第111話 いざアーベルへ
「それじゃ元気でね」
宿屋の店主アマンダが大荷物を背負う2人を見送りに店の外まで出てきた。
朝早くで食事を摂りに他の客が降りて来るはずで決して暇ではないはずだ。
「おう!また会えたらいいな!」
アイラは笑って手を振る。するとアマンダは微笑んで彼女に駆け寄って抱きしめた。
アイラはうぇっ、と変な声をあげ気恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「なんだよ、悪いな迷惑かけちまったかな」
「ほんとね……店の外とか中で伸びてたりしたし。他の客と喧嘩もしたし」
「ああ!言うなって!」
クラウディの方を見ながら慌てて店主を引き剥がすアイラ。その表情はどこか嬉しそうでもあった。
「あなたも」
アマンダは側にいるクラウディにも抱擁をした。少女は突然の事で驚いたが、懐かしいものを感じ身を任せた。
「アイラをよろしくね」
「……ああ」
少しの間そのままに、彼女が離れると2人はもう一度宿の女店主に礼を言い、振り返らずにベルフルーシュの南門へと向かった。情報屋カイザックが待っているはずだ。
「あれなら残ってもよかったんだぞ」
向かいながら俯き鼻を啜るAランク冒険者に、クラウディは呟くように言った。
「ば、ばか言うなよ!冒険者なんだ。こういうのには慣れてるし!」
アイラは服の袖で顔を拭うと大股で歩き出した。
ベルフルーシュの街中は早朝にも相変わらず賭博やゲームで賑わっている。夜通し遊んで疲れたのか道端で寝転がるものや酒を片手に競技者を囃し立てる者など多く見られる。
今回もアイラは他者から暇つぶしにどうかと誘われていたがクラウディが睨んでいると流石に断った。
そして30分近く歩き、ようやく南門が見えてきた。荷物が重たくてアイラはともかく、クラウディの方が少しへばってきていた。アイラに途中何度も心配の声をかけられる少女。もうちょっと減らした方が良かったんじゃないかと。
しかし少女には少女の考えがあった。
────あいつは持ってるはず
南門に着くと地面にどっかりと荷物を下ろして休憩する2人。
カイザックは既に門の外側で待機しており、なんと屋根はないが荷馬車を用意していた。
馬が1匹と簡素な荷車が一つ。荷台には既にカイザックの荷物が載っていた。米俵くらいの大きさだ。
「お前ら、本当に冒険者か?」
大荷物を持ってきた2人をみてカイザックはため息をついた。
本来なら目的地に着くまで緻密に計算し、必要最低限のものを持っていくべきなのだ。でないとろくに進めないし食材に関してはすぐに腐ってしまう。そして結局捨てることになってしまうからだ。
それを彼が指摘するがアイラは首を傾げた。
「あ?荷車があんなら大丈夫だろ。礼を言うぜ?」
「何言ってる、無理に決まってるだろ?馬を潰す気か?」
やれやれと頭を抑えるカイザックは今度はクラウディの方を見た。
「お前も……もうちょっと賢いやつだと思ったんだが」
少女は言われてカイザックを指差した。その行動になんだ?と訝しむ。
「インベントリ、あるだろ?」




