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第125話 俺様カイザック様②







「クロー、クロー……交代だぞ」


テントから誰か入ってくる気配がして、身体が揺さぶられるとクラウディは目が覚めた。


「眠いから私はもうテントに入るからな」


少女が起きたことを確認するとアイラはそそくさと出ていき、自分のテントに入って行ったようだ。


クラウディはのそのそと寝袋から這い出て起き上がり、カイザックの方に顔を向けた。


背を向けて眠っている姿が確認できる。


少女は彼の側に行って胡座をかき、寝顔を眺めた。彼は俗にいう美男子になるのだろう。乱れた長髪と右目の下の黒子がまた妖艶さを引き立てている。


起こすかどうか迷っているとカイザックは呻いて手を伸ばし、少女の腰に腕を回した。


寝ぼけているのか腰を引き寄せて脇腹に顔を埋める。仕切りに匂いを嗅いでいるのがわかった。


「触るな」


クラウディが引き離そうと肩を掴むと彼の目が開いた。


「起きてたのか……」


「今起きた」


彼は身体を起こすとのそのそと今度は少女の背中越しに身を寄せ、クラウディの腹部に腕を回した。


「おい、何を……」


「騒ぐな。お前から俺に触ることは許さない」


しばらくその姿勢のまま沈黙が流れる。少しして首元にカイザックが顔を埋めたが、舌打ちしして顔を離した。


「それで?何か言うことは?」


「あ、いや……その悪かった。騙して」


「『悪かった』じゃないだろ?もっと丁寧に謝れ」


そう言ってカイザックは少女の服を弄ると胸サポーターを外し、直に胸を揉んだ。


────何でいちいち触る?


「っ……すまなかっ、た」


クラウディは手から逃れるため前のめりに体勢を崩した。しかし彼はやめず覆い被さる。


「もっと丁寧に。俺に何をしたんだ?」


────もっと丁寧?!


「う……男、装して、騙してすみませんでし、た?!」


カイザックの指が胸の先端を急に触り、語尾が裏返るクラウディ。


「も、もういいだろ?」


やめるよう伝えるがカイザックはグイッと少女の身体を引き起こすと自身の体にもたれさせた。小柄な少女の身体は広い胸板にすっぽりと入ってしまう。


「だめだ。それで?何で騙した?」


耳元で囁く声に少女は何とか頭の中で考えをまとめる。その間にも彼の手は胸を刺激し、腹をさすった。


「お前が、女好きだから……アイ、ラがバレないようにって」


「バレたらどうなるというんだ?」


「……それは」


「はやく言え、正直に」


カイザックが腕を少女の腹より下の方に伸ばすのを感じクラウディは慌てて腕を掴んだ。逞しい腕はその程度では止まらず、いやらしく鼠径部を撫でた。


「はっ……はぁ、犯され、るんじゃ、ないかと」


「ほぉ……」


彼はクラウディの仮面に手をかけた。少女はそこで我に返り、なんとか体の向きを変えると男の身体を押し除けた。


彼はびくともせず、少女の方が反動で尻餅をつく。少しの間荒い息を整え、ジロリとカイザックを睨んだ。


「こういうことになるから男装した」


カイザックは髪をかきあげるとニヤリと笑った。


「なにを怒ってる?ちょっとした遊びだろ?」


「あ、遊びだ?」


「俺に取っちゃこの程度は遊びさ。そもそも顔も知らないやつを抱くと思うか?それにお前みたいなガキを相手にはそもそもしない。お前の男装は自意識過剰ってやつだろ」


────まあ一理あるか


実際の年齢は分からないが、フロレンスも15、6じゃないかと言っていたので確かにまだ子供なのだろう。


男装までして騙す必要は無かったかもしれない。事前に話しておくべきだった。


それにカイザックは20歳辺りの大人びた女性を好む傾向があったように思える。ベルフルーシュでも取り巻きの美女は大人であった。


「なら、手を出すことはないと?」


「ないな」


ハッキリと断言するカイザック。クラウディは怪しんだが、今も何かやろうと思えば出来る状態ではあり、特に何もしようとするそぶりはもうないので信じることにした。


少女は肩の力を抜き、ため息をついた。


「念の為、今後はアイラのところに寝る」


「だめだ。手は出さないが今まで通り一緒に寝ろ」


「何故?」


「今の環境に慣れたからだ。また変わると寝つきが悪くなる」


────それくらい我慢しろ


言いたかったが、クラウディはグッと堪えた。


「なら貸しとやらを一つ使え」


「…………まあいいだろう」


貸しはあと2つな、とやれやれとため息をつくカイザック。


「それとアイラには念の為説明しておくからな」


「俺に被害が及ばないようにするならいいさ」


それと、とカイザックは少女の首元を指差した。


「貸しもう一つ使う。香水は使うな臭い」


「……了解」


バレた時点でもう香水は使う気は無かったので少女は貸しを減らせると心の中で拳を突き上げた。


「俺は寝る。見張りに行っとけ」


カイザックは再び横になり目を閉じた。


クラウディもそれを見て靴を履くと外に出た。


何やかんやで丸く収まったなと安堵の息を吐いた。その後は火の具合を見ながら見張りを続け、本を開いた。


少女はこの時安心し切っていたが、カイザックの頭に完全に雌として見られ始め、罠にハマり出していることに気づかなかった。






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