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第114話 湖の出来事







湖に到着したのは本当に4日後だった。大きな森の中にポツンと隠れるように大きな湖が姿を現した。2箇所の川と繋がっており水は澄んでいて、飲み水になりそうだった。覗いてみると魚影も見える。


湖の方は端は浅く、中心に行くほど深くなっているようだ。端は底が見えるが中心の方見えない。


昼間に到着したが、一行は早めに野営する事にした。


野営の設営が終わると、止める間もなく早速アイラが叫びながら服も脱がずに湖に飛び込んだ。


「気ん持ちいー!!」


空を向いて足をバタつかせる。


「バカだな」


声を上げながら泳ぎ回るアイラにカイザックは呟いた。


「ついでに体も綺麗になるんだから良いさ」


「……お前は入らないのか?」


言われてクラウディは首を振った。


「いや無理だろ……」


仮面をしたままの入水は流石にきつい。また夜の見張り中にでも行こうと食事の支度をした。


昼食は適当にパンにチーズを溶かしたものを乗せ、鍋に湯を沸かして溶き卵をゆっくり入れて卵スープを作った。


匂いに釣られてアイラは戻ってきて激しく身体を揺すった。水飛沫があちこちに飛び、見ていた2人は水がかかって眉間に皺を寄せる。


カイザックがイラついたのか布を取り出し彼女に投げつけた。アイラは顔に被るが気が効くなと笑った。


「いただきー!」


着替えを済ませ、用意された食事にがっついて平らげると満足したのか彼女は草むらに横になった。


「カイザックも浴びてこいよ、心の汚れが落ちるぜきっと」


「お前と一緒にするな。誰がお前らの前で入るか」


スープをすするカイザック。飲み干すと気に入ったのかもう一杯自分で注いだ。


少女の視線に気づいたのか彼は片眉を上げた。


「なんだ?」


「いや、別に……」


クラウディは首を傾げるカイザックから視線を外しゆっくりと食事を摂った。






その日の夜────

カイザックは自分の見張り番に水を浴びて身体を綺麗にし、仮面の男と見張りを交代した後、眠りについた。しかしふと目が覚めてのそのそと起きると服を着て外を覗いた。


テントを背にして次の見張り役が火に当たっている。


────気づいてはないか……


カイザックはここ数日、クローの様子を伺っていたがやはりどう見ても男だった。演技しているのなら普通はどこかに綻びが生じる。たとえ完璧だとしても精神は疲弊するはずだった。


しかし全くそれが見えないとなるともう疑う必要はないのかもしれない。


寝る時は仮面を外すと思ったがそう甘くはなく、仮面を装着したまま睡眠ときた。


寝ている間に仮面の下を覗こうとしたが、見張りの交代時は必ず前もって起きているし、寝ていても身体が反応するのか動く素振りを見せた。


クローの剣術や体捌きを山賊戦等で確認していたカイザックはおいそれと触れることが出来なかった。


気軽に触れると返り討ちに合う確率が高かったのだ。


今も背は向けているが近づくと気付かれるだろう。


────まあ、もう気づいているかもしれないが


彼は色々考えを巡らしたが、自力では難しそうだった。やはり賭け事で剥ぎ取るしかない。賭け事には応じた事もあるから勝てばいい。


────気長に行くか


本日は自身の見張り中にゲームはしたのでまたの機会にする事にした。


彼は靴を履くと用を足すために外に出た。靴は履いたまま寝るものだが、クローが相当嫌がったので面倒臭いが応じた。


「用を足してくるぞー」


仮面の男の背中にそう告げるとカイザックは少し歩いて茂みの方へ向かう。


出すものを出してスッキリするとついでに二つの月明かりに反射する湖の周りを歩いた。


湖は直径200mくらいで割と大きめなものだった。知識としてこの場所を知っていたが実際に見るのとはまた違うなと感慨深いものがあった。


そこまで脅威はないが昼間見た魚影からして『ダッシロント』という人の腕くらいのモンスターが生息しているのが確認出来ていた。


5~6匹くらいの群れをなし、外敵には突進して外に突き飛ばす大体Cランク相当のものだ。


度々酒場やらで料理されるのが見られる、食べることの出来るモンスターである。


カイザックはちらちらと湖を覗みながら縁を歩いていたが寒くなってきたので戻ろうとした。


その時何か水が跳ねる音がした。


魚かと思ったがそれにしては静かで音のした方角を見ると何かの影が動いているのがわかった。


距離は50m先の浅瀬。人型であるのが確認出来た。敵の可能性があり念の為腰にぶら下げてきた短剣に手を伸ばす。


気付かれないよう何とか姿が見えるところまで来ると岩陰に隠れた。


────女?


人型のモンスターかと思っていたが、それは一糸纏わぬ裸の女性だった。水浴びをしているのか身体を布で擦っている。月明かりに身体が照らされ透き通るような肌が目に入った。


もっとよく見ようと身を乗り出すカイザック。心臓が高鳴るのがわかった。


顔の角度が変わり、横顔が見えた。


「ほぉ……」


髪は女にしては短く、おそらく黒色で水に濡れて雫が垂れている。顔立ちは美しく、何かを憂いているような表情にカイザックの背筋にゾクゾクっと何かが走った。スタイルも良く、程よい肉付きをしていた。


我を忘れて眺めていると、不意に女性の顔がカイザックの方へ向き慌てて岩陰に隠れる。


────バレたか


と、短い悲鳴が聞こえた。何かあったのか激しい水音がする。


カイザックは再び覗くと大きな魚が女を襲いかかっているところだった。


腰に差していた短剣を抜き、彼は躊躇なく素早く浅瀬を走って女性の前に出た。


「退いてろ」


それだけ言うとカイザックは襲いくる魚を斬り裂いた。


────ダッシロントか


数匹の群れに噛むでもない、体当たりするような攻撃に彼はそう判断した。


ダッシロントたちは代わる代わる突進を繰り返しカイザックを縁に追いやるも1匹ずつ確実に息を止められ、最終的に1匹になりそれを仕留められると辺りは静かになった。


襲ってくるものがないことを確認してカイザックは短剣をしまい先程の女性を探す。


女性はカイザックが覗いていた岩場に隠れており彼が近づくと酷く怯えたように身を縮めた。


寒いからか恐怖からか肩が震えており、彼はシャツを脱ぐと彼女に着させて手を引くと野営地まで連れて行った。


焚き火の前にクローがおりその正面に彼女を座らせ暖を取るよう言った。


女性が頷いた時に顔がはっきりと見える。


切れ長の目に小さな口とふっくらとした輪郭。中々の美女に息を呑み、女性に飢えていたカイザックは久々に胸が熱くなった。


「クローちょっとそいつを見てろ着替えを持ってくる」


見張り役に少し任せ、彼はテントに入って身体を拭くものと着替えを用意し外に出た。


だが焚き火にはクロー以外誰もいなかった。


「おい、クロー。さっきの女はどこ行った?」


「女?」


仮面の男は辺りを見渡し何を言ってるんだと首を傾げた。


「寝ぼけてるのか?誰もいないが」


────そんなはずは……


「ちょうどいい、俺はちょっと用を足してくるから少し見張りを頼む」


クローはそう言って彼に見張りを任せ、足早に茂みの方へ消えていった。


カイザックはその間に先程の女性の痕跡を探した。確かに地面の濡れた痕跡や足跡がある。


しかし野営内からは出ておらず途中でなくなっていた。まるで煙のように。貸したシャツでさえ見当たらない。


カイザックは一体何者だったのか酷く気になったが見張り役が戻ってきたのを見て諦めてテントへと戻った。

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