕をグルグルと回し始めた。


「待てやめろ!下手なことするな!」


今まで大人しくして向こうの警戒心を少しでも減らそうとしていたのに、このままでは全てが水の泡となって最悪命を狙われるかもしれない。


「こんなとこいられねーって!『力溜め』────」


アイラは構わず戦士スキルを使用する。少女はどうにか止めようと思考が目まぐるしく回った。


「金やるからやめろ!」


そう言うが彼女は腕を振りかぶる。


────まじか


「何でも言うこと聞いてやるから!」


そんなことで止まるわけないと思っていたがアイラは苦し紛れに出た言葉にピタリと動きを止めた。


「まじ?じゃあやめる」


そう言って地面にどっかりと胡座をかいて座る。表情はニコニコと笑顔になっていた。


その様子を見てクラウディは安堵のため息をついた。背後からゲラゲラと笑う声が聞こえる。


「芸者になれそうだなお前ら!」


カイザックは少女が睨むと黙ったが少しして我慢できずにまた吹き出す。


「捕まっているというのにお気楽な侵入者だな」


凛とした声がし、ピンと張り詰めた空気に一同静まった。


クラウディたちを連れて来たエルフのリーダーが手を後ろに組んで牢屋部屋の入り口に立っていた。


前回見た時と違い、森を象った金の刺繍がされた高貴なローブを纏っている。長い金髪はオールバックで顔も良く見えた。細い眉、アーモンド型の目に高い鼻。まさしく容姿端麗というのだろう。腰には細剣が下げてある。


「誰だこいつ?」


アイラが目を細めて見上げる。クラウディは慌てて黙っているよう人差し指を口の位置に立てた。


リーダーエルフはアイラを一瞥し、クラウディの牢屋の前に移動し見下ろした。


「族長が情状を酌量した判決を下すため話を聞いて頂けるそうだ」


そこでチラリとクラウディに目をやる。


「貴様が侵入者の頭か?」


「いや俺は────」


クラウディはチラリと背後のカイザックに目を向けた。しかし彼はそっぽを向いている。小声で呼ぶが反応はない。


「何言ってんだ?クローがリーダーだろ?」


────言うなよ


アイラの悪意ない発言に心で悪態をついた。少女はこの世界の情景に疎い。そのため絶対に情報屋のカイザックに行ってもらった方が良いに決まっていた。


「クロー、と言ったか?出ろ」


看守に指示をし牢屋の格子扉が開いた。


なおも寝そべる男に小声で声をかけるが結局彼はピクリとも反応しなかった。


早く出ろと急かされ、仕方なくクラウディは立ち上がり牢の外へ出た。


「貴様縄を……」


リーダーエルフは少女が縄を前に持って来ているのを見て眉間に皺を寄せた。


────げ、まずったか


未然に目が覚めていれば縄を後ろ手に戻せたが、そんな所ではなかった。殴られるか怒号が飛んでくるかと思ったが、彼はため息を吐くとついてこいと身を翻した。クラウディもついて行く。


「お土産よろしく!」


背後からそんなおちゃらけた呑気な要望が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