悪を許さず 3
寝室の扉を開けて、ドアの端から少しだけ顔を出す。その視線の先には特に何か変わったところはない。寝室が荒らされているような様子はない。しかし、彼女はすぐに部屋の異変に気が付いた。寝室にも窓があり、リビングとは違い、風は通るが中が見えないように組まれた木の枠がはめられているはずなのだが、その窓に木枠が嵌められていなかった。木枠ごと、綺麗にとられているのだ。その木枠がどこにいったのかはわからないが、とにかく自分以外の何かがこの寝室に入ってきたというわけである。既にこの家の中にはいないかもしれないが、全ての場所を見なければ安心はできないだろう。いや、全ての場所を見たとしても、安心できる要素はないだろう。
彼女はマジックガンを構えたまま、寝室の中を周ろうとしていた。彼女の寝室は窓の近くに別途があり、足が向く方向の壁際には両開きのタンスがあった。それ以外には特に何もない。そのタンスの周りにも荒らされた様子はなく、何が目的でこの家に入ったのかわからない。彼女はゆっくりと、死角になっているベッドの奥側を見ようとしていた。その前に、タンスの前を通るため、彼女はタンスの扉を開いた。中に銃口を向けたが、そこに誰かいわけではなかった。そして、すぐにベッドの刺客の方に銃口を向ける。タンスの中を確認するということは、ベッドの死角になっていた場所に背を向けることになるのだ。その隙に、背を向けた彼女に襲い掛かることは簡単なことだろう。彼女もそれをわかっていたから、タンスの中を見つつ、その意識はすぐに背後に移動させていたのだ。しかし、彼女がその方向に銃口を向けても、そこには誰もいなかった。結局は、彼女の知るこの家には彼女以外の誰もいないようだった。そう思ったのだが、最後にベッドに下を確認することにした。入り口から入っても、ベッドの下の全てが見えるわけではない。彼女はゆっくりとベッドの下を見る。そこになにかいるかもしれないと思えば、多少不安を感じるものだが、彼女は既にベッドに下に銃口を向けてその下を確認するだけのことで、不安を感じることはなかった。とにかく、そこに何かいればマジックガンを撃てばいいだけなのだ。
ベッドの下を確認したが、結局はそこには何もいなかった。しかし、彼女はベッドの下を確認するときにしゃがんでいて、その背後から何かが動いた気配を感じた。だから、彼女は気配のする後ろに飛んだ。背後に体当たりをするように跳ぶ。自身の背中が何かにぶつかり、相手も押した感触だけはあった。倒れたかどうかはわからないまま、彼女はさらに横に転がり、マジックガンを相手がいるであろう方向に向けた。そこには誰かが倒れいているのが見えた。
体格からして男性に見えるが、相手の顔は目だけで出している黒装束を着ていた。彼女は相手が誰かも川まずに、マジックガンを放つ。弾丸を何発も相手に向けて発砲したが、相手はベッドの後ろに隠れて、弾丸を回避する。
「何者だ。正体を洗いざらい話すなら、殺しはしない。さっさと出てこい」
彼女は口ではそう言っているが、そもそもこんなことする奴が、自ら自首して正体を離すなんてことはないことだけはわかっていた。そもそも、そこまでの潔さを持っているなら、こんなことせずに生きていけるはずなのだ。
「……さっさと出てこい!」
彼女は多少語気を荒げて、ベッドの後ろの者に声をかけたが、相手が出てくる気配はない。彼女は警戒しながら、ベッドのから離れて、寝室の出入り口の方へと向かおうとしたところで、相手がベッドの後ろから出てきて、彼女に飛び掛かる。その手に握っている者がきらりと閃く。それがナイフだとすぐに気が付いた。やはり、彼女の予想通りに戦闘になってしまった。自身の家の中で戦闘することは避けたいと思っていたのだが、そうもいっていられないかもしれない。寝室だけが戦闘の被害に遭うのであれば、問題ないだろうか。できれば外に出てた高いところだが、家の外に出て相手が付いてくるかどうかはわからない。おそらく、寝室に忍び込んでいたことを考えると、自身を暗殺しようとしていたのだろう。今、目の前にいるものを殺したとしても、意味はないだろう。相手はただ依頼を受けただけで、依頼人が自分を殺そうとしているのだろう。彼女だって表の綺麗な世界だけで生きていたわけではないのだ。それくらいのことは彼女だって理解している。そして、目の前の暗殺者が、この依頼を失敗すれば、簡単に殺されることもわかっている。彼女も同じ境遇であるのだから、理解できて当然だ。そして、当然、目の前の者は死を覚悟して仕事をしているのだということも理解できていた。




