今も平和な黄砂の村 4
「姐さん? 姐さん! 良かった、いた! 今、ここら辺から大きな音が……って、姐さん、撃ったんですかっ? 姐さんに怪我は……なさそうですね。ふぅ」
おそらく、彼女がマジックガンでナイフを撃った音を聞きつけて、ペースはこの路地まで来たのだろう。拳銃を向けてこそいない者の、銃を持っていることで彼女もマジックガンを撃ったのだと理解したのだろう。本当に彼女の心配していたのがわかるほど、息を漏らして、彼女に怪我無いことに安堵していた。しかし、彼女が何者かに襲われたことは、ペースも分かっただろう。本当はアスターから仕掛けたようなものだが、あの男二人を相手にしては、必ずこういうことになっていただろう。早いか遅いかの違いでしかない。
「それにしても何があったんですか? うち、姐さんがいきなりいなくなったから、心配しました。まぁ、姐さんが負けるとは思ってませんが」
「……いや、害獣がいただけだ。今、脅したらどっか行った」
「なら大丈夫ですね、とはなりませんよ。そういう時はうちを呼んでください。一人で戦っちゃだめですよ」
ペースは彼女が心配なだけだが、彼女は誰の心配も必要としていないと思っていた。彼女は手助けしてくれたり、一緒に戦っている人物ではある。しかし、生死を共にするような間柄ではないと彼女は認識していた。そのため、プライベートのことは離さないし、むしろ、仕事の時以外は一緒に過ごすことはほとんどない。村の広場で見かければ、彼女が勝手についてきて、共に買い物をせざるを得ないときはあるが、プライベートでも繋がりはその程度のものだ。
「大丈夫だ。一人で戦える」
彼女にはそういう言い方しかできなかった。それでもペースは彼女を嫌うことはなかった。
「もう、仕方ないですね。じゃあ、切り替えて仕事に行きましょう、姐さんっ!」
アスターは何度もこうして冷たくあしらっているのに、彼女がとも言いてくれる理由を何度も考えていた。相変わらず、本人にその理由を問うことはできていない。だが、この時は口をついて、彼女の意識的な抑制を飛び越えて、その言葉が出た。
「ペース。こうも構うのはなぜだ。言っては何だが、突き放すようなことを言っている自覚はあるんだ。ずっと付き合う必要はないはずだが?」
彼女は自身の口がまるで勝手に動いたような気さえした。しかし、その言葉を発したのも自分の口で、そう思っていたのも彼女自身だ。それを考えれば、今の言葉が自分の者であることは疑えない。
ペースは彼女の言葉を聞いて、首だけ後ろに振り替える。その視線にはどこか温かみを感じるものだった。
「それは、うちにとって姐さんが、尊敬出来て格好いいと思ってるからですよ。そういう言い方も、きっと不器用なだけなんだろうなって。うちがここに落ちてくる前にはそういう人を《《ツンデレ》》とか、《《クーデレ》》って言ったんです。それに、言い方だけが冷たいだけで、姐さんはうちを助けてくれるじゃないですか。だから、うちは、姐さんがどれだけ突き放すようなことを言っても、ずっと一緒にいますよ。姐さんが嫌がっても、ね」
その言葉を聞いて、アスターは安心したような、不安になったような、反発する二つの心があった。しかし、その二つの心の根幹は別々だ。ペースの理由は自分の考えていたこととは正反対のもので安心したというのが一つ。もう一つは、自分が彼女が思っているほどの人物ではないことだ。彼女を助けているつもりはないし、彼女に対しては仕事だけの関係だと考えている部分がほとんどだ。そんな人に慕ってもらえば、罪悪感も感じる。だが、その罪悪感も大したものではなかった。それが彼女の言葉に真摯に向かい合えないと思わせる。
「……そうか」
結局、彼女から聞いたことではあるが、そんな言葉しか返せなかった。彼女の言葉に戸惑って、自分の心にも戸惑っていた。まだ右手に握っている銃をホルスターに戻そうとしたが、何度かホルスターに銃がはまらず、カチャカチャと鳴った。
その後、彼女は討伐隊に顔を出した。そこには数人いるだけだった。タンカはすでになく、全員一度は起きていたらしい。彼女が討伐隊の建物に入ると、リーダーとアカリの視線が向いた。
「アスターさん、ゆっくり休めましたか? 昨日はお疲れ様でした。今日は一応、魔獣討伐隊は休暇、ということにしました。皆さん、あれだけ頑張ってもらいましたから。パトロールは私とリーダーで行っております」
「あれ、そうなんですか? 姐さんとうちも仕事するつもりなんですけど、必要ない感じです?」
「あ、パトロールをしていただけるとなれば、すごく助かりますが……体調等大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。すぐに仕事に行くが?」
「はい、お願いします。とりあえず、今のところ何の報告もありませんので。ただ、昨日の疲れもあるでしょうから、仕事もそこそこにしてくださいね」
彼女はアカリの言葉には返事もせずに、振り返り来たばかりの拠点を後にする。ペースはアカリの言葉に元気に返事をして、アスターの後を追っていった。




