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第117話 オーガの素材回収依頼③







早朝────


クラウディは村長の元を訪れた。彼はトーテム広場にまだ居り、村人はすでに準備を終えたのか、遠くに避難している。1人の女性を残して。


トーテム広場の足元にはたくさんの食事が置いてあった。


料理を踏まないよう村長の近くまで行く。


「おや、クローさん?でしたかな。もうオーガどもが来ますよ。早く出られてください。それともまさか迎え撃とうとは思ってますまいな」


カイザックと深夜に作戦は立てたが、それでも不安が拭えない。やはりもう少し手が必要だった。


「そのつもりだったが、少々きつい。俺たちのデメリットの方が大きいんだ。だから聞きたい」


村長は続きを待つように何も言わない。


「俺たちが戦うとして、例えボスのオーガメイジを倒したとしても、味を覚えてるオーガどもがまたここに来るかもしれない。その時にお前たちは立ち向かえるか?」


「……わしらは見ての通り『スキル』も持たない村人です。そんなわしらに何が出来ると言うのです?」


「オーガ自体は賢くない。ボスを倒せば例え来るとしても1体2体。その程度ならお前たちだけでも倒せるだろう。罠を張るのも良いかもしれない」

 

「……」


「お前たちが立ち向かえるなら手を貸すし、手を貸して欲しい。難しいなら俺たちは諦めてここを去る。自分たちのことを自分でなんとか出来ないなら助ける意味もないからな」


クラウディは生贄になる予定の娘を見た。手足を縛られて座っているが、もがこうとする素振りも見せない。村のためと割り切っているのか、生きるのを諦めているのか静かに佇んでいる。


「勝てるのですか?わしらでも」


彼は少女の視線を追い、しばらく何も言わなかったが、やがて何か決心したのか静かに言う。


「工夫次第だろ」


「……わかりました。何をすれば良いか教えていただきたい」






オーガたちは昼を過ぎた後に群れで森から出て来た。自分のたちの縄張りとでもいうかのように我が物顔で村の道の真ん中を歩いている。


オーガの体躯は約3m。皮膚は赤黒い。腹は出ているが胸や腕の筋肉は盛り上がっていた。各々が太い棍棒を持ち肩に担いている。数は5体。その1番後ろに一回り大きくローブを着て杖を持ったオーガが控えていた。


いつものように村の広場へ来ると食料を貪り食い始める。


クラウディはミラージュクロスで生贄の娘の背後に気配と姿を消し息を潜めていた。


オーガメイジが他のオーガに娘を攫うよう命令したのか、予想通りオーガの内の1体が前に出てきて顔を近づけ生贄の匂いを嗅いだ。


尖った耳に鷲鼻をもち人間の顔を縦に潰したような顔貌である。その口からはギザギザの牙が見え、2本のひときわ太い牙が生えていた。


吐く息も食べ物が腐ったような臭いがし、少女は吐きそうになりながらも耐えた。


オーガの鼻がしきりにひくつき、生贄の背後に目をやった。その瞬間、少女はあいさつ代わりに生命石のマナを使用して黒い玉を浮かせた。


オーガは徐々に高く上がる黒いたまに釘付けになり、他のオーガたちにも何か言ったのか耳障りな濁声を発すると一斉にオーガたちが顔を上に向けた。


クラウディは合図として色を反転させ激しい閃光を辺りに浴びせた。


その瞬間に少女はシミターをオーガの目に深々と突き刺して倒し、他のオーガの方へ飛び出した。メイジの方はアイラが背後から斬りかかっていた。


他のオーガたちは目が眩んで両目を抑え、訳がわからないのか棍棒を振り回して暴れ出した。その間に1匹の背後に周りナイフを背中に突き刺して登ると剣を思い切り目に突き刺した。粘膜である眼球は柔らかく、その奥の脳まで剣は容易く達した。オーガは痙攣すると大きな音を立てて倒れた。


