第106話 マティアス①
「アーベル?確かここから南のダンジョンだったよな」
次の日クラウディとアイラはギルドに向かった。そろそろ先日の山賊一掃依頼の報酬が来てるだろう。
「ああ、そこの宝に興味があってな」
「へぇ~いいんじゃね?金にもなるし」
「アイラは行ったことあるのか?」
「ダンジョン潜ったことはあるけどアーベルはないかな。私が潜ったのはずっと東の方だし。攻略まではしなかったなぁ。飽きちゃったっていうか何というか。……いや別に今回のが嫌とかじゃないけど」
ギルドに到着し中に入った。冒険者は相変わらずたくさんおり少し順番待ちになりそうだった。アイラにはどこかで時間を潰してきてもいいと言うと笑顔になりササっとどこかへ消えて行った。
昨日よりは全然元気で調子が戻ってきたようでクラウディは安心した。
結局クラウディの番になるまで2時間くらいかかった。いつもの受け付け嬢のルルーシは休みらしく、小柄なナナンという女性が担当していた。
「どうも冒険者ギルドへ、今回はどう言ったご入用で?」
「この間の山賊一掃依頼の件の進捗具合はどうなってる?」
名前を聞かれて答えるとパラパラと名簿らしき本を開き、ああ、と声を上げて該当の依頼書に何か書き込むと少し待つよう言って奥の方へ消えた。
10分ほどして戻ってきて硬貨袋を手に、依頼書を見ながらカウンターに置いた。
「すげーなアンタ。何をやったらそんな貰えるんだ?」
金貨が入った袋を後ろから見ていたのか並ぶ冒険者の1人がクラウディに言った。
「山賊一掃依頼だ」
「え、まさかAランク級の奴がいるって誰も受けなかったやつか。やべー」
「おい、話しかけるのやめとけって!そいつあの『闘神アイラ』の連れだぜ?殺されるぞ」
「え」
クラウディは何か勘違いされてると思い誤解を解こうとしたが、周りがざわつきだした。誤解を解くのは無理そうだと思った少女は報酬の硬貨袋を掴むと足早に外に向かった。
「あ、ちょっとクローさん!まだ途中────行っちゃった。別件もあるのに」
受け付け嬢は別の袋をカウンターに出していたが出て行ってしまった冒険者に渡せずため息をついた。
「なんだ?これを渡せばいいのか?なんなら行って来るよ」
全身鎧の男がその様子を見ていてギルドの受付に申し出た。
「あ、ほんとですか?じゃあ頼みました。マティアスさん」
「はぁ……」
クラウディは路地裏でしゃがんで壁にもたれていた。変な噂が立ってしまっていてどうしたものかとため息をついた。
「君がクローかい?」
少女は人の気配は感じていたが、顔を上げると驚いて剣に手をかけた。角のない全身鎧の男はマティアスというあの試験官だった。殺気がないため油断していた。
「ああ!ちょっと待って待って!」
両手を上げて敵意のないことを彼は示し、誤解だと言った。
「誤解?」
訝しむ目を向けながらクラウディは少し距離を取った。この手の騙しはより一層敏感にならざるを得ない。
「あれは俺じゃないんだよ。偽物だったんだ」
「偽物……」
目の前にいる鎧男は確かに前会った時より声が違うように感じた。口調も違うので少女は確かにと剣から手を離した。それを見て安堵したようにマティアスは息を吐いた。
どういうことか理解できない少女は彼から説明を受ける。
あの試験当日、いつもより深く眠ってしまい遅れてギルドに行くとすでに試験は終わっていてマティアスと名乗る人物が終わらせていたとの事。よくよく聞くとギルドの他の職員も普段と違うマティアスに不信感があり試験を行ったマティアスは偽物と決定づけられて、内々に現在捜索中との事だった。
────確かに様子がおかしいようだったな
常識的に考えていきなり攻撃して来る試験管なんていないだろう。
「それで?まさかランク昇格の取り消しか?」
「いやいや、それはグレゴールさんが代わりに判断して決定した事だから大丈夫」
グレゴールと聞いて首を傾げる少女に、マティアスは応援に来てくれたゴツい人だと説明した。大楯を持った大きい人と補足されてクラウディは思い出した。
────ルルーシと一緒にいた大男か
「あの人もAランクだから────ああっとそうそう────」
マティアスは腰に下げた小さな袋から何か取り出して少女に差し出した。
クラウディが手のヒラを差し出すとそれをそっと置いた。光に反射して青く煌めく小さな雫の形をした宝石のようなものだった。
「これは?」
「なんかゲームの賞品だって聞いてるけど。街で参加した景品じゃないかな」
────あ……棒斬りのやつか
すっかり忘れていた事を思い出した。参加した棒斬りゲームで、そのまま1位だったらギルドに賞品を届けてくれる事になっていた。つまりあのまま記録は塗り替えられなかったようだ。
改めて賞品を見てみる。
特に何も感じない。ただ綺麗というだけな感じだった。贈り物やただの嗜好品ってところだろう。
クラウディは荷物にそれを突っ込むと立ち去ろうとした。
「あ。待ってよ!これも何かの縁だしどうかな?食事でも……て昼はだいぶ過ぎたしなにかつまむものでもどう?奢るよ」
少女は面倒臭くて断ったが彼はついて来た。
「こっちの方には……あ、そうだあの店があったね!」
マティアスは少女の側に来ると手を引いて夜の店方面へと連れて行った。




