第129話 地下洞窟の調査1-④
────暗い
ペインタが後ろから明かりを照らしてくれていたが徐々に光が届かなくなり、ほとんど見えない。
クラウディは夜目がきく方ではあるがそれでも僅かな輪郭しか把握できなかった。
この圧迫感、もし途中行き止まりだったとして引き返せるだろうか。いや崩落や道が途中でなくなっていたとしたら?
考えれば考えるほど気が滅入った。腰に触れるも剣はないので落ち着かない。
そして10m程すすんだ所で完全に暗闇となり『生命石』を使おうかと思ったがグッと堪えてさらに進んで行く。
身体中あちこちぶつけて擦り傷だらけでヒリヒリする。
そうして進むと急に触れるところがなくなりどこか広い空間に出たことがわかった。
さすがに何もわからないので『生命石』のマナを使用し小さな明かりを浮かべた。
クラウディは灯に照らされた空間を見て驚いた。
────かなり広いな
そこは小さな明かりでは照らしきれない広大な空間となっていた。壁は大分整えられていて地面もなだらかだ。クラウディが通ってきた穴はその綻びという感じだった。
少し辺りを散策するかと思ったが危険なので先に穴に光を飛ばし合図を送った。
────伝わったよな?
クラウディは再び光を浮かべて、インベントリからスコットの短刀を取り出して腰に下げた。武器を触って心を落ち着かせる。
5mほど進むと反対側についたようだ。クラウディは中央に立ち光を飛ばした。
空間はドーム上で幅は5、6m。明らかに人工的なものだった。
道は前後に伸びており、来た道を逆算してみると方角的に片方はエルフの森へ伸びているようだ。
────じゃあ反対側は?
クラウディは反対の方へ光を飛ばした。下り坂になっていて先は見えない。
と、先程少女が来た穴から明かりが見え、他の4人が次々と出てきた。
クラウディは自身の魔法の光を消した。
「よお、無事だったか?」
アイラが手を振りながら近づいてくる。
「擦り傷だらけだ」
「クローさんすみませんね、斥候みたいな真似を」
「いや別に」
少女はアイラから荷物やら武器を返してもらい、剣も短刀からシミターに切り替えた。
「それにしてもここは何なんですかね?」
ペインタは明かりを高くして周囲を照らした。マナをケチった少女に比べてかなりの範囲を照らす。
先程クラウディが確認したのがさらにハッキリとする。
「方角的にあっちがエルフの方に行ってるっぽいな」
カイザックは上りになってる方を見た。
「下の方へ向かってみますか?」
マゼルが尋ねるとみんな頷いて同意を示した。
一行はマゼルを先頭に下の方へ向かい始めた。
洞窟はクネクネと曲がっているようで先はやはり見えない。変わらない風景が続く。
10分ほど歩いただろうか、クラウディはアイラの息が上がっているのに気づいた。
「大丈夫か?」
「ん?ん~なんか身体が重い気がするんだよなぁ」
その様子にカイザックも足を止めた。
「確かに何か違和感を感じる」
「……」
────よくわからないな……
クラウディは辺りに意識をやったがはっきりとしたことはわからない。と、鼻に何かの臭いが漂ってきた。
何か膿んだようなものと鉄の臭い。死臭だ。
「先を行きましょうみなさン……」
「いや引き返そう」
アイラの体調がやはり優れないようでこの空間に出る前に提案したように引き返そうとした。
しかし少女の声が聞こえなかったのか、マゼルとペインタは洞窟の奥へと進んで行く。
クラウディたちは顔を見合わせ、おかしいと思いながらも放っておくこともできないので、仕方なく進んで行く。するとさらに少し広がった所へ出た。
明かりが照らされて全体見えるようになると少女たちはギョッとした。
何か怪しげな魔法陣が地面に描かれており、その中心の円にはおびただしい血の痕と何かの肉塊があった。
「くっせー何だこれ」
アイラが辺りを見渡しながら鼻を摘んだ。
「あそこに何か見えますが……何でしょうか」
マゼルが言い、ペインタが明かりを移動させた。中心にある肉塊に何かが反射して光っている。
クラウディは確認しようと前に出た。しかしカイザックが肩を掴んで強く引き寄せた。
「引き返すぞ」
その瞬間辺りに暗闇が降りた。
辺りに不気味な笑い声が響く。
クラウディは『生命石』で辺りを照らそうとしたが、カイザックがランタンを持っており再び辺りが、薄暗いが照らされた。
アイラの姿は確認できたが、マゼルとペインタの姿がない。
探しに行こうとするが、再びカイザックに肩を掴まれた。
「なんだ?」
「いいから引き返すぞ!多分アイツらは偽物だ」
カイザックはアイラにも声をかけ引き返し始めた。
「ぐぁっ!」
アイラの呻く声が聞こえ、振り返ると彼女の腹部から血に濡れた剣が飛び出ていた。
風を切る音と共に何かがが飛んできてカイザックのランタンを破壊する。
ランタンの最後の火が一瞬激しく瞬き、辺りに誰かがいるのを確認させた。
体全体を覆う外套を羽織る人影が複数人。長髪と長い耳。
クラウディは闇が降りた瞬間にアイラのいた所に剣を抜いて飛びかかった。
舌打ちする声が聞こえ、相手は飛び退いたのか剣は空を切る。クラウディは見えないアイラの身体を支えた。
「す、すまね……油断した」
クラウディは手探りでインベントリからポーションを取り出して飲ませようとした。が、背後から気配がして慌てて剣を闇に振った。
金属音がし火花が散る。何度か暗闇の中、感覚で見えない剣を防ぐと敵が離れたのがわかった。
────このままではまずい
カイザックの状況もわからず、アイラの背中から暖かい液体がドクドクと流れ出している。
考えている暇はない。
「カイザック!」
クラウディは『生命石』の残りのマナを少し使い閃光を炸裂させた。
洞窟内を煌々と照らすそれは敵の目を眩ませる。
今度はハッキリと見えた、敵の数は6人。全員浅黒い肌に銀髪が特徴的だった。ギラリとしたシミターや杖を各々手にしているのが確認できる。
クラウディは目を閉じているカイザックの手を引き洞窟を引き返し始めた。
背後の光は消え再び闇が降りた。




