行方知れず 5
アスターは倒れた男にゆっくりと近づいていく。銃口を相手に向けながら、相手が少しでも動けば魔法の弾丸を打ち込むつもりだった。しかし、近づいても相手は動く様子はなく、腹部から血を流したまま気絶していた。この男が死のうが知ったことではないと、彼女は考えたが、このまま放置していては村人たちに迷惑だと思い、回収することにした。この死にかけの男をあのやせ型の男が回収しに来ないとも限らない。明らかに人情を気にするようなタイプではないかもしれないが、この男にだけはそういったことを思っていても不思議ではないだろう。
とにかく、まず何よりも先にペースを助けなければいけない。しかし、簡単に動かしていいものかとも思う。体を運ぶのに動かせば、体内の傷がより開いて悪化する可能性もあるだろう。少しでも回復できればいいが、彼女が持っているのは精神を無理やり安定させる毒だけだ。
「うぅ、あ、姐さん……。ごほっごほっ」
ペースが薄く目を開けて、彼女に気が付いた。しかし、その声はかなりか細く、咳をすれば少量の血が地面に飛んでいた。彼女は体を起こそうと上半身を、両手を地面について持ち上げる。その表情は苦悶で、歯を強くかみ合わせているように見える。彼女はその痛みに耐えて上半身を起こして、さらには立ち上がった。しかし、しっかり立てるわけではなく、前傾姿勢で今にも倒れそうなほど弱々しい。歩くこともままならないように見えるが、彼女は両足を引きずりながら前に進んでいた。
「姐さん、うちは大丈夫だから、一人で歩けるから」
気丈にふるまっているものの、その体はどう考えてもボロボロだろう。何度も咳をして、その度に少量であっても血を吐いていれば、大丈夫であるはずがないだろう。アスターは彼女に肩を貸して、すぐにでも討伐隊の拠点に移動したいところだったが、彼女はそうさせてはくれない。
「姐さん。そいつを拠点に運んでくれませんか。うちは、自分のことで精いっぱいなんで……」
アスターは、筋肉質な男を背負うことを決めた。彼女がここまで体を張っているのだから、彼女の意志を汲まなければいけない気がした。
そんなボロボロの状態で、何とか拠点まで辿り着くことができた。拠点の中には、まだリーダーとアカリがいて、建物の中に入ってきた二人を見て、目を大きく見開いていた。アカリはペースの状態をいち早く気づいて、端末を数回タッチしていた。アスターは男を拠点の地面に降ろす。
「ペースさん。ここに寝てください。治療しますから」
アカリの前には一人分のベッドが出現していた。そこにペースを横にさせて、彼女は端末をさらに数回触れる。ベッドの周りに光の平面の円が出現して、その円の中に彼女の体の頭からつま先まで通す。それが終わると、さらに彼女は端末に触れていた。それで治療ができるのだろう。
「この死にかけの筋肉男はなんだ?」
リーダーがアスターに訝し気な視線を向けた。アスターが殺しかけたようにしか見えないが、リーダーはアスターを疑っているわけではなかった。
「行方不明の原因かもしれない。後、もう一人、細い男がいる」
「こいつが原因の一つか。死んで当然だな。だが、情報は引き出さないとな」
「口を割るとは思えない。もう一人の男に回収されると面倒だから、つれてきただけだ。こいつはここで死んでもらう」
アスターは銃口を床に寝かせた男に向けて、今にも発報しそうな勢いだった。彼女がそういう感情を露わにするのは珍しかった。その視線に、リーダーは多少気おされながらも、会話を続ける。
「……随分と、恨んでるみたいだな。まぁ、詮索はしないが。……さて、処遇だが、こいつがどんな奴かは俺が知らないからな。もしかしたら、悪いやつとは限らない。このまま死なせられないってのが、討伐隊リーダーの意見なんだが……」
リーダーがそこで言葉を止めたのは、あまりにアスターが彼のことを睨んでいるからだった。アスターはこの男がどれほど悪いやつかは知っているのだ、生かすという選択は彼女の中にはない。リーダーは勘弁してくれと呟いてから話を続ける。
「まぁ、お前がそういうんだ。こいつは傷の治癒はしない。この事件が解決したら、遠くの砂漠にでも埋めておくか」
リーダーのその言葉を聞いて、アスターはリーダーを睨むのをやめた。リーダーはその視線を外されたことで、ふぅ、と息を吐いていた。その近くで、ベッドに寝かされたペースの治療も進んでいるようだが、アスターはアカリが何をしているのかはわからなかった。必死に端末に触れているようだった。そのまま、彼女に治療を任せるしかなく、アスターは家に帰るでもなく、近くの椅子に座り込んだ。彼女ははぁ、と息を吐き出していた。




