第118話 オーガの素材回収依頼④
村の被害は奇跡的に死者はなかったが、重軽傷者はいくらか発生したようだった。しかし生きていれば回復ポーションが使えるのでそれを分けてなんとか生きながらえたようだ。
残念ながら足や手を失ったものがいてそれは流石に中級ポーションでは直せず。
「そんな、死者がいないだけでも素晴らしいことです。ポーションまで分けてもらって……歓喜のことこの上無い所存です」
村長は深々と頭を下げた。
「まあこれでオーガの脅威は去った。あとは村長たち次第だ」
「はい……ありがとうございます!大した礼やもてなしは出来ませんがどうぞゆっくりしていってください」
村長はもう一度深く礼をすると納屋から出ていった。
クラウディたちは戦闘が終わり、被害者の処置をした後休むために納屋へ戻ってきていた。村長が自宅へ招待すると言ったが断った。断ったことにアイラは不満げだったが。
「おい、身体の具合は?」
カイザックが村から食事を分けてもらったのか戻ってくると床に料理を置いた。良い匂いが漂ってくる。
細かい傷は各々ポーションで直したが、クラウディは剣の力を使ってしまったために身体に酷い倦怠感が発生して横になっていた。流石に失った体力はポーションでは戻って来ず。
「カイザック……あれはメイジじゃなかったのか?」
前もって得た情報と違い窮地に立たされたので何故違うのか気になった。
彼は器に食事をよそい、クラウディの目の前に置いた。
────身体動かないんだが……
動けない少女を見下ろして肩をすくめる。
「人間の魔法使いの格好したやつが『僧侶』なのか『魔法使い』はたまた『ネクロマンサー』なのか判別が難しいように、敵も同じだろ。その道に精通しているやつがいるなら話が別だがな」
要するに見た目では判断が難しい事があるのだろう。
今回のような事があると被害が出るので最後まで油断してはいけない事を肝に銘じた。
カイザックはタバコに火をつけて一服すると食事を摂り出した。
起きようとするも身体が震えている少女を見てアイラは食事の手を止めた。
「クロー、食べさせてやるよ」
「いや自分で……」
クラウディはなんとか力を入れようとするが寝返りを打つので精一杯だった。アイラは無理すんなと言い、仮面をずらすとスプーンを持って行く。
食事はスープにパンだった。スープには家畜の肉なのかたくさん入っているが、そこまで臭みがなく食べやすかった。
「……おい、俺様がやってやろう」
アイラが少女にご飯を食べさせている様を見て何を思ったか、カイザックは急にそう言ってスプーンを奪おうとした。
「さわんな!てめーは自分の啜ってろ!」
女戦士は一蹴し、伸びてくる手を叩いた。
「ちっ、せっかくの人の優しさを」
彼は肩をすくめて自分の食事を再開した。
「クロー、あの力はスキルなのか?」
食事が終わって一息つくとアイラが聞いた。
少女はどう説明したものか迷ったが、取り敢えず『奥の手』と表現し、何度も使えるものでは無いし使うと今みたいに何も出来なくなることだけ説明する。
「いいじゃん奥の手!かっけー!」
女戦士が頭をが弱いからなのか何かを察したからなのかわからないが、それ以上は詮索されず。
カイザックの方はそれを聞いてため息をついた。
「何がだよ。あれだけしか動いてないのにこんな反動なら大して使えるものでは無いだろ」
「うわっ、デリカシーないやつー」
そして2人の言い合いを聞きながら少女はゆっくり休んだ。
3時間もするとようやく体を起こせるようになり荷物から水筒を取り出して水分を取った。
アイラとカイザックは今は外に出ており、クラウディ一人だった。おそらくオーガの素材を回収しに行ったのだろう。2人は声をかけることなく出ていった。
うつらうつらとしていると、納屋のドアを叩く音が聞こえ、入るようにいうと生贄にされる予定だった村娘が一礼して入ってきた。
クラウディの側まで来ると正座して座る。
村娘はしばらく何も言わずにチラチラと少女を見ていた。一体何の要なのかわからずまたうつらうつらし始めた頃に彼女は口を開いた。
「あの、クロー……さん?この度は命を救っていただきありがとうございました」
「……いやそれは自分たちで勝ち取ったものだ。俺たちはオーガの素材が欲しかっただけだ。お互い利用してなるべくしてなっただけ。礼を言われるものじゃない」
今後何人も礼を言いに来られても困るのでやや冷たく言い放った。
「それでもこの嬉しさには感謝をしなければなりません。今一度感謝を」
────もう勝手にしてくれ……
少女に酷い眠気が襲いかかり、耐えれなくて静かに横たわった。その様子に村娘は近くに寄り背中をさすった。
────吐き気とかじゃ無いんだが……
「今はお休みですね……どうぞごゆっくり」
村娘は鼻歌を歌いながら少女の背中を一定のリズムで優しく叩いた。
クラウディはそんなこと必要ないと思ったが聞きながら瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちていった。




