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第13話 嫌な夜







死の森の出口に着いたのは夜中だった。森と草原の区切りがはっきりとしており、その線は見渡す限り途切れずにずっと続いているようだ。


そしてローランドルへと続いているだろう道が死の森から長く伸びていた。


一行は出口から100mほど離れた道の側で野営の準備を始めた。


テントが二つとキャンプセットのようなコンロと食器、小さなテーブル。


男2人がテントをセットしている間、女性は料理を、クラウディは死の森へ入って薪を取ってきた。


「さすが早いですね」


僧侶が薪を持ってきたクラウディに言った。大した事じゃないだろと言うがそんな事はないと僧侶は言う。金髪の長い髪と大きな胸ががゆらゆらと揺れ、タレ目の瞼がわずかに開いた。


「こっちにいらして下さい。命の恩人なんですからここに座って……そう。待ってて下さいな」


小さな椅子に半ば強引に座らされる少女。仕方なく頬杖をついて野営の様子を眺めた。


4人は時折冗談を言い合ったり誰かが少し不機嫌になったりと終始賑やかだった。一瞬元男の記憶が似たところがあったのか酷く懐かしい気分になるが、軽い頭痛とともにそれもすぐに遠のいていく。


「大丈夫?」


少女が頭痛で頭を伏せているとユーリが食事を運んできた。それを受け取り中を見てみると、何かの肉やら穀物の入ったスープだった。クラウディはやや臭みのあるスープの匂いに戸惑いつつも礼を言った。


少女はおそるおそるスプーンを口にした。スープ自体は薄い豚汁に近いが臭みがあるのは肉らしく、スープの薄さが相まってあまり美味しく感じなかった。


「ごめんね、騒がしかったかな?」


「別に、俺に合わせる必要はない」


「ハハっ。そういえば君はなんであそこにいたんだい?ギルドの依頼かい?」


ギルドや冒険者についてよく知らないとクラウディが言うとユーリは驚いていたが、そばに腰掛けて軽く説明してくれた。


冒険者になると冒険者ギルドに所属することになり、色々クエスト等の仕事を斡旋(あっせん)してもらえるとのこと。所属しておくと色々便利だと言うことを少女は教わった。


────冒険者か……悪くないかもな


利用できるものは利用しないと損である。彼女がそう考えているとユーリはよかったら紹介するよと胸を叩いた。


「ああ、頼む」


クラウディは解散するのにキリもいいかと頷いた。なぜ少女がそこにいたのかは結局うやむやになり答えずに済んだ。


食事の後は見張りを交代ですることになった。


ユーリから始まり、2時間ずつ交代していくというもの。クラウディは命の恩人だからと朝まで休むよう言われた。


テントは2つで女性と男性それぞれ別れて入る。


少女も男装しているのでシーフのラインとテントへ入った。テント内は頑張れば4人は横になれそうな広さで、わずかにランプの灯りが付いている。中に入るとすぐにラインは寝袋を敷いて横になった。


「そう警戒するなよ、なんもしやしねぇよ」


少女が落ち着かなくテントの隅にいるとラインが笑った。それでも彼女がその場に留まっていると1時間もしないうちにいびきが聞こえてきた。







────おかしい


クラウディは眠れるはずもなく剣を手入れしていた。しかしすでに3時間は過ぎたのにユーリが戻ってこないのだ。


彼女は何かあったのかと気になりラインを起こさないようにそっと外に出た。


「あら、もう目が覚めたの?」


焚き火に手を当てて温まっていたラントルが少女に気づいた。


「……ユーリは?」


側まで行ってクラウディが辺りを見渡すも姿が見当たらない、再度視線を魔法使いに戻すとあたふたと顔を赤らめていた。


「い、いやユーリはちょっとね……あ、そうだあなたの話を聞かせてよ」


────まあ所在がわかってるならいいか。見回りとかトイレとかか?


促されてクラウディは地べたに座った。地面はヒンヤリと冷たかった。


「昼間は助かったわ」


少し沈黙の後にラントルが口を開く。


「……別に」


「私結構マナ使っちゃっててもう少しで切れるところだったの」


フロレンスいわくマナが底を尽きると枯渇状態に陥るらしく、その場から動けなるらしい。そうなるとマナの回復も遅く酷い時には後遺症が残ることもあるとか。


ユーリのパーティはギルドから死の森の入り口の調査の依頼を受けたのだが、調子に乗って中に入りあんなことになったのだそう。


「そ、それでユーリが油断しててさぁ────」


────なんだ?


