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第116話 オーガの素材回収依頼②







クラウディは祭りが静かになった頃に広場に戻ってきた。辺りは日が落ちて暗くなっていた。村人のほとんどは酒に酔ってその場に横たわって眠っている。


「楽しんでいただけましたかな?」


村長が1人起きて地面に座っていた。クラウディは隣に腰掛けた。


アイラは村人に混じって大の字でいびきをかいて寝ており、カイザックは相変わらず姿が見えない。


「まあ見ての通りだ。食事は美味かった。感謝する」


「そうですか、それはよかった」


老人はニコリと笑い。辺りを見渡した。


「そういえば、オーガについて、でしたな」


「ああ、ここら辺にオーガがいると聞いた」


彼が話題を振ったのでようやく話が聞けると向き直った。何でもいいから情報があるとありがたい。


「あなた方は3人でしたかな」


「そうだ。あとは馬ぐらいか」


それを聞くと村長は顎髭を触って何か考えるようにしたあと、やがて口を開いた。


「明日までにはここを立ちなさい」


「……ん、ああまあ長居はしないが……一応聞くが何故だ?」


村長は顔を上げ広場のトーテムを見つめた。それを見ろと言うように指差す。


「あのトーテムは上からオーガ、若い娘、村人たち……と並んでおります」


少女は改めてトーテムを見た。1番上に胡座を描いた赤鬼のような化け物がおり、その下に横たわった女、さらにその下には人が折り重なって娘か鬼かはたまたその両方かに手を伸ばしていた。


────まるで生贄を捧げてるようだな


「じいさん、オーガが来るのは明日か?」


物陰から声がし、振り向くと半裸のカイザックが木箱に座ってタバコをふかしていた。


「どういうことだ?」


クラウディは村長に向き直った。


「カイザック様はどうやら知っているようですな」


「俺様だからな」


しばらく沈黙が流れクラウディが痺れを切らして続きを聞こうと身じろぎすると村長は立ち上がりトーテムへと歩いた。それに触れて指でなぞる。


「実はこの村では頻繁に祭りを行います。月に1度、悪い時には2度」


────悪い時?


何故悪い時に祭りを行うのか理解できない少女は首を傾げた。


「その祭りにはオーガどもがやってくるのです。そして食料を漁ったあと村娘を1人攫っていくのです。要するに生贄の儀式ですな」


「……」


クラウディは村長の淡々とした言葉に身じろぎひとつしなかった。


「オーガの生態として、やつらは馬鹿だ。こんな小さな村から毎回生贄を出していたらすぐに住人は全滅だろう。が群れになるとそれなりに知識のある奴も出てくる。大方知恵者が他の村も回って食料と女を漁るようしてるんじゃないか?そうやって少しずつ村から奪う。そうだろじいさん」


