第5話 盗賊襲来、立ちはだかる者
村の朝は、普段と変わらぬ静けさに包まれていた。しかし、その空気には重く張り詰めた緊張感があった。
今日は、盗賊たちが食料を奪いに来る日だ。
村人たちはすでに慣れた様子で、米や干し肉、野菜などを入れた袋を準備し、村の中央に集まっていた。顔には諦めの色が浮かんでいる。
「今日も大人しく差し出して、無事に済ませよう……」
「下手に逆らえば、何をされるか分からん」
誰もが盗賊を恐れ、抵抗する気などなかった。
そんな中、ただ一人、弓を携えた青年リリだけが険しい表情を浮かべ、じっと村の入口を睨みつけていた。
「……もう、こんなのはごめんだ」
リリは拳を握りしめる。彼は以前から、この現状を何とかしたいと考えていた。しかし、他の村人たちは皆、盗賊を恐れ、逆らおうとしなかった。
そんな時、ソウスケがふと彼に声をかけた。
「お前は、戦うつもりか?」
「……あんたには関係ないことだ」
リリは冷たく言い放つ。
「これは、この村の問題だ。俺たちがどうにかしなきゃならない。でも、誰も動こうとしない……だから俺がやる」
「ほう……」
ソウスケは興味深そうにリリを見つめた。
カエデとモミジも不安げな表情を浮かべる。
「リリさん……大丈夫でしょうか?」
カエデが心配そうに問いかけると、リリは自信ありげに笑った。
「大丈夫さ。俺が、君たちを守る」
カエデとモミジは複雑な表情を浮かべながらも、それ以上何も言えなかった。
その時だった。
村の入り口に砂煙が上がり、数頭の馬が姿を現した。
「来た……!」
村人たちは一斉に身を縮め、食料の入った袋を抱えて震え始める。
盗賊たちは馬に乗ったまま村の中央へと進み、先頭に立つ大柄な男――バドーが馬上から村人たちを見下ろしながらにやりと笑った。
「よぉ、お前ら。今日もいい子にしてたか?」
バドーの声に、村人たちは怯えながらも、準備した食料を差し出そうとする。
「ど、どうぞ……これで勘弁してください……」
「はいはい、ご苦労さん。やっぱり、お前らみたいな弱っちい連中は黙って従ってりゃいいんだよ」
バドーは袋を覗き込みながら、満足げに頷いた。
しかし、そこに一人、食料を差し出さずに立ちはだかる者がいた。
リリだった。
「もう……お前たちの言いなりにはならない!」
その言葉に、村人たちは一斉にリリを見た。
「リリ、やめろ!」
「逆らったら、村が滅ぼされるぞ!」
誰もが恐怖に駆られ、リリを止めようとする。しかし、彼は構わず弓を構えた。
「おいおい、本気かよ?」
バドーは呆れたように笑う。
「いいぜ……なら、試してやるよ」
バドーが手を上げると、部下の一人が馬から飛び降り、リリの前に立つ。
「ほう、弓か。そんなもんで、俺に勝てると思ってんのか?」
リリは答えず、矢を番えた。
(……俺は、この村を守る!)
決意を込めて矢を引き絞ると、リリは一気に放った。
矢は一直線に男へと向かう――しかし。
「遅ぇよ」
男はあっさりと矢を避け、そのままリリの懐に踏み込む。
「なっ……!」
次の瞬間、鈍い衝撃音とともにリリの体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
村人たちは息を飲む。
「おいおい、これで終わりかよ。口ほどにもねぇな」
男はリリの胸ぐらを掴み、持ち上げる。
「がっ……」
リリは抵抗しようとするが、相手の力には全く敵わない。
「くそっ……俺は……こんなところで……!」
「やれやれ……見ていられないな」
その声と同時に、リリを捕らえていた男の腕が何かに弾かれたように吹き飛んだ。
「な、なんだ……!?」
驚く盗賊たちの前に、黒衣の男が立っていた。
ソウスケだった。
「お前……誰だ?」
バドーが目を細める。
ソウスケはゆっくりと腰を落とし、手にしていたものを構えた。
それは――ただの木の枝だった。
「……そんなんで戦うつもりか?」
盗賊たちは馬鹿にしたように笑う。しかし、ソウスケの目は鋭く、まるで獲物を狙う猛禽のように静かに燃えていた。
「十分だろ」
その言葉とともに、ソウスケは地を蹴り、木の枝を握ったまま盗賊の前へと瞬時に間合いを詰めた。
「なっ――!」
木の枝が風を切り、盗賊の頬をかすめた。
その瞬間、空気が変わる。
「……この男、ただ者じゃない!」
盗賊たちの間に緊張が走る。
「さて……少し痛い目を見てもらおうか」
冷静な口調とは裏腹に、彼の目には戦いへの高揚が宿っていた。