第100話 宿に帰って
次の日────
「もし近くに寄ることがあればまたいらしてください。ギルドからの依頼だったとしても、私たちはあなた方に感謝しております故、いらした時は歓迎します」
一行は昼飯を頂いた後、村中総出で見送られ村を出た。
カイザックは村娘たちに囲われ、求愛を受けていたが丁重に断っていた。
「あいつ、絶対村娘に手を出したぜ」
アイラは街道を進むクラウディの側に来ると耳打ちした。
そんな暇があったかと少女は首を傾げた。村に帰ったあとはほとんど一緒に行動していたのだ。
────余裕ないような……あ
そういえば昨晩クラウディに早く寝るよう言っていた事を思い出し、確かにありえるなと頷いた。
「まあ、そういう気があるのが理解した上で連れてきたから……仕方ない」
「は?ダメだろ……クローさそんなこと言ってたら真っ先に喰われるぜ?ゲス男に」
それはないだろとクラウディはカイザックを見た。あのあと眠っていれば充分睡眠時間は確保できたはずだが、仕切りに欠伸をしている。
アイラはクラウディの肩を掴んで引き寄せ腕を回した。
「クローの顔とか身体つきはカイザックにどストライクだよ多分」
「え」
「だから絶対バレねーようにな」
「そんな────あぁいや、気をつける」
そんなことないだろうと言おうとしたが、そんな考えで以前痛い目を見たなと、クラウディはカイザックには聞こえないよう小声で返事した。
「なんだ?コソコソと……また俺の悪口か?」
2人の様子を見ていたカイザックはタバコを口に咥えた。
「テメー村娘に手を出しただろ?」
クラウディは聞かなくてもいい事を言うアイラの発言に驚き、やめろと腕を引いた。
「だからなんだ?俺の行動にはケチつけない約束だが?」
カイザックはタバコをふかし平然と答える。どうやら本当に村娘を漁っていたらしい。
「それはクローだろ?私はケチをつける」
「アイラ、俺らには迷惑かかってないだろ」
「いいや気持ち悪くさせてるだろ、言っとかないとこいつ見境なくヤるぜ?」
お前も人のこと言えるのかとクラウディの喉元まで言葉が出かかったがなんとか飲み込んだ。
少女はいがみ合う2人を仲裁しようと何とか話題を別のものに持っていき、山賊について語り出すアイラをみて────カイザックは興味なさそうに風景をみていた────やれやれと安堵した。
ベルフルーシュへ到着したのは2日経った朝だった。ちょうど検問が始まる所でカイザックとは彼のテントで一旦別れた。
美女たちが出迎えてカイザックと共にテントへと消える。
クラウディたちも検問へと並び小一時間かけて中に戻った。
ギルドの方へ報告し、女山賊の壊れた肉切り包丁を提出するとすぐに確認に向かってくれるとのことで数日内には報酬を受け取れるらしい。
「無事な帰還に感謝を」
ギルドの受け付け嬢は驚いていたが、無事であったことに安堵しているようだった。
それからクラウディとアイラは宿に戻って荷物を整理し、お互い話して数日は休むようにした。
「風呂入ろうぜ?」
食事の前に、アイラは身体が気持ち悪いと服を脱ぎ出した。
「断る。先に入れ」
「え~」
確かにすぐに入りたかったが、アイラには前科があるのでクラウディは当然断った。一緒に入る必要はない。
少女は椅子に座って本を読み出した。その姿を見てアイラも観念したのか1人で風呂へと入る。
アイラが入った後はクラウディも湯を浴び、2人は宿の食事を摂った。骨付き肉とスープにパンだ。
「クロー、またあの卵焼き作ってくれよ」
歯に挟まった肉を尖った骨で取りながらアイラは言った。
「『オムレツ』か。また今度な」
「おむれつ……へへ、頼んだぜ」
────そんなに美味かったのか?
