悪を許さず 1
アスターは魔獣討伐隊の拠点の中の椅子に座りながら、ペースの治療を見ていた。彼女の前の前で筋肉質な男性が徐々に死んでいくのは、既に意識の中にない。それはただの床と変わらないのだ。
ペースの治療は順調なのか、ペースの苦しそうな顔は徐々に正常に戻っていく。鎮痛しただけなのか、それとも治療して体が治ってきているのか。彼女にそれを判断する能力は全くないが、とにかく、ペースの様子が落ち着てきていることに心の中で安堵していた。安堵している自分に驚いていたが、それと同時に彼女をこんな様子にしたやつを許せなかった。片方はこうして殺せる予定ではあるが、もう一人も殺さなくてはいけない。あのやせ型の男もいなくなれば、ここらで認識している脅威は魔獣だけに戻るだろう。すぐにでもあの男を見つけに行きたいところではあるが、おそらく今探し回っても、すぐには見つからないだろう。もしかしたら、男一人になったしまったため、しばらくは姿を出さないかもしれない。反対に、逆上してこちらを襲ってくる可能性もある。すぐに姿を出すなら、返り討ちにするだけだが、姿が見えなければ、次の自信の行動を決めることもできない。
「はぁ……」
アスターはため息を吐き出しながら、立ち上がる。そのまま、拠点の扉に手をかけた。
「アスター、どこに行く?」
「帰る。帰って寝る」
アスターを引き留めたのは、リーダーで彼はアスターが何か無茶をするのではないかと考えたからだ。リーダーは適当なように見えて、魔獣討伐隊に参加している人の様子だけはよく見ている。アスターは威圧的な返事もするし、他の魔獣討伐たちのものとも積極的に良好な関係を築こうとするような人ではないが、ペースだけが積極的に話しかけていて、その分アスターがペースに情を映していると感じていた。普段の様子ではあまり他のものと態度は変わらないものの、ペースが困っていたり、ピンチに陥っているような様子であれば、アスターは彼女をよく助けているのだ。些細なことにまで手を貸しているわけではないかもしれないが、彼女が傷つけば、アスターも多少彼女の痛みを感じているように見えたのだ。彼女は他のものの時はその痛みの百分の一も感じていないように見えていた。だからこそ、その痛みを少しでも共有しているとすれば、アスターはペースのことを彼女のなりに考えているのかもしれないと思っていたのだ。そして、もしそうならば、彼女のこんな目に合わせたやつに福州市に行ったとしても不思議はないだろう。だから、リーダーは彼女の声をかけたのだ。だが、振り返る彼女の様子はいつものように見える。いや、いつもよりも疲れているようにも見える。彼女は自身の状態も理解しているだろう。その様子を見たことで、リーダーは彼女の言葉に嘘はないと思った。
リーダーがそれ以上、言葉を出さないとみると、アスターは手をかけたドアを押し開いた。彼女は言葉通りに家のある方の道を通る。そのまま、寄り道することもなく、家の前まで来た。
何が、と説明はできない。しかし、彼女は自身の家に違和感を感じた。実際に匂いがするわけでもないのに、家の中の匂いが何かいつもと違う、そんなような軽い違和感だ。その違和感の正体もわからないが、例え自分の家だとしても、違和感を感じたらそれがどこであろうと、警戒しないわけにはいかない。彼女には右手にマジックガンを構えて、家のドアの横に壁に背を付けた。ドアに耳を付けても中から音がするわけではない。家の中は無音で、どんな音も聞こえてこない。彼女はドアを軽く押した。キィとドアの蝶番が動く音が微かに鳴った。彼女はドアの隙間から顔を出して中を確認する。その隙間から見える視界の中で家の中を確認しても、中には誰もいない。それは当然のことで、彼女は家のドアのカギをかけていたし、それが突破された形跡はない。簡単な構造の鍵であるため、鍵を開けるのは難しくはないかもしれない。それが泥棒であれば、それくらいはできるのだろう。
ドアを押して、勢いよく部屋の中に入る。そのまま、銃を左右に向けて、ドアの隙間からは見えなかった死角もしっかりと確認する。しかし、そこには誰もいない。銃を持ったまま、彼女は家の中をゆっくりと歩く。中に何もいなければ、なんとも滑稽に見えるだろうが、自分の家の中なのだから、他に人はいないと考えて、家の中で殺されたなんて馬鹿な結果を見たくはない。そもそも、彼女が戦闘奴隷の時にも相手の家に侵入して油断しているところで暗殺を実行するという仕事もしてきたのだ。彼女がそういう手法に引っかかることはないだろう。彼女は玄関の近くでマジックガンを構えたまま、家の中を探索することにした。




