第3話 剣と魔法の修行
「俺が……剣を?」
モミジの提案に、ソウスケは思わず聞き返した。
「ええ、お願いします! 盗賊の襲撃に備えて、私も戦えるようになりたいんです!」
モミジは真剣な目でソウスケを見つめている。カエデもまた、少し不安そうな表情で立っていた。
「……それで、カエデは?」
「私は……ソウスケさんに魔法を教えます。剣と魔法、両方を使えたほうがいいと思いますから」
なるほど、とソウスケは納得した。
「時間はないが、やれるだけのことはやろう」
こうして、ソウスケの指導のもと、二人との訓練が始まった。
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まずはモミジとの剣の訓練だ。
「じゃあ、まず剣を持ってみろ」
モミジは腰に差していた剣を抜き、構えた。しかし、その姿勢は不安定で、力みすぎている。
「ふむ……その構えだと、すぐに隙ができる。足を肩幅に開いて、膝を少し曲げろ」
「こ、こうですか?」
「そうだ。そして、剣を持つ手に力を入れすぎるな。剣は腕で振るものじゃない。全身を使って振るんだ」
「えっ、でも……」
「試しに、俺が攻撃するから受けてみろ」
ソウスケは木の枝を拾い、それを剣に見立ててモミジに向かって斬りかかる。モミジは驚きながらも剣を振るった。しかし、力任せの動きでは受け止めきれず、彼女の剣は弾かれてしまった。
「うっ……!」
「力だけじゃ剣は扱えない。バランスが重要だ。動きに無駄が多いと、すぐに体力を消耗するぞ」
「む、難しい……」
「焦るな。基礎をしっかり身につければ、あとは慣れだ」
それからソウスケは、モミジに基本の動きを徹底的に教え込んだ。斬る、受ける、回避する。最初はぎこちなかったモミジも、次第に動きが滑らかになっていく。
「よし、その調子だ」
モミジは額の汗を拭いながら、息を切らせていた。それでも、彼女の目には強い意志が宿っている。
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次に、カエデから魔法の基本を学ぶことになった。
「まず、ソウスケさんは魔力の存在を感じられますか?」
「……いや、よくわからないな」
「魔力は、体の内側に流れるエネルギーのようなものです。剣でいうところの『呼吸』や『体捌き』と同じで、意識すれば感じられるはずです」
カエデはそう言いながら、手のひらに小さな炎を灯した。
「こうして、自分の魔力を流して……形を作るんです」
「ふむ……」
ソウスケは目を閉じ、自分の内側に意識を向けた。すると、体の奥底に、微かに流れる何かを感じた。
「……これか」
「感じましたか?」
「ああ、確かに……剣を握る時の感覚に似ているな」
「え? それは……普通の人とは少し違うかもしれませんね。剣の気配を察知するように、魔力を感じ取ることができるなんて……」
カエデは驚いた表情を浮かべた。
「じゃあ、次はその魔力を外に出してみてください」
「……やってみる」
ソウスケはゆっくりと手のひらに魔力を集中させた。剣を振るう時のように、体の内側から力を引き出し、手のひらに集める――。
「……!」
彼の手のひらに、小さな火花が散った。
「すごい……! 初めてなのに、もう魔力を外に出せるなんて!」
カエデは目を見開いた。
「なるほど……剣と同じで、コツさえ掴めば扱えるようになるな」
「ええ。でも、これをちゃんとした魔法にするには、詠唱や術式の理解も必要です」
「詠唱か……」
「短い詠唱でも、魔法の精度が上がります。例えば、この炎の魔法なら――」
カエデが手をかざし、静かに呟いた。
「《火の精霊よ、我が手に灯れ》」
すると、彼女の手のひらに小さな火球が生まれ、ふわりと浮かんだ。
「言葉にすることで、魔力の流れを整えやすくなるんです」
「ふむ……では、試してみるか」
ソウスケはカエデの真似をして呟いた。
「《炎よ、灯れ》」
瞬間、彼の手のひらに再び火花が散る――が、すぐに消えてしまった。
「……なかなか難しいな」
「焦らなくて大丈夫です。魔法は習得するのに時間がかかるものですから」
カエデは優しく微笑んだ。
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訓練が終わる頃には、夕日が空を染めていた。
「今日だけでも、かなりいい感じでしたよ!」
モミジは剣を握りながら、嬉しそうに言った。
「ソウスケさんも魔法の素質はあるみたいですね」
カエデもまた、満足げに微笑む。
ソウスケは空を見上げ、拳を握った。
「……まずは、明日の戦いに備えるか」
盗賊との戦いは、もうすぐそこまで迫っていた。