第128話 地下洞窟の調査1-③
早朝。一行は衛兵2人の案内で例の洞窟へと向かった。
洞窟は小屋から100m程しか離れておらず、エルフの森の近くの土手にぽっかりと空いていた。
洞窟の入り口は小さく1m四方であり、屈んで入ると、中はギリギリ2人並んで歩ける広さとなっていた。
奥に伸びる道は暗くうねって下り坂となっている。マゼルが先頭になりペインタが光魔法を唱えて杖の先端を光らせ、洞窟内を照らした。その後にアイラ、クラウディ、カイザックと続いていく。
洞窟内はそこかしこに岩が飛び出ており、何度も来ている前の2人は避けて行くがアイラが何回かぶつかる。
「痛って~。なぁ、あらかじめ教えてくんねーか?たんこぶ出来たじゃねーか」
少し膨れた額をさすりながらアイラが文句を言う。
「すみません、気が利かず」
マゼルが頭を下げ、低級の回復ポーションを渡した。
「これ、どこまで行くんだ?」
アイラがポーションを飲み干しながら言う。傷は少しずつ目立たなくなっていった。
ペインタの『ライト』を頼りにマゼルが一行の前に地図を出した。
「今はこの辺りです。このまま真っ直ぐ進んでいくだけですので今シばらくお付き合いください」
彼が示したのは洞窟の地図で言うまだ入り口あたりだった。逆算して描かれている距離は500mくらいだろう。
一行は進み続けて、途中分岐もあったが地図の1番深いルートを選んでいく。
「これ、もし崩れたらやばそうだな」
半分くらい進んだとこで、ふとクラウディは洞窟の天井を見ながらつぶやいた。アイラが聞こえたのかぎょっとして振り返る。
「こえーこと言うなよクロー!」
────いやお前は多分大丈夫だろ
実際『金剛』スキルでアイラは生きられるだろう。
他はどうかわからないが。
「大丈夫です。ノッカーがあちこち補強していたので。余程衝撃がないと崩れないでしょう」
ペインタも聞こえていたのか安心するよう伝えた。
時々地図を見て現在地を確認しながらどんどん進んで行く。やがて少し広い空間に出た。3mほどに広がった空間だった。
「あれ、こんな所あっタか?」
マゼルがペインタに光を照らしてもらいながら辺りを探った。
クラウディは足元を見てふと気づく。地面が少し柔らかく何か争った跡のように見えた。
ただあくまでそう見えただけで確信もない。少女は伝えずに先を進む先の3人に続いた。カイザックも少し遅れて跡を追ってくる。
そうして足元に気をつけながらゆっくりもう30分ほど進み衛兵2人が足を止めた。
「ここから先はまだ未調査です」
マゼルが足を止めて洞窟の先を見せるため端に寄った。
奥の方は暗くてよく見えない。
「なあ引き返さねー?」
アイラが不意に言う。
「どうしましたか?」
「いやなんか身体が重いって言うか……」
「この閉鎖空間なのでどうしてもそう言う感じはあるんですかね。でもせっかくここまで来たのに、もう少し進みましょう」
「どうする?」
アイラがクラウディに意見を求める。少女は戦士であるアイラの感覚に何か感じるものがあったのだろうかと考えた。
カイザックの方もちらりと見たが特に反応はない。腕組みして壁に持たれているだけだ。
少女も確かに何か違和感を感じていた。ただやはり何かとは言いづらい。
念の為『生命石』で電気を纏っておこうかとも思うが、残量があまりない。とは言ってもいつかの『魂喰らい』のようなことがあっては遅い。
────ここまで来て引き返してもな
クラウディはもう少し進んで誰かの体調が悪くなるようなら引き返すように提案した。
「……まあじゃあ進んでみるか」
一行は再び進み出した。
細心の注意を払っているが特に何もない。ゴツゴツとした空間が続いて行くだけ。
やがて行き止まりとなる。正確にはかなり狭い縦穴が空いているが。
「あらどうしましょう。行き止まりですね」
「いやこの穴怪しいですよ」
マゼルが穴に触れ軽く小突くと穴は脆いのかぼろぼろと岩が崩れてなんとか通れそうな穴となった。
しかしこれを通るのは気が引けた。もし途中で何かあれば大変だ。
「クロー先に行ったらいんじゃね?」
「え?」
ふいにアイラがそう言う。確かに現在のメンバーでは1番小柄ではある。かといって通りたくはない。
「いやアイラも同じくらいだろ」
2人は身長と細さを比べた。身長は僅かにアイラの方が大きいし、筋肉の分太かった。
────行きたくないぞ、これ
しかし適任者だと言わんばかりに視線が集まる。
しばらく沈黙していたが、やがてため息をついた。
荷物や剣を仲間に預け────インベントリだけは腰の内側に隠して────壁穴に手をかけた。
かなり狭いがカイザックでも進めそうだ。
「なんかあったら叫べよ!」
背後からアイラが叫ぶ。クラウディは体を横にしてゆっくり壁に沿って入っていった。




