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第124話 俺様カイザック様①







クラウディがスライムを拾って野営地まで戻るとテント設営が終わって食事の準備をしていた。焚き火の周りに魚の刺さった串がいくつも地面に突き立てられている。どうやら川魚を獲ったみたいだ。


カイザックは岩の上で陽に当たりながらタバコをふかし、アイラは魚を凝視して時折息を吹いて火を調整している。


クラウディはアイラの側に行き調味料で塩を取り出して振りかけた。


「お、戻ったかクロー!……塩か?助かるぜ」


「美味そうだな」


「へへこいつは塩焼きが美味いんだ。もう少し待ってろよ……ん?」


彼女はしきりに鼻をひくつかせた。


「クロー香水振っとけよ。雌の匂いが出てるぜ」


「……そうか?」


言われて少女は服の袖に鼻を近づけた。石鹸の良い香りはするがそれだけだ。


だが確かに忘れていたので首と手首に香水を振りかけた。男ものの刺激的な臭いが鼻をついた。


少しして魚が焼けたのかアイラが1匹差し出した。受け取って食べるとタンパクな白身がほぐれて口の中に広がった。塩気もちょうど良い。


カイザックも呼んで食事を済ませると各々自由行動とした。


クラウディは収穫物をよく見るため荷台を覗いた。マンドラゴラの足が袋の口から見え、中を開けるとびっしりと入っている。


そのうちの一つを手に取りまじまじと見つめた。


断末魔の叫びの途中で固まったような顔がおそろしい。


「マンドラゴラは簡単に取りたいなら土ごと掘り起こして水の中で叫ばせれば良いんだ。本当はな」


カイザックが側まで来て、荷台の横から腕を乗せた。


「なに?そんなに簡単ならなんであんな危険なことを」


「面倒くさいからな。土ごと掘り起こしてたらいくら時間あっても足りん。あとで水で洗い落とすのも怠いだろ」


一瞬怒りが湧き上がるが、後の説明ですぐに冷めた。前もってそういうのも説明して欲しかったが、知らない自分が悪いのだ。手助けしてもらっただけでもありがたいと思わなければ。


「これは一体何に使う?報酬もこれだけあれば────どのくらいだ?100以上もらえるだろ」


袋の表面しかないがマンドラゴラはレスターと遭遇した後も獲ったのだろう、20株以上ある。


カイザックはクラウディの肩に腕を回して引き寄せた。


「マンドラゴラは万能でな。最上位ポーション『エリクサー』に使われることが多い」


「『エリクサー』?どんな傷でも治すのか?」


「ああ、生きていればどんな傷でも治す。1本1000万はするぞ」


────1000まん?!


驚きはしたものの、死の淵にいるものすら一瞬で完全に回復させるならそんなものかと、額にも納得する。むしろ安い方なのかもしれない。


「他にも活用法はあるぞ。どんな病にも効く薬だって作れるし────」


カイザックはクラウディの耳元に口を近づけた。


「性交を手伝う薬にもなる」


囁かれるその言葉に、少女の全身に悪寒が走り彼の手を振り払うと荷台の反対側に張り付いた。


────ば、バレたのか?


彼はケラケラと笑って、荷台にゆっくりと乗った。


「変な事言うな」


笑う表情をみて冗談かとため息をつく少女。転がるマンドラゴラを元に戻そうと手を伸ばすとその手を強く掴まれる。


そのまま押しグイッと引き寄せられカイザックが腰に手を回した。


「おい、よくも俺様を騙したな?」


いつもの妖艶な顔つきの彼が真顔だった。


「なんの……ことだ?」


クラウディは白々しく顔を背けた。しかしカイザックは不意に少女の胸を鷲掴んだ。


「っ!?」


「これの事だ」


ぱっと見は胸サポーターで分からないが触られてしまうとその膨らみと柔らかさに男でないとバレるだろう。


彼は答えない少女に片眉を上げ、胸を揉みしだいた。


「認めて謝罪しないとどうなるか分からせてやろうか?」


男の逞しい腕が服を弄り、胸のサポーターを器用に外すと直接触れてくる。


「わ、分かった……悪かった!」


慌ててクラウディはそう言うがカイザックはやめない。


「『悪かった』じゃないだろ?きちんと謝れ」


胸を揉む手は今度は下の方へ伸びていく。ゴツゴツとした手が肌を撫でる感触に身震いする少女。


しかしその手は途中で止まり、舌打ちするとカイザックは離れた。


解放された少女は慌てて服を元に戻した。


「続きはまた夜な。貸しのこと忘れるなよ」


カイザックが荷台を降りてどこかに行くと入れ違いでアイラの姿が見えた。頭が濡れており、服も着替えているので川で水浴びをしたのだろう。


「なんだアイツ気持ち悪いな。ニヤけてたぜ?なんかあったか?」


「い、いや別に」


少女は助かったと思い荷台を降りた。カイザックに女とバレた事を話すか迷うが、あの口ぶりからして貸しがあるんだから黙っておけということだろう。


夜ということは、また謝罪を求めるのだろうか。クラウディはちゃんと謝れば許してくれるだろうと、どんな感じで謝るか考えるハメになった。


夜になるとカイザックは見張りの順を変えると言い始めた。順番はアイラ、クラウディ、カイザックの順にするとのことだ。


なぜその順なのか不明だが、アイラは遅くまで寝れる可能性があるというので喜んだ。


それから簡単に食事を済ませて明日のことについて話した。


早朝から出発し、次の目的地へと向かう順路を大まかに決める。


その後は各々少しゆっくりし、カイザックは欠伸をすると早めにテントへ入って休んだ。


「クローも休めよ。寝る時間なくなるぞ」


「ああ……そうする」


アイラが気を遣う。


正直まだテントに入りたくない。いざ謝るとなると緊張するものだ。元男は前の世界でも他者に正式謝罪をした事があったかといえばほとんど覚えはなく。


記憶が曖昧なのだから当然ではあるが。


────いや大丈夫だろ


カイザックは頭がいいのでしどろもどろでも理解はしてくれるはずだ。


クラウディは息を吐くと靴を脱いでテントに入った。


カイザックはいつも通りど真ん中で眠っているようで静かに寝息を立てていた。


「カイザック?」


小声で声をかけるが起きない。少女は無理に起こしても不快にさせるかと思い、アイラと交代の時にしようとテントの端に寝袋を敷いて横になった。

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