「……おっしゃる通りで。おそらく5日に1度はどこかの村に降りてくるかと。今回は順番的にここです」


カイザックの説明もあり話は理解できた少女。しかし解せない点が一つあった。たとえ群れだろうがアイラもいるし、話に聞いた限りでは自身でも倒せそうだった。


相当数なのだろうか。それならこんな少ない食料と女1人ではとても足りないだろう。だが、逆に数が少ないなら村人でも頭を使えば勝てそうではある。


『知恵者』。カイザックの言葉が異様に引っかかった。


「『上位種』か」


「ご名答。Cランク冒険者どの」


カイザックは指を鳴らしてウインクした。


「オーガメイジだ」






村長が一行に村を出るように伝えたのはたった3人ではとても叶わないと判断したからだった。たとえAランクパーティでもきついだろうと。


実際Aランクパーティとは言っても該当するものはアイラだけだ。あとはCランク冒険者が1人と情報屋が1人。僧侶も魔法使いもいない。


クラウディたちはアイラを抱えて一旦納屋に戻った。


「おい、おい、起きろ」


納屋の床に投げ出されても起きないアイラにカイザックは何度か平手打ちを浴びせた。


────後が怖いことをよくするな


頬が赤くなる頃にようやく目を開けるアイラ。


「な、なんだ?!なんかあったのか?げ、カイザック!離れろ!」


彼女はカイザックに殴りかかったが、ヒョイと避けられて転倒した。


クラウディは彼女を助け起こすと水筒を差し出した。サンキューと、水を喉を鳴らしながら流しこむアイラ。


「うー頭痛い。なんかあったのか?」


少しして落ち着いたのかこめかみを抑えながらアイラは唸った。


クラウディは村長とカイザックから聞いた話をかいつまんで伝えた。


「要するにオーガとオーガメイジが来ると言うことだな……」


せっかく説明したのに大分端折ったなと少女はため息をつき、これからのことについてどうするかを考えた。


村長からさらに詳しく聞いたところオーガの数はメイジを除いて5匹。昼前には来るだろうと言うことだった。


トーテムの所に食事と生贄の娘を1人置き、他の村人は遠くから見守るそうだ。


村長の言う通りクラウディたち3人だけでは確かに心許ない。しかもカイザックは手伝わないと言っていたので実質2人だ。


「で、やるのか?」


何も言わないでいるとアイラが少女を見つめた。


「行けると思うか?」


「そりゃクローがやるってんならやるぜ?安心しろって私は強い!斧も新調したし!」


────『魔鋼』製のものはある程度魔法に強い……だったか


オーガメイジはアイラに任せるとして他の5体を1人で倒せるだろうか。オーガというものを生で見たことがない少女は頭に中々戦略が浮かばなかった。


「うー、頭痛いぜ。やるやらないにしてもとりあえずもう少し休むぜ……体調を万全にしねーとな────『瞑想』」


アイラはそう言ってスキルを発動したのか座禅を組むと静かになった。しかし、かくんと首を垂れていびきをかきだす。


「ははっ、『瞑想』は戦士の回復スキルだが……これ寝てるだけだろ」


カイザックはアイラの顔を覗き込みながら笑った。


「カイザック……倒すとしたら何かいい案があるか?」


「その前に聞くんだが、オーガは決して弱いモンスターじゃない。本来素材が欲しいだけならはぐれのやつを1体ずつ倒すのが定石だ。その群れを倒すとなるとリスクもある。とる手段は前者だと思うんだが?」


「……」


カイザックの言うことはわかる。


村人も1人だけ犠牲になれば全員助かるのだ。こちらが死ぬ可能性のある手段を取るメリットはない。まして彼らから頼まれたわけでもないし、報酬があるわけでもない。


リスクを自分たちが背負う必要なんてないのだ。他の群れでないオーガを仕留めれば良い。


元男の少女も頭では理解出来ていた。ただここで彼らを見捨ててしまえば後悔してしまう気がしたのだ。


────あいつならどうしただろうか


ふと浮かぶ金髪黒ドレスの女性。彼女は彼の記憶の中で口端を上げると消えた。


「わからない……」


少女は形容できない心情にただそう答えた。


カイザックは少しの間見つめるとやれやれとため息をついた。


「まあいい。そうだな……タダで情報はやりたくはないんだがなぁ」


彼はクラウディをみてニヤリと笑った。少女はたじろいだが続きを待った。


「貸にしといてやるよ。これで3つな。ホブゴブリンやオークと戦ったことはあるか?」


────3つ?


クラウディは頷いた。それを見てカイザックは言葉を続ける。


「オーガの皮膚は硬い。アイラの筋力と斧なら斬ることは出来るだろうが、お前には荷が重いだろう。まず片手で傷が付くとは思うな、せいぜい斬れるのは薄皮1枚だ」


「……ならどうすればいい?」


「剣士ならスキルでなんとかなるが、クローはそれがないんだろ?見てればわかる。なら弱点をつくしかない。まあオーソドックスに目だな」


少女が『無職』というのを既に知っているのか、そんなことはさておきと、カイザックは自分の目を指差した。


────さすが情報屋……



「ただ数が多い。お前でも目眩しの魔法を使ったとしても2体。その後にもう1体が正味な話、精一杯だろう」


────あと2体か……なんとかなるか?


切り札の剣の力もある。全力で行けば何とかなる気がした。そんなことを考えていると彼は驚きの一言を放つ。


「あとの2体は俺が仕留めてやるよ」


「!……いいのか?手伝わないと言ってたような気がするが」


「女が生贄なんて目覚め悪いだろ?」


カイザックは肩をすくめて笑った。女を抱いて情でも湧いたか、生贄の女を抱いてしまったのかはわからないがどうやらこれでいけそうだ。


その後は詳しい作戦を話し合った。罠や村人を参加させてはどうかと提案したが、前者は大型モンスターに対してのものとなると時間や材料がない。後者は村人には苦行だと却下された。


ある程度作戦を固めるとカイザックも休むと言って床に寝転がった。


クラウディも軽く仮眠を取った。

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