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第112話 道中①







クラウディたちベルフルーシュを出た後は、荷車に乗ってアーベルへの道を進み出した。御者(ぎょしゃ)はカイザックが務めた。


天気は良好。モンスターの影もなく今のところ平和であった。


ただカイザックだけは項垂れていた。


「まさかてめーもインベントリ持ちだったとはな!助かったぜカイザック!」


その背中をアイラは面白がって叩いた。彼はギロリと彼女を睨み、続けてベルフルーシュの方を見ているクラウディを睨んだ。


「そういう魂胆だとはな。卑しい奴らだ」


「さすがカイザック様々だ。どうなる事かと思ってた」


彼は白々しいと呟き諦めてため息をついた。カイザックはインベントリを5つ所持しており容量は全部で500リットルだった。クラウディたちが持ってきた荷物は手荷物以外は全て入れてもらった。


本人は本来は出すつもりはなかったらしいが。インベントリは大変貴重なものだ。持ってるだけで攫われると言う話もあるくらいに。


「……で、どの道順で行くつもりだ?ある程度目安は立ててるだろ?」


しばらく沈黙していたがカイザックが口を開いた。


少女は依頼書の一枚を彼に渡した。器用に馬を制御しながら、その内容を見てまたため息をつく。


「オーガね。金はあるんなら無視していった方が早いんだがな?」


「金はいくらあっても足りない。体も動かした方がいいだろ?」


カイザックは脳筋どもが、と悪態をついて依頼書を返すと天を仰いだ。


「俺は手伝わないからな、お前らでやってろよ」


「は!腰抜け野郎が!タマキンついてのかよ坊ちゃん」


アイラは笑いながら煽った。すると彼は馬を操作し、突然荷車の向きを変えて止まった。その勢いで、荷車に乗っていた2人は遠心力で荷台に転がった。


「あにすんだよ!」


「お前らには馬に乗ってもらう」


「は?」


「俺様がなんで御者なんてのをやらなきゃならない?」







カイザックはベルフルーシュから何キロも離れた草原で他の2人に御者としての馬の制御方法や実際に馬に乗る方法を教えた。


アイラは最初は不平ばかり言っていたが、1人がずっと御者をやるのは確かにきついとクラウディが諭した。御者の方は退屈そうに何とかでき、乗馬は流石に運動神経が良く、すぐに覚えた。最後の方では楽しそうに笑って馬を走らせていた。


クラウディも御者の方はほぼ完璧に覚えた。乗馬の方はぎこちなかったものの何とか乗れるようになる。降りた後は尻が痛かった。


カイザックはそんな運動神経と飲み込みが良い2人をつまらなさそうに時々アドバイスしながら見ていた。


「面白くない奴らだな……1回ぐらいこけろ」


少し休憩をした後は、最初にアイラが御者を務めていた。


「はは!もしかしてカイザックちゃんは何回も転けたのかなぁ?むずかちいもんねぇ」


小馬鹿にするようにアイラは笑った。カイザックは脳筋どもがとまた呟き、腕組みして目を閉じた。


「助かったカイザック。馬なんて初めて乗った」


クラウディがフォローするが鼻を鳴らして彼はそっぽを向く。


────まだ先は長いんだがな


2人には仲良くするのは難しいのかとクラウディはため息をついた。







一行は馬の疲弊を考えて休憩を多めに取りながら街道を進んでいった。御者はカイザックはやらないと言っていたがまたアイラと揉めてしまい、クラウディが仲裁してなんとか3人で回すようにした。


その日は30km程進んで野営することになる。現在は日が落ちて辺りはもう薄暗い。


アイラとクラウディはそれぞれのテントを立て薪を集めると簡単に組んで火打石て火をつけた。カイザックは見てるだけで寝転んで過ごした。


食事は簡単に済ませようとしたがアイラが仕切りに『オムレツ、オムレツ』と連呼するものだから仕方なくクラウディが作ることとなった。


「俺にも作れ」


フライパン等を用意していると横からカイザックが物珍しそうに側に来て言う。


────こいつら……


料理なんてするんじゃなかったなと後悔しながらも支度していく。


野菜と肉を切って炒め、味付けして皿に取り分け卵を整形しながら焼いて乗せる。更にソースも煮詰めて作った。


全体で20分くらいかかりその間はアイラが張り付いて見ていた。


よそって2人に渡すとすぐに食べ始めた。待ってましたとアイラは手をすり合わせ卵を綺麗に割るとニコニコしながら食べ始める。


「ほぉ……卵は甘く作ったのか」


カイザックも卵を割ると口に運んで咀嚼し言った。


少女は料理の途中味見してみると食材に炒めると少し苦味が出るものがあったようで、急遽卵は少し甘くしたのだった。


「美味い美味い!料理人になれるってクロー!」


アイラはスプーンで頬張りながら言った。大袈裟なとクラウディも食べ、みんな残さず食べた。


その後は次の日の予定を立てるとすぐに寝ることになった。見張りの順番は以前と同じ、カイザック、クラウディ、アイラの順番だった。


「なんかあったら呼べよ」


アイラがクラウディの肩を叩き耳打ちした。少女は頷き、彼女がテントに入って行くのを見届けて焚き火の前に腰掛けた。正面にはカイザックが座っている。


「お前は寝ないのか?」


カイザックは焚き火に薪を追加しながら言った。火が均一に回るように木の枝でつつく。


「もう少ししたら休む」


「……なら俺の相手をしろ」


彼は荷物から折り畳まれた板を広げて地面に置いた。少女を手招きし、側に来ると木製のトランプを置いた。


「何をするんだ?」


「……そうだなポーカーをするか」


2人はトランプゲームを始めた。今回は特に賭ける物はなく、ひたすら回数を重ねていく。


「クロー。お前の目的は何だ?」


カイザックは一旦手を止めタバコに火をつけた。一口含んでふかす。


少女は何と答えればいいかしばらく考え込んだ。


目的と言えば元の世界に帰ることだが、もっと大筋を辿ればその先に何かあった気もするのだ。


無意識に記憶を探ろうとし軽い頭痛が襲い出す。


「っ……」


「まあ言いたくないならいいさ。ついて行くのは約束だしな」


苦悩していたのは頭痛だったが、答えに困っていると勘違いしたカイザックはプカプカと煙を吐いた。


「疲れたなら寝るといい、3……いやあと2時間か。見張りで交代しなきゃならないだろ」


「そうだな」


クラウディは立ち上がると服についた土を払いテントに向かった。


一度カイザックの方を振り返り、靴を脱いで中に入る。


テントの中はカイザックのものと同じくらいの大きさで色は黒く、ドーム型のものを選んでいた。5人くらい、頑張れば6人は寝れるだろう広さがある。


端に少女の荷物が置いてあり、寝袋を取り出すと床に広げた。


座って寝るかとも思ったが見張りがいるのに流石に不自然であるのでやめた。


大人しく旅人の服の上着を脱ぐと、寝袋に入り横になった。少し冷えるので更にその上から毛布をかける。仮面はどうしようかと思ったが万が一のこともありつけたまま寝ることにした。インベントリも腰布の内側にきちんとあることを確認し安堵する。


少女はすぐには寝れないと思っていたが案外早くに眠りに落ちていった。

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