復讐のための旅 1
町の事件もほとんど解決するだろうと、彼女は拠点を出た。リーダーには残るように勧められたが、感謝されたくて行動しているわけではないのだ。彼女はリーダーに還って寝るとだけ言って拠点を出てきていた。ペースも無事であることは確認できていたし、彼女は拠点でやるべきことなど一つもなかったのだ。あの男が連れてきた男児はリーダーに保護されて、すぐにでもあの家族の元に連れていくことになるだろう。彼女はそういった仕事は向いていないことは自覚している。そうなれば、戦いもなくなったあの場所にしてもできることはないのだ。
拠点を出て、空を見ればまだ暗い。あれだけのことがあったのに、まだ夜は明けていない。月は傾いて、既に真上という位置からはかなり離れているが、すぐに夜明けというわけではないはずだ。彼女はそんな空を見上げながら、これからのことを考える。あの男が言っていたバガンドという男がこの世界に来ているというのなら、あの男に復讐するチャンスが生まれたということである。この世界に落ちる前の目標は、バガンドを殺すことだった。この世界に落ちてしまったことで、その目標も達成できないと思っていたのだが、バガンドがこの世界に来ているとなれば、彼女の人生の目標も達成できることになるだろう。そう考えれば、今動かずにいつ動くというのか。彼女はすぐにでも家に帰り、旅の支度をしてこの村を出ていこうと思っていた。
彼女が家に入って最初に思ったのは、家の中が多少荒れているということだった。あの暗殺者と戦っていたせいで、家が多少散らかっていた。だが、彼女は既にそれを気にすることもなく、リュックを取り出していた。彼女の背中に収まる程度のあまり容量のなさそうなリュックだった。彼女はそこに戦闘奴隷時代に配られた薬をガチャガチャと詰めていく。中でこぼれないように布でくるみながら、リュックの中に入れていく。様々な薬があるが、どれも体には毒であるが、かなり強い効力を持つものばかりだ。彼女は戦闘奴隷の時にいくつか使っていたものでもある。今持っているもの以外には何もない。戦闘奴隷として配られたものであるため、戦闘奴隷ではなくなった時から、新たな薬はないのだ。少し使うだけでもかなりの効力があるものも多い。そんな薬を彼女は鞄に詰めていた。そして、砂漠を抜けるなら欠かせない水を入れた入れ物を五本ほどリュックに入れる。それだけ入れれば、もうリュック中には何も入れることが出来なかった。彼女はそのリュックを背負って、家を出た。一応、金銭を入れた袋をポケットの中に入れた。それ以外に特に重要なものを彼女は持っていない。彼女はそれ以外を家の中に放置していた。寝室で準備していた彼女は最後に寝室を振り返る。暗殺者が外した窓枠はそのままで、寝室の窓は開けっぱなしになっていた。そして、寝室の扉を閉じて、他の部屋も見て回る。特に見回っても大切なものは一つもなく、今の家に愛着もない。この世界に落ちてきて、この家を紹介されて使い続けていたが、食事と睡眠をとるくらいにしか使っていなかった。たまに風呂は使っていたが、それ以外の者はほとんど触っていない。ソファやベッドなどもこの家に置いてあったものなのだ。
彼女は玄関に立って、もう一度リビングの方を振り返る。リビングと玄関の間のドアは閉めていないため、リビングの方が見えた。未練がましく振り返ったように見えるかもしれないが、本当に彼女はこの家には未練が全くない。家の中を見たのは最後にまだ水などがあったどうかを考えていただけだ。そして、彼女は食糧庫の食料をそのままにしたままだったことを思い出した。流石に、家に放置し続けていれば、すぐにでも腐るだろう。今余っている食料くらいは持っていくことにした。余っているといっても大した量はなく、節約せずに食べれば、二食分くらいの果物だ。それくらいならまだリュックに入るため、彼女はそれをリュックに入れた。そして、今度こそ、家を出る。暗殺者との戦いの傷跡は残っているものの、次にこの家を使いたいものがいれば使えるだろう。だから、彼女は家には鍵をかけずに、家を出る。
彼女は村を出る前に、村の中を見て回ろうという気もなく、村から出ようとしていた。討伐隊の人に聞いたことがあるのは、南にいけば、砂漠から出ることが出来るということだった。だから、彼女は黄砂の村の南から出ることにした。彼女の家は村の北側にあるため、どうしても村の広場を通ることになるだろう。彼女が村の広場を通ろうとしたところで、広場に誰かがいた。揺れる松明の火に照らされて二人の人物の影が揺れていた。




