第4話 剣と魔法の特訓、そして訪れる反発
村の広場に朝日が差し込み、静寂を切り裂くように鳥のさえずりが響く。
昨夜のうちにソウスケは決めていた。
「盗賊が襲ってくるまでに、カエデとモミジを鍛えられるだけ鍛える」
限られた時間の中で、戦う術を叩き込む。それが今、ソウスケにできる最善の選択だった。
「モミジ、お前は剣の素質がある。昨日の基礎を思い出しながら、さらに鍛えていくぞ」
「はい!」
モミジは真剣な眼差しで頷き、腰に帯びた剣を抜いた。
「カエデ、お前は魔法の才能がある。ただし、お前の弱点は精神面だ。どんな状況でも落ち着いて魔法を使えるようにする」
「……が、頑張ります!」
カエデは不安そうにしながらも、決意を込めて返事をした。
まずはモミジの剣術指導から始まる。
「構えを取れ」
モミジは足を開き、剣を構えた。昨日よりも動きがスムーズになっている。
「いいぞ。そのまま、俺を攻撃してこい」
「行きます!」
モミジは鋭い踏み込みと共に剣を振り下ろす。
キンッ!
ソウスケは片手で受け流し、モミジの姿勢を見て指摘する。
「今の攻撃、勢いは悪くないが、振り切る瞬間に腕が流れている。体の軸を意識しろ」
「……はい!」
モミジは息を整え、もう一度構え直す。その目は真剣だった。
⸻
次にカエデの魔法訓練に移る。
「魔法はイメージが大事、でしたよね?」
「そうだ。魔力を手に集中させ、それを具現化させる……」
カエデは深呼吸し、両手を前に出した。手のひらの上に、小さな火球がぽっと生まれる。
「おお……」
ソウスケは感心した。
「じゃ、じゃあ、次はソウスケさんもやってみますか?」
「俺も?」
「はい。ソウスケさん、魔力はあるんです。だから、少しずつコントロールできるようになれば……」
ソウスケはカエデの言葉に頷き、手を前に出す。目を閉じ、自身の内にある魔力を探る。
(……確かに、流れる何かを感じるな)
ゆっくりと魔力を集中させると、かすかに指先に熱を感じた。
「っ……」
しかし、魔力の流れが途切れ、火球は生まれなかった。
「惜しいです! もうちょっと……!」
カエデは興奮した様子でソウスケを励ます。
(魔法か……少しずつ学ぶ必要がありそうだな)
⸻
そんな特訓を続けるソウスケたちに、周囲の村人たちが冷たい視線を送っていた。
「盗賊がすぐそこまで来てるってのに、何を遊んでるのかしら……」
「剣を振るってる場合じゃないだろうに」
村のあちこちから、そんな呟きが聞こえてくる。
そして、その声を押しのけるように、一人の青年が近づいてきた。
「おい、ちょっと待て!」
ソウスケたちが振り向くと、そこには弓を背負った青年が立っていた。赤茶色の髪を持つ細身の男——リリだった。
「……あんたが、昨日来たよそ者か?」
リリは鋭い目でソウスケを睨みつけた。
「ああ、そうだが」
「カエデとモミジに何をさせてるんだ? こんな状況で剣の稽古? 魔法の訓練? 冗談だろ」
「状況だからこそ、戦えるようにする必要がある」
ソウスケが静かに答えると、リリは鼻で笑った。
「バカバカしいな。俺はこの村でずっと暮らしてきた。カエデとモミジは俺が守る!」
「……ほう」
ソウスケは興味深そうにリリを見た。
「それに、盗賊が来ても俺が全部倒してやるよ。弓の腕前には自信があるんでね」
自信満々に言い放つリリ。しかし、カエデとモミジの表情はどこか曇っていた。
「リリさん……」
モミジが口を開きかけたが、リリは制するように言う。
「いいか? 俺たちはただの村人だ。戦いなんてするべきじゃないんだ。だからお前たちは俺に任せて、隠れていればいい」
「……」
カエデは唇を噛み締めた。
「リリさんは優しいんです。私たちのことを、本当に大切に思ってくれていて……」
「でも……だからこそ、怖いんです。優しさだけじゃ、盗賊には勝てません」
モミジも不安そうに呟く。
(なるほど……こいつは、気持ちだけは立派な男のようだが……)
ソウスケはそんなやり取りを黙って見つめ、やがてゆっくりと言葉を発した。
「……まあいい。お前がどこまでできるかは、実際に盗賊が来てみれば分かるだろう」
その言葉に、リリはムッとした顔をする。
「見てろよ……俺は本当にやれるんだからな!」
そう言い残し、リリはどこかへ行ってしまった。
「これ以上村の人たちを傷つけさせない…絶対に…」
リリはその気持ちを胸にしまい盗賊が来るのを待ってた