第105話 男か女か②
「お、クローおかえりー。うえタバコ臭い」
アイラは帰ってきた同居者からカイザックのタバコ臭がして鼻を摘んだ。
少女はフラフラと部屋に入るとそのまま倒れる様にベッドに横になった。
「ありゃ酒も飲んだか、弱いんだなぁ」
すやすやと眠る少女から酒の匂いもし無理矢理飲まされたなと、次に会った時はカイザックをしばくことをアイラは心に決めた。
────触っても起きねーのかな
アイラは少女の仮面を外して端に置いた。軽く頬をつねると眉間に皺を寄せて手を跳ね除けた。
ダメかと、今度はワンチャンを賭けて服の上から胸を掴んだ。胸サポータが硬いが、少女は無反応だった。
それを確認するとアイラは上着を剥ぎ取った。シャツも脱がせて胸サポーターのボタンも外す。やはり痛み以外にはクラウディは反応がなく無抵抗だった。
「おぉ……えっろ」
広がる胸にアイラは顔を埋めた。柔らかくて暖かい。クラウディは首と手首しか香水は付けてないので本人の本来の雌の匂いにアイラは興奮した。
『同性愛者なのか?』
そんな質問がふと頭をよぎった。アイラは以前まで普通に男が好きだったがカイザックの件もあって不信気味であった。だが、目の前の他の雌に興奮している自分を客観的に見た。
────そうなのかもしれねー……
ただ、別の美人を見たりしても興奮はしない。完全な男言葉を使う少女だからだろうか、見た目とその裏側のギャップにどうしようもなく興奮してしまうのだ。
アイラは眠る雌の胸の膨らみを見て舌なめずりし、舌先を触れた。反応はなく、そのまま這わせると胸が大きく上下した。口内に僅かに塩味と雌の香りが広がる。
────ああ、だめだ。ごめんクロー
欲に抗えずアイラは膨らみを綺麗にする様に舐めまわした。
「ん……あ」
同居者から甘い吐息が漏れさらに興奮する。胸サポーターにギリギリ隠れているが上まで行くとどうなるのか、心臓が早鐘を打った。舌を徐々に移動させていく。その間も小さく喘ぐ声にアイラは既に我を忘れていた。
が、ふと喘ぎがしなくなり、顔を上げると少女と目が合った。
────あ、やべ
時が止まった様に全身が固まるアイラ。
────ど、どうしよ……いやいっそこのまま
力はアイラの方が上で相手はしかも酔っている。いっそ無理矢理犯してやろうかと頭をよぎった。
しかし少女は一瞬不快そうに眉間に皺を寄せただけで────『寒い』と呟き────布団を寄せるとくるまって再び眠った。
アイラは体勢を崩さずそのまま硬直していたが、徐々に冷めてくる熱にハッと我に返り頭を抱えた。
────や、やっちまったぁ
顔面から血の気が引き、少女に記憶が飛んでてくれと願うように手を合わせた。
────でも美味かったなぁ……
思い出される少女の胸の味に欲が再び湧き上がって来るのを感じた。
アイラはダメだ!と自分に言い聞かせるように顔面を何度も叩く。少女の服を戻しながらもそれを繰り返した。
その夜はアイラは眠れず顔を叩きながら朝を迎えた。
「お前、大丈夫か?」
クラウディは日が昇ると目が覚めた。少し頭が痛かったがベッドから起き上がると部屋の隅にアイラが膝を抱いて座っていた。
目元にクマが出来ており顔面が腫れている。
────喧嘩でもしたのか?
「大丈夫って何が?」
「いや顔酷いことになってる」
「ああ、気にしないでくれ、大丈夫」
アイラは腫れた顔でニグッと笑いその場にゴロンと横になった。
クラウディはポーションを取り出して飲ませ、そのまま彼女をベッドに運ぶとすぐにいびきをかいて眠ってしまった。
何があったのかはわからないが今日は昨日の件で軽度の頭痛があり宿で大人しくしようと決めた。
「そう言えば変な夢を見てな」
「?!え、ど、どんな?」
夜、食事中にクラウディが言うとアイラは何故かビクついた。珍しく黙ったまま何も言わないので雑談でもしようと思っての発言だった。
────今朝のことを聞いても何でもないの一点張りだしな
「なんかアイラが出てきた気がするんだが……あー……あ~……なんだったかな」
「ゆ、夢ってそう言うもんだし。無理に思い出そうとしなくてもいいんじゃねーか?」
笑顔のつもりなのだろうが、彼女の顔は心なしか引き攣っている。クラウディは話が面白くないよなと少し落胆した。人と話すのが苦手なのでどう話したら良いかわからない。
────業務的なものだったりは大丈夫なのたが
カイザックが居ればもう少しマシなんだがと頭を掻いた。少なくとも3人いれば2人が話して自分は話さなくても気が楽だった。
少女は仕方なくカイザックの件について話そうと口を開いた。本当なら多少雑談してその流れで話せれば説得がしやすいが他に話すことがない。
「カイザックなんだがな」
「え、ああどうだった?」
────ん?
「今後一緒に旅することになった」
「……まあいいんじゃねーか?」
────あれ?
てっきり猛反対するかと思ったがあっさりとアイラは受け入れた。
────いや待てもしかして
「アイラも一緒に来て欲しいんだ」
「そりゃもちろん!」
もしかしてパーティを抜けるかもしれないと不安に思っていたクラウディはそれを聞いて安堵した。
しかし何故あれほど毛嫌いしていた相手を急に認めたのか少女には理解できなかった。
────今朝の件、まさか……?
ボコボコになった顔は今は綺麗になっているが、アイラはカイザックの元に行ったのではないか?
一緒に来るなと。そして何かしらのゲームに負けて『認める』という形になったのではないか?
そう思うと心配をかけさせまいと何も話さないアイラに合点がいった。
「アイラ」
「ん~?」
「感謝する」