────あと3体……いや2体


オーガの身体から着地したクラウディはカイザックの矢が顔面に刺さった敵が倒れるのを見て次の標的に移った。


流石に眩んだ目が回復したのか反抗する人間を見据えて棍棒を振り回し始めた。


動きは遅いが範囲と威力が大きく、棍棒は容易く地面を抉った。


カイザックが後退して避けるのに専念しているのを見てクラウディも後ろへ逃げる。


オーガ2匹がお互いを押し除けあって突進してくるのを確認しクラウディとアイザックはさらに後退、そしてとある地点まで来ると踵を返した。


「今だ!」


掛け声と共に家の陰に隠れていた村人が姿を現し、地面に隠していた太い縄の両端を引っ張った。


縄はピンと張り、オーガの足を絡め取る。いくらか村人が力負けして引きずられるも敵はバランスを崩して盛大に転倒した。


クラウディとカイザックは素早く左右に分かれ地面に激突したオーガの目から脳天にかけて剣を突き刺して倒した。


その姿に村人は歓声を上げるが、クラウディはアイラの方へ援護に向かった。


彼女はメイジと相対し飛んでくる電撃を『魔鋼』製の大斧で右に左に弾いていた。


敵の首元からは血が滴り、背後からは1撃加えれたことがわかる。


しかしオーガメイジは気にする様子はなく、呪文を唱え続けている。


クラウディは防戦一方のアイラの脇をすり抜けメイジに向かって突進した。


「気をつけろクロー!そいつシールド張ってるぞ!」


アイラの言葉が聞こえた時には目の前まで来ており、クラウディは見えない壁にぶつかって吹き飛んだ。


地面に激突するが素早く起き上がってアイラのところまで後退した。


────並列魔法か


並列魔法────

複数の魔法を同時に扱うこと。


「どう突破する?!」


飛んでくる魔法を避けながら少女は叫んだ。


フロレンスの時はひたすら1箇所に魔法と斬撃を加えることで破っていたが、その間に何度も死にかけたし、それは生命石にマナが満たされていたから出来たことで、今の残量では不可能だった。


「いや、これで良い。防戦一方で耐える。そうすればそのうちマナが枯渇するはずだ」


カイザックがアイラの後ろへ位置取りそう言った。


「筋肉女。そのまま防いでろー」


「てめ、カイザック!あとで覚えとけよ!」


確かにこのまま行けば枯渇するし、標的がアイラに絞っている今は大して被害も出ないだろう。多少は畑が焦げるだろうが。


アイラは飛んでくる電撃や火の玉をことごとく弾き飛ばし、やがて威力も低くなってきたと思えば敵の動きが止まった。


「待ち侘びたぜ……」


大斧を脇に下げて舌なめずりするアイラ。彼女は沈黙する敵に突進し先程シールドが張ってあった場所を斬りつけた。大斧が空振りシールドはなくなっているのがわかる。


「はっ!」


戦士はそのまま遠心力を利用して、攻撃を防ごうとする杖を両断し腹部を斬りつけた。


オーガメイジは呻いて折れた杖を振り回す。しかし弱々しい威力では戦士を振り払えるわけもなく、アイラは飛び上がると斧を振りかぶった。


「『力溜め』────『三波』!!」


彼女が腕を振り下ろすと敵に向かって三方向に衝撃が走った。


衝撃がすぎたあと敵は少しの間その場に固まったが、やがて走った衝撃の跡に沿って身体が別れ、地面に崩れ落ちた。血と臓物が辺りに散らばった。


アイラは地面に着地すると拳を突き上げた。


それを見た村人が一斉に勝ち鬨を上げる。


「勝った……」


クラウディもアイラのそばに行こうとしたがカイザックが肩を掴んで止めた。


「待て、何かおかしい……」


彼はメイジの死体を凝視していた。少女も何がおかしいのか見ていると何やら黒い湯気がたちのぼっている。


はるか後方の広場から悲鳴が上がった。振り返ると先程倒したはずのオークたちが立ち上がり村人に襲いかかっていた。


「やられた、あいつネクロメイジだったか!」


────ネクロメイジ?


いやそんなこと考えている暇はない。3人は広場に駆け出したが、とても間に合いそうもない。


「『力溜め』────『投擲!』」


アイラが大斧を投げて、危うく村人を叩き潰そうとしていたオーガの頭部に命中させる。流石に頭が吹き飛んだオーガは倒れるとそれ以上動かないようだったが、まだ動くオーガが村人を一人ずつ薙ぎ倒していく。


────くそ!間に合わない


クラウディは剣を眼前に構えて意識を集中する。全身に力を流すイメージをし、刀身を光らせた。


力がみなぎり稲妻の如くオーガの群れに突進すると村人を潰そうとした腕をすんでのところで斬り落とし、地面を蹴り上げると返す手で頭を切り落とした。


続けて村人を追いかけるオーガの背後から剣を交差させて頭部を跳ねるとそのまま回転しながら飛んで、次の1体を頭から胸まで斬り裂いた。


だが、そこで剣の力が解け頭上に敵の影が翳った。


身体が動かない少女はやられると思ったがグシャリと鈍い音がしたかと思うとオーガは膝をついて動かなくなった。頭にアイラの大斧が刺さっている。


「大丈夫か、クロー!?」


アイラとカイザックがクラウディの側まできて肩を貸して立ち上がらせた。


しばらくオーガたちを警戒していたが今度こそ倒したみたいで全く動かない。


「カイザック……被害、状況を」


荒い息をしながらクラウディはカイザックに現状を確認するよう頼んだ。

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