第103話 模倣スライム
「クロー……う~ん……いい匂~い」
クラウディは結局酒で潰れてしまったアイラを背負って宿に向かっていた。外はもう夕方で暗くなり始めていた。もっとも街は夜も煌々と明るく騒がしかったが。
宿に入ると店主のアマンダが気づいてあらあらと微笑んだ。
「楽しそうね」
「……そう見えるか」
あとで水と食事を持ってきてくれるらしくクラウディはそのまま2階に上がって部屋に戻った。
泥酔冒険者をベッドに横たえ布団をかけた。
風呂に入り着替えを済ませた頃にドアをノックする音が聞こえ、アマンダが食事と水を持ってきてくれた。
いびきをかいて寝るアイラをみてクスクスと笑う。
「子供みたい」
彼女は頑張ってねと言葉を残して仕事に戻っていった。
アイラは起きないので少女は1人で夕食を摂った。
煮込んだ野菜にチーズで蓋をして焼いたものとパンだ。味はグラタンやシチューといった風味に似ている。
パンにつけて食べるとまた美味しさが引き立った。
食べ終えて片付けようとした時床に食べこぼしをしてるのが目に入った。
────こぼしてしまったか……
もったいないが捨てようとした時、ふと簡単に掃除出来ることを思い出してインベントリから上下銀縁のガラスの筒を取り出した。
アイラは多分起きないだろうと一瞥し蓋を開けた。
『プリムスライム』を床に落とすと変わらず蠢いていた。
食べこぼしを食べるように命令し処分してもらう。
────そういえば換金処の時に素材食わせたが……
『魂喰らい』のコアを取り込ませたことを思い出して改めて蠢くスライムを見たが特に変化はない。
試しに元男の時の姿を模すよう指示すると徐々に伸びて元男の姿に変化した。ただ全体的にぼやけており顔の判別は出来ないし色も緑のままだった。
────特に変化なしか
素材を無駄にしただけだったかと思ったが、ふと少女の姿を模すように命令してみた。
先程と同じように変化して模している。ただイメージが鮮明なおかげか細部まではっきりとわかった。
────もしかして
クラウディは手鏡を取り出して、自分の姿を再確認してイメージし、色や感触を頭に思い浮かべた。そして命令する。
するとスライムは徐々に彩り始め、色の付いた人間の姿へと変わった。服も再現できている。
「お、おお……」
少女は客観的に見る自分の姿に感嘆の声を上げた。目は瞳孔が開いていておおよそ死人に見えるがほぼ完璧といっていい。
クラウディは震える手でスライムに触れた。きちんと触った感じも本物みたいで、顔に触れると冷たいが柔らかく、服もザラザラとした感触を再現している。
少女は好奇心でどこまで模しているのかと上着を1枚1枚剥ぎ取ってみようと、まず旅人の服の1番上の着物のような上着、これを脱がした。
特に問題なく剥げたが、スライムの体から完全に離れて床に落ちると緑の粘液へと戻り足元から吸収された。
────なるほど
上着の下は白い長袖のシャツで、それを脱がすと胸のサポーターとなる。
少女が胸サポーターのボタンを取るとサポーターが弾けるように開いた。色白の胸があらわになる。
「なんか……」
────デカくないか?
クラウディは色んな角度から見ながら自分の記憶にある胸との差異に困惑したが、実際に比べると本物の方が少し大きいことに落胆した。
女性の身体を不便にイメージするあまり小さく見せていたのだ。
気を取り直し今度は手で胸を鷲掴んでみた。感触は、弾力があるが柔らかく、かなり再現度は高い。揉み心地が良く少しの間触っていたが、ふと客観的にみて自分が何をしているのか想像してしまい顔が熱くなるのを感じた。
「う……ん……クロー?」
「?!」
────や、やばい!
クラウディはアイラの寝ぼけた声を聞いて辺りを見渡しどうしようかと慌てた。
半裸のスライム少女を放ってはいれないし、かと言ってこのままバレると変態扱いになること請け合いだ。
────ど、どうする!?
「ん?どした?」
アイラは目を擦って欠伸すると、後ろに手を回して見ている直立不動の仲間を見て首を傾げた。
「いや、別に」
クラウディは冷や汗をかいていたが仮面を被っていて良かったと安堵した。
「あれ、もうメシ食ったの?」
立ち上がってテーブルの側に来ると声を上げるアイラ。
「あぁ、そういやアマンダが後で飯をとりにきて良いって。この時間ならまだ出してくれるだろ」
「まじ?アマンダさまさま!ちょっと行ってくるわ!」
宿の食事は無料だが、遅くなり過ぎると出してくれないのだ。
会話の中で機転を効かしてそういうとアイラはドアから早足で出ていった。
「………………はぁ」
クラウディは安堵の息を吐いて椅子に座った。服をはだけさせて直に肌に纏わりつくスライムを触った。
────う、気持ち悪い
少女はスライムを変化させて手首の袖口から中に入れて隠していた。
スライムに命令してまとまってもらい容器に戻し、インベントリに入れた。
一安心したところでアイラが戻ってきて目の前に座った。手には先程と同じ夕食がのったプレートを持っている。
彼女は特に何も気づいてないようで夕食を頬張り出した。
────気をつけないとな
スライムの扱いをどうするか悩んでいたが、今回のことで訓練や色んなことに使えそうだと分かり本を読むふりをしながらその日はずっと考えていた。




