第101話 魔鋼製の大斧
クラウディは目が覚めて、起き上がると乱れた髪をガシガシとかいた。
「ぷは~」
アイラはカイザックの真似なのかタバコをふかす動作をしている。
「なんかヤッた後みたいだな~」
ケラケラとアイラは笑った。少女は冗談でもやめてくれと思いながら外を眺めた。日は登ったばかりでまだ低い位置にある。相変わらず街は賑やかで騒がしい声が頭に響いた。
クラウディはアイラに食事を摂ってくることを伝えて下に降りようとした。
「クロー!服と仮面!」
言われてああそうだったと少女は乱れた髪と服を整えると仮面をつけた。
1階に降りると宿の店主が気づいて手を振った。若く背の高い女店主で名前はアマンダという。
2人分の朝食を取りに来た旨を伝えると別の店員に声かけて用意してくれた。
「なんか依頼やって来たの?」
食事を受け取る際にアマンダはクラウディに聞いた。ここ数日開けていたので気になったのだろう。アイラは数少ないAランク冒険者だ。ベルフルーシュでも3人程しかいないらしい。
「山賊一掃依頼をちょっとな……」
「ええ?!ちょっとじゃなくない?あなたもやっぱり強いのね」
「さあ、どうだろうな」
アマンダの感心した声に肩をすくめた。山賊一掃出来たのはアイラの功績が大きいだろう。Aランク級山賊だったみたいで対峙したのが少女であればもっと苦戦していたはずた。
「あの子をお願いね、クロー……さん、だっけ?」
「友人なのか?」
「そうじゃないけど、噂とか色々耳に入って来てたし。でも最近のあの子は大人しくなってるから上手くいってるんだなって。もうここに泊まって何ヶ月かな。あの飲んだくれがキチンと依頼こなすのがね嬉しくて」
「なるほど」
────こいつも過保護なんだな
クラウディはアイラも大事にされているのかと思いながら頷くと部屋に戻った。
部屋に入るとちょうどアイラと目が合う。が、彼女は酒を1瓶飲み干したところだった。
────飲んだくれめ……
午後からはアイラが斧を探すために武器屋へ寄った。酒をまだ飲み足りないようだったが取り上げて後にするよう言い聞かせた。
武器屋は広く外にまで武具が置いてあった。大きな壺には古いものから最近の物まで無造作に入れてあるようだ。その中には斧はない。
中に入るとターバンみたいなものを頭に巻いている、髭面の背の小さい男性が手を揉みながら出て来た。
「いらっしゃいませ!『ウエポンズ』へようこそ!今日はどういった御入用で?」
「斧が欲しいんだ。安っすいやつでいい」
アイラが言うと武器屋はなるほどと頷き、2人を斧が置いてあるショーケースまで案内した。
斧は壁にかかっているのがほとんどで、安物は床の大きな箱に置かれていた。
アイラは壁にかかっている武器には目をくれず床に置いてある大斧を手に取った。試し斬りがしたいと店主に言い、奥にあるらしい試し斬り場へ行った。クラウディはその場に残り斧を眺めた。
どの武器もそうだが、『青銅』『鉄』『鋼』『ダマスカス』『魔鋼』『ミスリル』の順に材質が良くなり値段も高くなっている。
ミスリルになると最低でも2桁の金額である。逆に青銅なら500~3000と手頃な価格だ。
元男は鉱石の質なんてよく分からないがとりあえず鋼辺りが良いのではないかと鋼製の大斧を手に取った。
────重っ!
15kgはあるだろうその大斧は片手で持ち上げられるもののとても振り回せるものではなかった。
クラウディは落としてしまう前に慌てて元の位置に戻した。
アイラの使う『ライアク』は一回り大きいので2、30キロはあるだろう。戦士故なのかアイラだからなのかわからないが、あれを軽々と振り回せるのはすごいという言葉に尽きる。
「ちょっとアイラさん困りますよ────」
「悪りぃ悪りぃ……つい力んじまって」
2人が奥から戻って来たが、アイラはバツが悪そうに苦笑いし、店主の手には壊れた斧が握られていた。
「弁償すっから……あーどうすっかなぁ。鉄じゃあやっぱりぶっ壊れるよなぁ」
どうやら誤って破壊してしまい、1万ユーンの弁償となるらしい。鉄製ではAランク冒険者の力には耐えられないということだ。
「鋼は?」
クラウディが置いてある鋼の大斧を指差した。値段は鉄の倍はする。アイラは値札を見て唸った。この間渡した金や今回の報酬が出るのでその旨を伝えるがはにかんだ。
余裕で買えるはずだが、なんならその上の『魔鋼』まで買えるだろう。
「いや、酒とか美味いやつをさ……遊びたいし」
Aランク冒険者はどうやら持っている金を、武器を節約してまで娯楽に回したいようだった。
金を管理した方が良いだろうかと少女は思った。武器の喪失は戦闘中に置いてもっとも危ないことだ。それを金がある今、出し惜しむなんて考えられなかった。
クラウディは壁にかけてある『魔鋼』製の大斧を指差した。
「アレを購入する、用意してくれ。あと手斧もいくらか」
そういうと武器を失って肩を落としていた店主が背筋を伸ばし、かしこまりましたと斧を準備し出した。
アイラは言葉も出ないのか呆然としている。
『魔鋼』製の大斧────店主は『マギルアックス』と呼んでいた────をなんとか抱えるとカウンターに持っていき、クラウディは会計を済ませた。
「いやはや旦那!どうかご贔屓に!」
少女は大斧を担ぐと固まっているアイラの手を引き外に出た。
マギルアックスは先程持った鋼製の大斧より軽く10kgもないのではないだろうか。少女は軽く振ってみたが動きがかなり遅くやはり扱えそうもない。
「ほら」
クラウディは斧をアイラに差し出した。
「え、いや無理無理!受け取れねぇって!」
「俺には扱えない。やる」
「お、おお?」
半ば無理やり斧をアイラに押し付けると困惑したように受け取った。躊躇ってしばらく見つめていたがやがて軽々と振り回し、ドンと柄で地面をついた。
「いいのか?だって……ええと16万か?」
────壊した斧含めてな
クラウディは心の中でツッコミ、頷いた。
「さ、サンキュー!大事にするからな!」
アイラも属性武器を持っているのでそこまで喜ぶ事なのだろうかと首を傾げるが、取り敢えず当面は困ることはないだろう。
少女は購入した手斧もアイラへ渡した。彼女の山賊との交戦の話を聞いてスキル『投擲』に使えるだろうと思ってのことだった。
アイラはまた喜び抱きつくが少女は嫌がってすぐに離れてもらった。