ラントルが終始何かにつけて会話をしてきて違和感を覚える。気まずいからとかそう言ったものではない。


────何か注意を惹きつけるような


クラウディもこのパーティに気を許したわけではなく、荷物は肌身離さず持っており盗まれることもないはずだった。


違和感を探ろうと周囲に気をやった時だった。何かが喘ぐような、小さな悲鳴にも似た声がどこからか聞こえた。


敵かと思いチラリと警戒するようラントルを見ると目が合った。


「あっ……」


彼女は慌てて目を逸らし、頬を赤く染める。黙ったまま沈黙が流れ、ラントルは髪を弄り出した。その間も少しずつ喘ぎ声が大きくなる。


────あぁ……なるほど


クラウディはようやく状況を理解した。ユーリは見回りやトイレに行ったわけではなく、どうやら女のテント内にてお楽しみ中ということらしい。


その行動に吐き気を覚えた少女はラントルを睨んだ。


「死にかけたのにお盛んなことだな……お前も混ざるのか」


「あ……ううん。私はそこまで顔よくないし……朝までここにいる」


ラントルは迷惑をかけないよう1人で見張りをするという。それはいつもの事でもう慣れたと苦笑いした。


「……」


「……」


────き、気まずい


少女は賑やかだったパーティの嫌な部分を垣間見、気分が悪くなった。このままでダメになるなと荷物を持つと立ち上がって背を向けた。


「どこにいくの?」


「悪いが俺はもう行く。こんな所にいられない」


なおも聞こえてくる喘ぎ声に赤くなる魔法使い。


「ごめんなさいね……」


「お前も嫌ならさっさと抜けた方がいい」


少女はそう言ったが、顔を伏せるラントルはそれ以上なにも言わなかった。自分は悪くないだろうにと、一瞥するとクラウディはその場を後にした。







その日は彼らと距離を取りたかったため夜通し歩き続けた。あの女魔法使いが少し気の毒に思えたが、関係はない。しかしイライラが収まらず少女ら道に転がる石を蹴飛ばした。


少し仮眠を取るとまた歩く。それを繰り返していると3日後には町が見えてきた。


「あれがローランドルか」


塀に囲まれて中は見えないが、一際高い塔がいくつか飛び出ていた。


道の途中で分かれ道があったりし、時折荷車や別の冒険者のパーティやらが歩く姿が目に入った。


クラウディは最初にヒトを見つけた時から本道から少し距離をあけてローランドルへ向かった。


ローランドルへ到着したのは次の日の深夜だった。所々に野営の火が見えた。


辺りが明るくなってくる頃には入り口に列をなす人々が目に入り、それに少女も並んだ。


塀は高さ10メートルはあり、規則正しく切り出された石が積み重なって作られているが補修してある所もあった。頑丈そうに見えても劣化には勝てないらしい。



よう、元気だったか──無事に帰ってこれたんだな──何のようなんだ──商談が



などと言った声がそこかしこから聞こえてくる。少女はフードを深く被って門が開くのを待った。


彼女の後ろにさらに列がなす頃、ようやく門番たちが出てきて検問を始めた。


クラウディは周囲の人が金を用意するのをみてどのぐらいいるのか観察した。


────ぼったくられるわけにはいかない


大体用意されていたのは500ユーンから1000ユーンであり、彼女は取り出してすぐに出せるよう銀貨を10枚握った。


検問は身分証を出して金を払えばすぐ通してもらえるようだが、荷車は荷物も調べられるようだった。


まず入ったら何をするか、宿を探すか、食事処でも探すかと考えていると元男の少女の番となった。


前の人と同じようにフードを取り、身分証を出して金を門番の手に置いて入ろうとする。


が、不意に眼前を槍で塞がれる。


「この身分証はなんだ?見たことないぞ。不法侵入は刑罰に当たるんだが」


────え、まじか


「どうしたらいい?中に入れないのか?」


「なんだ相当な田舎者か?まあ1万ユーン払えば通れるが」


────1万ユーン?!10倍だぞ


「何かあった時の保証金と思えば安いものだろ。牢獄に入るよりマシだど思うが」


訝しむ目を向けていると門番がそう続けた。クラウディはため息をつき、仕方なく金貨を1枚取り出して門番に放った。


「問題は起こすなよ」


門番たちはそういうと槍を下ろして、そのまま行くよう顎で促した。


クラウディは幸先悪いなと思いながらも初めての町『ローランドル』へと足を踏み入れた。





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