穏やかな森の町 4
クリスの言葉を聞いた彼女の母がかなり心配そうな表情になって、彼女を叱る。気リスも母親の言うことをしっかりと聞いているようだが、ここで叱られたことがどれだけ長い時間約束できるのかはわからない。おそらく、明日になれば、気を付けこそすれど、また森の中に入っていくだろうと、彼は考えていた。そして、クリスを叱り終わると彼の方に向きなおる。その時にはクリスは少ししょんぼりとした様子で反省しているようではあった。
「すみません。お見苦しいところを。娘を足すkて下さってありがとうございました。何かお礼を、と思うのですが、どうでしょうか。お礼といっても、夕食をふるまうくらいのことしかできませんが」
彼女は彼に視線を向けて、ぜひお礼買いしたいという雰囲気を出していた。彼はクリスにも言った通り、彼女を助けた覚えはないのだ。だから、彼女の誘いも断ろうと思ったのだが、それを感づいたのか、それともたまたまのタイミングだったのか。クリスが彼に近寄って、彼の手を掴んでいた。そして、上目遣いで母の誘いを受けないのかというような雰囲気で、視線を向けている。彼はその瞳を振り切って断れることができるほど、人の心がないわけがない。彼はクリスの視線に負けて、夕食は彼女たちの世話になることにした。
「そういえば、私の自己紹介がまだでしたね。私はクリスの母のクミハといいます。どうぞ、よろしくお願いします」
またもふわりと笑い自己紹介をする彼女に挨拶を返した。
「夕食まで時間がありますが、この家でゆっくりしていてもいいですし、小さいですけど、村の中を見て回ってきてもらっても構いませんよ」
外の明るさだけ見て現在何時なのかはわからない。少なくとも日中であることはわかるが、細かい時間は全くわからない。
「その、時間ってどうやってわかるんですか?」
彼は少し恥ずかしいとは思いながらも、それを聞かずにこの世界で過ごせるとは思えなかったため、聞くことにした。だが、その彼の質問への回答は驚いてしまった。
「時間ですか? 今は昼過ぎあたりですかね。そろそろ夕方になるとは思いますが」
クミハの言い方では、正確な時間を図る術がないということのように聞こえた。彼の知っている一時間、六十分経過するごとに次の数字になり、時間が経過するという仕組みは少なくともこの村にはないということだろうか。体内時計である程度の時間を図っているだけということなのだろうか。
「その、正確な時間とかってわかりませんか?」
彼女にそう聞いたが、彼の言葉に首をかしげていた。正確な時間という概念を理解できないようで、どういう意味かという視線を向けていた。その視線を彼も理解していて、今の質問に答えが返ってこないことを理解して、今の質問を取り消すことにした。
とにかく、夕食まではそこそこの時間があるというだけは理解したが、何時間後というのがわからない以上は一人で行動して夕食までに戻らないなんてことになれば、クミハ達に申し訳ないことになってしまうだろう。彼は夕食までこの家の中にいた方がいいだろうと考えていた。
「そうだ。メートお兄ちゃん。あたしがこの村を案内してあげる!」
助けてもらったと思っているクリスは既にかなりなついていて、未だに彼の手を握っていた。そして、家の中でじっとしているよりはこの村を案内してもらった方が、この村に滞在しても大丈夫かどうかを見定めるための情報も増えるだろう。排他的な村でなければ、この村を拠点にして異世界での生活を楽しむのも悪くはないかもしれない。
「わかった。じゃあ、案内をお願いするよ」
彼がクリスの提案を了承すると、クリスは彼の手を引いて、家から出ていこうとしていた。
「夕食までには帰ってきてね~」
「わかった! じゃあ、行ってきまーす!」
本当にわかっているのかはわからないが、時間感覚はメートよりもクリスの方がこの世界に慣れているなので、彼女がしっかりクミハの注意をしっかり理解していることを祈るばかりだ。そして、彼女の提案を了承した彼は、彼女の手引きに抵抗するわけもなく、家の外に連れ出された。家の外に出ても特に村の様子は変わらず、彼に好奇の視線を向けてきていた。クリスが手を引いて、家から離れていく。
彼女に手を引かれながら、村の中を紹介してもらう。村の中の建物は二十軒前後。畑は二十世帯を賄えるほどの大きさなのか、かなり大きい。一つの作物だけでなく、いくつか種類があるようだった。おそらく、森の中ではとることができないものなのだろう。村をめぐっている間にカオウに再び会い、警備隊ための建物があるのかと聞いたのだが、警備隊専用の建物はなく、村の中央にある広場で会議等をしているだけらしい。警備を強くする意味も特にないほど長閑な村であるため、そういう建物すら必要にならないようだ。クリスが案内してくれた場所の中で、特に気になったところはそれくらいだった。それ以外の場所は誰かの家というのがほとんどだった。井戸も特に彼の知っている井戸であり、特に変わったところもなかった。そうしている間に時間は過ぎていき、日が傾いていく。