その後は各々武器の手入れをしたり時折軽く話した。明日は武器屋に行きたいとアイラが言った。Aランク山賊との戦いで壊れてしまったらしい。
「よし、寝ようぜクロー」
「先に寝てろ」
まだ本が読みたくてクラウディはページをめくった。が、本の向こう側にアイラが来てじっと見つめる。
「……」
「……」
「……なんだ?」
彼女は後ろに回ったかと思えばひょいと少女を抱えた。少女は驚いて本を落としてしまう。
「おい!」
抗議するように身体を捻ったがAランク冒険者の力は強く軽々とベッドに下ろされた。
ジロリとアイラを睨むが、彼女は肩を落として涙ぐんだ。
「私のこと嫌いか?」
「え、いや……嫌いじゃ、ないが」
「いいだろ一緒に寝るくらい、他の女子はみんなこんな感じだぜ?」
「そうなのか?」
この世界のその辺の事情についてあまり知らない元男はしょんぼりしたアイラを見て肩をすくめた。
────逸脱した考えも良くはないか
「わかった、だが触るなよ」
「仮面も取って欲しい~……私たち仲間だろ~?」
クラウディは2人きりでも、癖で仮面をしたまま過ごしていた。
『あんたは今、私の前で仮面を被ってる!』
一瞬そんな言葉が頭に響いた。元男の古い記憶だ。いつもはそいつの前では仮面を取っていたが、ある時意図せず裏切ってしまい言われた言葉だ。
仮面を被るのは後ろめたいことや、何かを隠そうとする意思表示でもある。そんな行動がその人物を傷つけてしまったのだ。
浮かんだ記憶はすぐに少女の頭から消えていった。
────そうだな……仲間か
クラウディは仮面を取りベッドの端に置いた。アイラは信頼できる仲間と言っていいのかまだ分からなかったが、少しは信用してもいいのだろう。
いつまでも神経を尖らせる必要はないのかもしれない。
「これでいいか?もう寝る」
「おう!」
2人はクラウディを窓際にして並んで横になった。
「……おい」
じわじわと近づいて来てアイラはクラウディに抱きついた。少女は腹を触る腕を掴んで引き剥がそうとした。
「ダメなのか?女子はこういうもんなのに?」
涙ぐむ声色にクラウディはため息をついて手を離した。
「へへ、馬鹿だなぁクロー」
アイラは腕が自由になるとクラウディの身体を仰向けにさせて馬乗りになった。腕を掴んで動けないよう押し付ける。
「ちょっと弱く見せたら油断するとこ、隙ありだぜ」
「……」
「どうすんだ?これがカイザックだったらさ~こうやって────」
「っ?!」
アイラは顔で胸の服をはだけさせると、胸サポーターの結んである紐を歯で噛んで引っ張り解いた。クラウディの胸が広がり露わになる。
抵抗しようにも戦士であるアイラの力は強くびくともしない。
「どうすんだ?このまま犯されちまうぜ?」
アイラは舌なめずりし首元に顔を埋めた。
「ちょ、やめろ!」
「安心しろって、あくまでテストだから。おほー良い匂い~」
────て、テスト?耐えればいいのか?
安心しろと言われても首を這う人肌に身体が震える少女。声を我慢し必死に耐える。
「クローさ、もう少し抵抗しないと本当ならとっくにヤられてるぜ」
少ししてアイラが困惑した表情でクラウディを離した。
「はぁ……抵抗って……はぁ……どうやって」
「大声上げるとか、足は使えるんだし金的蹴るとか、魔法使うとか────まあ金的はあんま意味ないか」
刺激に頭が混乱していたクラウディには仲間であるアイラにそこまでするという考えが浮かばなかった。『テスト』などと言われて尚更わけがわからなくなっていた。
「あ、アイラは……その、同性愛者……なのか?」
「……ぷは!そんなわけ────」
アイラは突然言われて笑い飛ばそうとしたが、身を守るように身体を丸めて小さくなっている少女を見てゴクリと生唾を飲んだ。はだけた服装に欲がそそられる。
「────ないこともないかもしれねぇな」
「俺は別の場所で寝る」
「わぁー冗談冗談!!」
アイラが縋り付くが流石に無理だと断るものの絶対に手を出さないと言う事で2人は川の字になってベッドに横になった。
あれほど言ったのに抱きついてくるアイラにイラついたが、それ以上はしないようで諦めて抱き枕のようにされながらクラウディは眠った。




